交渉とミルク
室内にシュバルツのミルクをなめるピチョピチョとした音が響く。
私がお茶に口をつけるか考えあぐねていると、見かねたガッソが肩をすくめて大丈夫だとばかりに先に飲み始める。
「じゃあ、頂きますね」
私もカップを傾ける。ミルクの芳醇な香り漂うお茶が鼻孔をくすぐる。他の皆も、思い思いにカップを傾けている。
シュバルツの立てるピチャピチャという音が止むのにあわせて、姿勢を正すガッソ達。
私もシュバルツの方を向く。
「さてさて、それではまずはお礼を言わねばの。スタンピードからこの街を救ってくれたこと、感謝する」
そういって、座ったまま、一度大きく翼を広げ、次に広げていた翼をゆっくりと閉じるシュバルツ。
「クウ、あれは翼猫族の感謝の表示だ」とガッソが補足する。
「あ、ああ。そうなんですね。感謝は受けとりました。」
「うむ、それでじゃ。これは報奨を渡さねばならない案件なのじゃが、ぶっちゃるとのう、現物での支給は厳しいのじゃ」
と首を項垂れる黒猫。
「なにぶん、エント達の素材もバンブーキングの宝珠も、ことごとく燃え尽きてしまって、灰も残っておらんしのー」
ちらっとこちらを見る黒猫。
「しかもしかも、倒壊した街の建物を再建するにも、一番手近な森は全焼。それどころかすっかり焦土と化しているしの。何処から資材を調達するのか、頭の痛い問題でのー」
また、ちらちらと、こちらを見る黒猫。
私はその様子を見て、どうやら人と人としての交渉の余地がありそうだと安心する。
(最悪のパターンじゃなかった。危険分子として問答無用で殺しに来るとか。スキルか魔法で隷属させてくるとか。そういう、本当に最悪の場合は焔の民の少女に街も人も全てを焼き払ってもらわなきゃいけなくなるかも、と思っていたけど。杞憂で良かった)
私は苦笑して答える。
「それは大変なんですねー。で、現物ではない報奨を頂けると?」
「そうなんじゃよ。いやはや、クウ殿は話の早い御仁で助かるの」
「何を頂けるんですか?」
「逆に聞いてみたくてのー。圧倒的な武力を持ち、非常に希少なポーションを大量に用意できるような御仁は、何を望むかの?」
と、シュバルツは黒猫特有のすまし顔で、聞いてくる。
(ふむ、少なくとも私の街での行動は全て筒抜けってことですか。さて、何が良いかな。何もいらないってのも個人的にはあと腐れなくて悪くはないんだけど。この場合は無用に警戒されるから逆に悪手か。……無難なところだと、情報とかか。今さっき、情報収集能力を誇ったぐらいだし、シュバルツもそこらへんを落とし所にしたいのかもな……)
そこまで考えて、一番大切な事に気がつく。
「あ、それじゃあ動画を撮らせてください。」と、いつの間にか再びふわふわと浮いていたシュバルツに、私は自らの要求を伝えてみた。




