男の子は、恋をしている。
土曜日になると、俺は恋をする。
都会産まれ、都会育ち。
小学生の頃から乗っている、慣れた電車。
田舎に憧れて、大学は田舎を受験してみたりもしたけれど、やりたいことも見つからなくて、結局卒業した後は都会に戻って来てしまった。
目的がなく生きていても、都会では仕事には困らない。
就職した会社はいい人達に囲まれてはいるけれど、お世辞にもホワイトな会社とは言えない。
自分は結局都会の人間なのだろう。
今週も休日出勤している自分に呆れながら座席に深くもたれ掛かる。
とある駅に着き、扉が開く。
あ、来た。
いつもの電車。いつもの車両。いつもの指定席。
彼女は名前も知らない、女の人。
いくつなのかも知らない、名前も知らない。
でも、土曜日の平日よりは空いてるこの電車に毎週必ず、乗って来る。
仕事だろうか。いつもきちんとした格好をしている。
必ず俺の向かいに座ると、本を開き小説を読み始める。
俺は気になっているのがばれないように、寝たふりをする。
これが俺の指定席。
話し掛けたら軽い奴だと思われるよな、やっぱり。
そう思いながら一度もしゃべらず、もうどれくらいの月日が経っただろう。
これって、危ない発想だよな。
俺は彼女に恋をしている。