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強制的に転生

 目の前には、迫り来る無数のモンスター達。私の背後には、ここ数週間暮らした街が。街の守備隊も奮戦しているが、敵の圧倒的な物量に、今にも呑み込まれてしまいそうだ。


 「これで、ユニット限定プレミアムガチャを回せるの最後っ! 頼む、いいユニット出てください!」


 私はスマホのガチャアプリを拝むようにしてポチっと押す。

 次の瞬間、画面にはガチャのカプセルが表示される。それは、私の願いが届いたのか虹色に輝いていた。

 私は一度だけ会ったことのある身勝手な神に、この時ばかりは感謝の念を抱いた。


 ~数週間前~


 気がつくと、私は真っ白な空間に浮かんでいた。

 どこからともなく、男とも女ともわからない声がする。


「えー。何々。享年35歳、死因は働きすぎによる寝不足で階段から足を滑らせ転落。打ち所が悪くて頸椎損傷。……地味だ。ふむふむ。趣味はスマホゲームね。まあ、これは無難なとこだね。」


 声の出所を探すが、誰も見えない。


 私はこちらから問いかけようと、口を開ける。いや、開けようとするのだが、そこで初めて自分の体が無いことに気がつく。

 当然、声など出ない。


 そんな私の様子に構わず、声が話し続けてくる。


「よし、お前を異世界に転生させることにした。特別に、加護を授けよう。ついでにお前の趣味のスマホゲームに似せて、スマホでガチャも出来るように弄っておくか。転生特典というやつだ。感謝してもいいぞ。」


 色々と聞き捨てならないフレーズに、必死に返事をしようとするが、私の努力も虚しく、そのまま意識は強制的に暗転してしまう。


「良き異世界生活を。投稿に励めよ。」


 そう、最後に声が聞こえた。


 ◇◆


 さわさわと、顔をくすぐられる感触。

 私はガバッと体を起こした。


 そこは一面の草原であった。


「どこっ、ここっ!? えっ、いったいなにが……」


 私は先程までの白い空間のことを思い出しながら呟く。


「一度死んじゃったのか……。」


 私は手で自分の体を叩いて確認する。


「体はある。良かったー。あんな体験、もうこりごりだわ。言いたい放題言ってたよな、あの声。あれの言ってた事が本当なら、ここは異世界、なのか?」


 そのまま再び、今度はゆっくりと自分の体を確かめる。痛い所などはないが、服は粗末な感じの麻っぽい物に変わっていた。


 空いた手でそっと自分の顔に触れる。

 触り慣れた形。


「あれ、名前何だっけ。」


 私は必死に自分のことを思い出そうとするが、頭の中に霞がかかったかのようで、はっきりしない。

 それから、色々と思い出そうと努力して、わかったことがある。

 記憶、特に、個人情報と言われる類いのものが曖昧になっているみたいだ。

 家族のことも、家族が居たのかも、思い出せない。非正規の仕事と、足りない稼ぎを補うためにバイトに次ぐバイトをしていた記憶はある。


(それだけ働かなきゃいけなかったってことは、家族はいた? いや、少し思い出してきたぞ、スマホゲームに課金するためにお金が必要だったのか。)


 そのまま草の上に座り込んでしまう。


(それで働きすぎて朦朧として階段から転落死って。何やってんだろな。でも、ガチャのためならそれも仕方ないか。)


 うららかな陽気に風が気持ちよい。


 しばらく現実逃避をした果てに、はっと気づく。


 「スマホ、どこだろ?」


 辺りを見回し、無事に草の上に落ちているのを発見する。

 急いで拾い上げたスマホの電源を入れてみる。


 光るディスプレイ。


「あ、ついた。良かった、取り敢えず電源はつくと。」


 私は急いで中身を確認していく。

 スマホの画面にアプリが3つだけ、並んでいた。


「あれ、このアプリ3つ、だけ? 設定画面にも行けないし、データも一切……。もしかして、このアプリしか使えないようにされた?」


 私は独り言を言いながら、スマホを色々操作してみる。結局他の操作は、一切受け付けてくれなかった。突然のことに、うっすらと涙すら滲んでくる。自分が死んだと聞いたときは、どうにも非現実感しかなかったというのに。


「……仕方ない。アプリ、開いてみるか。」


 私は落ち込む気持ちを無理に奮い立たせ、スマホの画面の一番左の人影マークのアイコンをタッチする。


「このアイコンだと、電話帳かな?」


 アプリが起動すると、すっと画面が切り替わり、文字が出てきた。


 ◇ステータス◇

 《ネーム》 なし

 《アプリ》 ステータス ガチャlv1 投稿lv1

 《加護》  投稿神の祝福


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「うぉぉー。ステータス!? これは、もしかして、私のステータス!?」


 地の底にいたテンションがうなぎ登りに上がって、思わず声が大きくなる。


「どれどれ……」


 短いそれを、私は何度も読み返す。


「……取り敢えず《アプリ》から見ていくか。」


 試しにアプリの所をタッチすると、表示が変わる。


『ステータス:ステータスが確認できる』


「まあ、そのまんまだね。説明になってない気が凄いする。」


私は諦めて次の所をタッチする。


『ガチャlv1:ガチャポイントを使い、ガチャを引くことが出来る。ログインボーナス1日1ポイント』


「ほぉ、なるほどほるほど。これは、良いものかもしれない。」


 私はガチャlv1の説明を見て唸る。


「これは本当にガチャ、そのままみたいだけど。肝心なことは何もわからないか。ログインボーナスがあっても、ガチャが何ポイントで引けるかわからないし。何が出るかも全くわからん。これは実際やってみるしかないパターンかな。」


 私は検証をひとまず諦めて、次の投稿lv1の所をタッチする。

 また説明文が表示される。


『投稿lv1:1日に1度、写真を1枚、投稿可。いいねの数をガチャポイントに変換することが出来る。』


「これは何かSNSみたいなものに投稿するのかな。写真を1枚だけってめっちゃ縛りがきつくない? 文字はダメなのかな。それだけでいいねを稼げと。無理ゲーの香りがする。」


 私はそこで1度空を見上げる。

 澄みきった大気。

 二つならんだ太陽が眩しい。


「はぁ。まあレベル表示があるから、きっとレベルアップしたら縛りが緩くなることに期待しとこう。」


 私は最後に投稿神の加護をタッチする。


『投稿神の祝福:投稿アプリが使用可能になる。』


「う、うーん。これは。例の声は、確かにガチャは出来るようにしておくと言ってたから、投稿アプリはこの投稿神の祝福のおかげなのか。これも、無いよりはマシだけど、どうせならもっとチートなものが良かったよ。祝福って言うぐらいだしさ。確実なのは、あの声は投稿神とやらの声だったって事か。」


 私は先程までの白い空間での出来事を思い出しながら独り言を呟く。


「私が転生させられた理由はわからないけど、取り敢えず投稿しろってあの声も言ってたし、色々投稿してみるか。」


 私はキョロキョロする。


 変わらず辺り一面草だらけ。


「ば、ばえない……」


 思わず天を仰ぐ。


「太陽が二つあるのは凄いけど、何の機材も無いから撮影、無理だろ。」


 そこで私はあることに気がつく。


「あれ、どうやって撮影するんだろう。ステータスにカメラアプリ、なかったよね?」


 悩んだ私は投稿はいったん保留にし、取り敢えずガチャから試してみることにした。



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