霊峰
翌日の午後、キミマロに乗った私とジョナマリア。
粛々と霊峰サマルンドに向けて飛び続けていた。
昨晩は無事に宿で一夜を明かした。食事も宿で提供され、大きなトラブルもなく過ごすことが出来てほっとしている。
ただ、唯一、占いを除いて。
どうしても気になってしまった私は、結局あのまま占いをしてもらったのだ。ジョナマリアも特に反対しなかったというのもあり。
目深にかぶったローブで良くわからなかったが、多分老婆の占い師だった。はじめのうちは、良くある内容。コールド・リーディングにたけた占い師のようで、感心して話を聞いていたのだが。途中から、明らかに様子がおかしくなり始めたのだ。
急に張りつめた空気。ピリッとした緊張感。
占い師も、まるでトランス状態のようになり、予言めいた事を言い出したのだ。
「そは世の理を外れし力。理を歪め続けるもの、いずれ訪れるは破滅。災いを喚び、世界にとばりが落ちる」と。
その内容に思わず顔を見合わせる私とジョナマリア。
しかし次の瞬間、そんな雰囲気が霧散する。キョトンとした様子の占い師に、私たちが口々に今のは何だったのかと尋ねた。しかし返ってきたのは、そんなことは言ってないとの一点張り。いくら言っても変わらない返事。
結局らちが明かないと諦めて、私たちはその場を後にしたのだ。
きみまろの背に揺られて、そんな昨晩の事を思い出していた私だが、気を取り直してスマホを取り出す。
──気にはなるけど、どうしようもないしね。さてさて、それより昨日の投稿はどうなったかな……。おっ、なかなかいいね、ついてるじゃん。どうしようかな、ガチャを回すか貯めておくか。
そこで私は目の前に座るジョナマリアの背中に声をかける。
「ジョナマリアさん!」
「はい、何ですか」
振り返り答えてくれるジョナマリア。
「一つ、伺っておきたかったんですが、この後の旅程で、注意するべき点とか、厄介なモンスターとかはいますか?」
「そうですね。私も空の旅は初めてなのでどうなるかわからないのですが、霊峰サマルンドには、鳥型の大型モンスターがいると言われています。ただ、普通に登っている限りは、滅多に姿を表さないので……」とジョナマリアは顎に右手をあて、こてんと首をかしげる。
そんな何気ない動作で苦しくなってしまう自分の胸を懸命に無視して質問を続ける。
「それは、空を飛んでいると襲われる可能性がありますね。普通に登るとどれくらい時間がかかるんですか」
「人の手の入った登山道があって、半日ぐらいですね。このペースだと、夕方に麓には着きそうですので、もし歩いて登るんでしたら明日にしましょう。夜間はレイス系のモンスターが出ます」
私はそこまで聞いて悩む。どんなモンスターでも、焔の民の少女を出せば突破は出来るだろうけど、少なくとも禿山になるのは確実。それにメタモルフォーゼした姿をジョナマリアさんに見せるのも抵抗がかなりある。
キミマロも強いけど、彼女を乗せたままアクロバットな動きをさせたくないし。とすると、遠距離攻撃手段の少ないうちの子達だと不利だ。
ここは大人しくジョナマリアさんの提案通り、明日、歩いて登山にするのが無難か……。
「あ、見えてきました。あれがサマルンドです」
と、私の思考を遮ったジョナマリアの声に顔を上げる。
正面遠方の地平線に、長々とした山脈が見えてきた。




