戦いへ
私たちが地上に戻ると、投石は終わっていた。かわりに、明らかに戦争をしていると思える音がここまで響いてくる。
周りは、人でごった返していた。
なけなしの荷物を背負い、子供の手を固く握った家族連れが多い。
どうやら、城壁の外からの避難民のようだ。皆一様に強ばった表情。
緊張と不安が能面のように顔に張り付いて、ぴりぴりした重たい空気が漂う。
通りを行く私たちの姿を、皆、ぎょっとして見てくる。どうやら、ゴブリンがエントの死骸を運ぶ姿が、刺激的過ぎるようだ。
なんだか危うい雰囲気を感じる。
私はガチャのリザルト画面からフードつきマントを三枚取り出し、ディガー達に顔を隠すように着て、と手渡す。
そして同じく毛布を取り出し、エントの死骸にかける。
少し、やわらいだ周囲からの視線にこっそり胸を撫で下ろして冒険者ギルドへと向かう。
その途中で、点々と負傷者が寝かされている場所を通りかかる。
どうやら、城壁の方の戦闘から運ばれてきた負傷者達のようだ。
ムッと漂う血の香りにやられながらよくみると、回復が間に合っていない様子。
私は一番近くにいて、手を赤く染めて必死に働いている女性に、声をかける。そしてガチャのリザルト画面からありったけのポーションを出すと告げる。
「冒険者のクウです! 依頼で回復薬を届けに来ました! 次の届け先があるのでこれでっ」
そしてそのまま、勢いで押しきると、その場を離れる。
離れ際に、女性が自身の腕を浅く切ってポーションを垂らしている姿が映る。
(こう言っておけば不自然じゃないかと思ったけど、やっぱり怪しまれたちゃったか。それでも、怪しみながらもちゃんと検証を最短の手順で行うあの女性は、相当出来るな)
そんなことを考えて進んでいるとと、人混みをかき分けこちらへやってくるガッソの姿が。
「クウかっ! 見つけたか?」
私はディガー達に合図して担架を下ろしてもらうと、無言でエントプリンスの死骸からマントをはぎ取る。
「これは……」そう呟きながら、膝をついてエントプリンスの死骸を細かく観察しているガッソ。
「もしかして、エントプリンスか……。くそっ、最悪だ。これじゃあ、スタンピードは止まらないじゃないか……」と、拳を地面に叩きつける。
「戦況はどうなんですか、ガッソさん」
「あ、ああ。かなり悪い。被害が甚大だ。守備隊が主体となって防衛に当たっているが、何せエントだ。騎馬突撃の効果が薄いからな。」
(確かに林に馬で突っ込むとか、自殺行為だよな。)とそんなことを考えながらガッソの話しに耳を傾ける。
「冒険者の方はもともと集団戦闘向きじゃないってのもある。それに、何より一体強敵が出てきたと報告があった。城壁はもう、持たんだろう……」しかし、そう告げるガッソの瞳は、その言葉とは裏腹に、まだ諦めていないことを如実に示していた。
私は、その言葉を聞き、ガッソの様子を見て決意する。
スマホを握りしめ、決意を込めてガッソに告げる。
「ガッソさん、私たちも、戦います」
そして、いいねがついに10000を越えているのを確認する。私はスマホの事がばれようが構うものかと、プレミアユニットガチャを回した。




