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異界の魔王

 闇の竜を、元居た無へと還したばかりの私へ迫る、濃縮された闇。

 異界の魔王の手によって叩きつけられようとしているそれを、私はひょいっと取り上げる。

 異界の魔王の纏う、闇ごと。まとめて。


 身にまとう闇を剥ぎ取られ、たたらを踏み、ぺたりと座り込む魔王。


 私は魔王から取り上げた、無数の蟲で満ちた闇を見る。


「ああ。すぐに、還れるからね」


 その闇の中へ、ズブズブと私は両手を沈めていく。闇の中にある一つ一つの特異点をさぐるために。

 私は指先から焔を伸ばす。それを無数に分岐させ、細い細い焔の糸とする。

 糸の先に当たる、無数の蟲たち。異界の住人である彼らを、()()()()労るようにして。

 この世界へと束縛するくさびから、存在の苦痛から、解き放っていく。


 闇に、焔が満ちる。


 闇の竜にしてあげたように。その闇も、もといた場所へと還っていった。


 残されたのは、彼女ただ一人。

 私のガチャの犠牲者たる彼女に、私は手を伸ばす。

 焔と水を纏わせた手を。


 こちらを見つめてくる、静謐(せいひつ)な瞳。先程まで焦りを見せていたとは思えない彼女に問い掛ける。


「貴女も還してあげられる。さあ、手を」


 異界の魔王は、私の伸ばしたのとは逆の手に握られたスマホへとその瞳を向ける。

 スマホをハッキングした彼女には、どうやらお見通しらしい。

 ガチャアプリによってこの世界に召喚されくびきを打たれた彼女の存在を解き放つための対価。彼女──異界の魔王を元居た場所に還してあげるには、このスマホを犠牲にしないといけないことに。


 その彼女の視線に込められた質問に私は手を差し出すことで答える。


「さあ、手を。受け取って欲しい。私のせめてもの贖罪を」


 座り込んだままの彼女が、手を伸ばす。

 しかしその手は私の伸ばした手を払いのけ。

 スマホを奪い取ろうと飛び掛かってくる異界の魔王。


 その瞳は闇に墜ち、憎悪に染まっている。

 この世界への。

 神の理への。

 そして、私への。


 地面に押し倒され、ギリギリと私のスマホを持つ手を握りつぶさんと力を込める異界の魔王。

 その体が、闇へと変化していく。

 その闇が、膨らむ。

 中性的だった顔立ちからは、口吻が伸び、触角が生え。その瞳は複眼となって顔面を半分覆う。

 私の腕を締め付ける手は、指が溶け合い、三本爪の硬い外骨格の前肢と化す。


 私は拒絶された謝罪を握りつぶすと、覚悟を決める。彼女を滅ぼす、覚悟を。






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