とっておき
「う、ん。……ここは?」
再び鳴るリスティアのお腹の音。
「良かった。無事目が覚めましたね」
「クウ? ああ、また僕はクウに助けてもらったみたいだね」
「まあ、そんな感じです。リスティアを拐った錬金術師はもう、ここにはいませんよ」
「殺したのか?」と、私が濁したことをずばっと切り込んでくるリスティア。
「……ええ、殺しました」
「ありがとう。仇までとってもらったみたいだね」と、拳を握りしめ、絞り出すようにお礼を言うリスティア。
私はそこでようやくリスティアの故郷が襲撃された話を思い出す。
「すいません、生かしておく余裕が……」
「いや、こちらこそ気遣いさせてすまない。僕はまた、まわりに迷惑をかけてしまったみたいだ。それで、サイドワンダー準公爵は無事かい?」と、リスティアは眉尻を下げ不安を覗かせる。
「えっと──」私は必死に記憶をたどる。
──ケイオスと呼ばれていた爆風使いの錬金術師が窓から飛び出して、すぐにスマホに集中してしまってまわりを見ていなかったよ。キミマロを呼び出した時は居なかったよな、準公爵?
記憶があやふやな私。その時、視界のすみでディガー達がリスティアに隠れて腕で大きく丸を作っているのが見える。
「ええ、無事です。さあ、今、食事が出来るから、詳しくは食べてからにしましょう」
そう言っているうちに、うちのシェフたるショウが、鍋の蓋を開ける。一気にカレーの薫りが周囲一帯に充満する。
私は畳み掛けるようにリザルト画面から、とっておきのパンを取り出す。
実は、これはコモンしか出ない食料限定ノーマルガチャ産ではない。
普通のノーマルガチャを回して出たレア物!
「じゃーん!」思わず、もったいぶって出してしまった。
その私の手には、高級生食パン!
前世でも二斤で千円は下らない高級品。当然食べたことない!
いつ食べるかずっと悩んでいたのだ。
そしてそれは、今。リスティアの無事を祝うのに、皆で秘蔵の品を食べようと思う。
特にディガー達三人にはこれまでの慰労も兼ねてね。
私が恭しく高級生食パンをショウに手渡す。
手早くスライスしていくショウ。
その様子を訝しげに眺めるリスティア。
「なんだね、その四角いものは?」
「とっておきの逸品なんです。食べてみてのお楽しみですね」
ショウが渡してくれた皿に入ったカレーと高級生食パンをリスティアに渡した。




