歪な宝玉
明けましておめでとうございます
高級生食パンとカレーの夕食が終わり、ショウの入れてくれたお茶を飲みながら、私とリスティアはポツリポツリとリスティアが誘拐されてからの事を話していた。
高級生食パンのお味?
もちろん、最高でした。人生で最も美味しい食パンでした。
命がけの後に戦友たるディガー達と食べたと言う、美味しさ補正抜きでも、最強の旨さ。
リスティアも旨さのあまり、言葉が出ない様子だった。
そうして話がヒョガンを倒したくだりになったときに、ディアナがディガーの脇腹をつついているのが視界のすみにうつる。
ディガーがポンっと手を叩いてごそごそしている。そして私に何かを渡してくる。
「それは、宝玉なのか?」と覗き込んだリスティアの訝しげな様子。
「ディガー、これってさっき海に潜った時の?」私がディガーに尋ねると両手で丸印を作るディガー。
私は手のひらの上の宝玉らしき物をまじまじと眺める。それは前に見た紫色の小石とは違い、紫系統の様々な色味の小石がくっついたような歪な形をしていた。
「これって、ヒョガンの? え、でも、人間だったよね」と呟く私の声に答える者は、誰も居なかった。
そんな疑問も増えながら迎えた翌朝。
ショウの作ってくれた朝食を終え、スマホを開きユニット編成を確認する。
キミマロと焔の民の少女の名前のグレーアウトが解除されていた。
(よしっ、呼び出せそう。そういや、ここって前と一日の時間が違うのかな。それともグレーアウトの解除のカウントが一つ一秒じゃなかっただけど……。まあ、わからないことは後でいいか)
私は疑問を脇に置くとキミマロを呼び出す。
初めて見るキミマロの大きさに驚くリスティア。
恐る恐るなその様子に、ちょっと心配になりながら、キミマロの背ビレに掴まりやすいように前にリスティアを乗せると、その後ろからいつでも支えられるように私もキミマロに乗る。
いったんディガー達をスマホへ送還すると、キミマロに出発をお願いする。
ふわりと浮き上がるキミマロ。
「ひゃあっ!」聞いたことのない可愛らしい悲鳴を上げ、リスティアがキミマロの背ビレにしがみつく。
私はとっさにキミマロの動きを止める。そっとリスティアの様子を窺う。
ぎゅっと目をつぶり、ぷるぷると震えながら拳が白くなるほど背ビレを握りしめているリスティア。
私は出来るだけそっと上昇するようにキミマロにお願いする。
私の声に薄目を開けるリスティア。しかし、ちらっと下を見てしまったのか、再びぎゅっと目をつぶる。
(これは、高所恐怖症? 普段は毅然とした様子だけど、年相応の反応なのか……? どちらにしても、見てみぬふりをしといてあげた方が良いよね?)
私はキミマロに、出来るだけ低空を揺れないように移動するようにお願いする。あまりリスティアを見ないように、しかし万が一落ちそうな時はすぐに支えられるよう、気を張りつめる。
行きとは違った緊張感のある、のんびりとした空の旅となった。




