穏やかな一時
「街があんなに小さい! 鳥になったらこんな世界が見えるんですね」と興奮が抑えられない様子の魔女ジョナマリア。
「風が気持ちいい……」
私たちは今、キミマロに乗って飛び立ったばかり。上空は少し風が強い。私はリザルト画面から毛布を取り出す。
頬を紅潮させ、瞳を輝かせて景色を眺めるジョナマリアにそっと手渡す。
──ジョナマリアさんは、高い所が好きみたいだ。これは、キラキラした瞳が眩しくて直視できないぞ……。
「ありがとうございます。あの、うるさかったですよね」と手渡された毛布を、はおりながら答えるジョナマリア。
「いえ。──それで、どちらの方向に?」言葉少なに事務的な内容に逃げ込む事にする私。
「ああ、ごめんなさい。私ったらすっかり興奮してしまって。夢だったんです、こういうの。方向は、あちらになります」
私が指示する間もなく、ジョナマリアの指した方向に向かって進み始めるキミマロ。
最初はゆっくりと、徐々に速度を上げる。それにつれて、耳元で鳴る風の音も強まり、会話どころの雰囲気ではなくなる。
ほっと息つく私。そっとジョナマリアを窺うと、動く景色に先程よりも心奪われている様子。
抑えきれない興奮に彩られたその表情はいつもより数割り増しで、美しい。
その美しさに、なんだか胸が痛くなってきてしまった私は、強引に視線を絶ちきり、スマホに集中する。
まずはいいねの確認。
この前ヒョガン達の戦闘の様子を投稿してから、写真も動画もろくに投稿していないこともあり、いいねの溜まり具合はいまいち。
──ムキムキ執事のブームも終わった感じ、あるな。なかなか被写体を選ぶのも難しくなってきたよ。こうなってくるとコメント機能が無いのが本当に痛い。一言で良いからコメントつけられたら、だいぶ変わるのに。
と、そこまで考えてちらりと目の前に座るジョナマリアを見る。
しかし、すぐに首をふる。
──だめだめ、いくらいいねのためとはいえ、それはなしでしょ。
そうして飛び続ける。途中途中で、休憩を挟み、日の沈む頃、眼下には湖が見えてきた。
湖畔に町並みが見える。
「まあ、1日で、ナールの街まで着くなんて。クウさん、今日はあちらに泊まりましょう」と声を張り上げるジョナマリア。
相変わらず私の指示を待たずに降下し始めるキミマロ。
私たちは湖畔の街ナールへと降り立った。




