男の子は、寝たふりをする。
少しくらい、見てもいいかな。
俺はもたれ掛かっている身体はそのままに、薄く目を開く。
彼女はいつもより本を上に上げていて、顔が隠れている。
なにをやっているんだろう、これじゃあまり顔が見えない。
顔が見えないのをいいことに、俺がしばらく眺めていると。
「「あっ」」
彼女と目が合って、慌てて開いていた目を閉じる。
身体全体が脈打って、まるで自分の物じゃないみたいだ。
なんで目が合うんだ、本読んでたんじゃないのかよ。
それより、今相手も、「あっ」って言わなかった?
けれど、もう一度目を開ける勇気はなくて、俺は今更な演技を続け、寝たふりを決め込む。
恥ずかしくて、逃げ出したい。
早く駅に着け。
幸い、降りる駅は彼女が先だ。
このまま寝たふりを続けていても、俺は起きる演技まではしなくていい。
しばらくして目的の駅に着いて、彼女は慌てて席を立つ。
彼女が降りた後の席を見ると、本が一冊、置いてあった。
彼女の忘れ物だ。綺麗な小花柄のブックカバーは彼女が愛用しているものだ。
俺は慌てて本を手に取り、閉まりかけのドアからホームに降りる。
「あの、これっ!」
振り向いた彼女は、とても驚いた顔をしていた。