広がる混乱
階段をのぼると、そこはまるで戦場だった。
絶え間なく上がる怒声。
そこかしこに群がる人々。
「本部との連絡、急いでっ!」「ダメです! 繋がりません!」「早馬の準備──」「おい! どうなってんだよ。ちゃんと払えよ!」「少々お待ちください。ただいま対応を協議中で──」
「これはいったい……」喧騒に飲み込まれる私の呟き。
「源泉は冒険者ギルドの基幹を担っている。どれだけ非常事態かわかったら、さっさと行くぞ」とガッソ。
辺りの様子を見て辛そうな表情を浮かべる魔女ジョナマリア。私は周囲と彼女の顔を見比べる。
(これは……。現代的な言い方にするなら、サーバーダウンみたいなことが起きているのか?)
ガッソと魔女ジョナマリアの姿を見つけて、群がるように押し寄せ指示を仰いでくる職員達。それをかきわけるようにして進む。
「依頼は、最優先ランクの物以外は凍結! 他の業務は全て手書きで済ませろ! 緊急時用の予算の準備、急げ。フロンターク! 冒険者対応任せたからな」と、それでも進みながら指示を飛ばすガッソ。
群がっていた職員達も、それを聞き、すぐに作業に取りかかり始める。
どうにか喧騒を抜け、ギルド長の部屋までたどり着く私たち。
扉の向こうでは、ギルド長たる黒猫のシュバルツが翼を広げ、その短いおててを合わせていた。
まるで神に祈りを捧げるかのように。
私たちの入室する音でこちらを向くシュバルツ。
そこにガッソが声をかける。
「ギルド長、連れてきましたよ。どうですか?」
「ダメじゃな。完全に接続が絶たれておる。これは大元の大源泉で何かあったの」と、おててを下に下ろして答える。
「大源泉……」と、圧し殺すように呟く魔女ジョナマリア。何か考えている様子
私は思わず声をかける。
「あの、すいません。私が宝玉を捧げたのって?」
「クウ殿、それは今回の混乱の直接の原因ではないだろうな。まあ、最後の一押しになった可能性はあるがの」とシュバルツが魔女ジョナマリアの方を向く。
「はい。その可能性はあります。何にしても私は大源泉へ向かいます。いえ、向かわせて下さいっ」
「そうじゃの。確かご家族がおったのかな」
「はい、姉たちが……。無事だと良いのですが」
「という訳でな、行ってくれるかな? 飛行する召喚獸持ちの大英雄殿?」と私の方を向いて聞いてくるシュバルツの顔には、見た目猫とは思えない強制があった。




