一年間と白と黒
俺が作った目玉焼きに箸を入れる真知は、俺を一瞬見てから俯く。
「…覚えていらっしゃいますか?」
「ん?何が?」
真知の言葉に首を傾げると、真知がカレンダーを見てから俺を見た。
「今日は4月23日です」
「そうだよ、結婚記念日。おめでとう俺ら」
そう言うと、真知は照れながら頷く。俺の誕生日から13日後の今日は結婚記念日だ。どちらかの誕生日な訳でもなくジューンブライドな訳でもなく、ただ急いで結婚しただけの俺らだったけど、何となく日にちは覚えていたし、真知も覚えていたようだ。
記念日なんてほとんど気にした事はなかったけど、結婚記念日はさすがに忘れないというか、多分真知より覚えていた。そんな真意を悟られないように、俺は平然と口を開く。
「結婚記念日だから、出掛けるか、」
「え、」
「最近どこも行ってねーじゃん。ずっと近所で買い物ふらついたりするだけじゃん。今日くらい出掛けよ?休みだし」
笑うと、真知が頷いた。第一関門はクリアした。隠れて小さく溜め息をつきつつ、早めに出ような、と言うと、真知は少し食べる速度を上げる。
大丈夫かな、俺。さっきからひっきりなしにケータイが光っているけど、サイレントマナーモードにして放置している。真知にはバレていない筈だ。
真知は俺が早く出ると言ったから飯に夢中で俺に見向きもしない。味噌汁を食って食器をキッチンの流しに置くと、ケータイを開いた。
全部メール。迷惑メール並みに大量に届くそれの中身は見なかった。何が書いてあるのかは見なくても分かるし、どうでもいい。
真知と二人でさっさと準備を済ませて家を出て、ジープに乗り込んだ。迷いもなく車を走らせる俺に、真知は黙っている。真知が文句を言わなくて、人が多い所に出掛けたがらない女で心底良かったと思った。
俺が勝手に行くと言ったら付いてくるような女だから、行き先を告げなくても真知は気にしない。車の中で流れているのは相変わらずPay money To my Painのアルバム。口数が少ない真知は興味深そうに外を見ている。
いつもなら俺が適当に話してるけど、俺にそんな余裕は一切なかった。一ヶ月半の努力が今日で全部終わる。いい終わりか悪い終わりかは、全部俺にかかっていた。
目的地について駐車場に車を停めると、真知が慌てて俺を見る。
「っ、ここ、」
「はい、真知さん早く降りて」
「え、あ、だって、」
「早く」
促すように言うと、目を丸くさせる真知が車を降りて、俺も降りた。車の鍵を閉めていると真知が走り寄ってくる。真っ青な空には雲一つ浮かんでいない。見事に快晴で良かった。
目の前にあるのは教会。人気とか綺麗とかなんとかプランナーのお姉さんに言われて決めたそこを見ながら、真知は俺のパーカーの裾を掴む。
「え、あの、なんで、」
明らかに慌てた様子の真知が面白くて笑うと、真知が俺のパーカーを引っ張ってくる。伸びる。
言葉を発しようとしているのか真知が口をパクパクと動かすけど全く声は出ていない。真知の手を引いて歩き出すと、真知は俺を凝視してくるから、仕方なく言う。
「思い出がプリクラだけってなんか寂しいじゃん?結婚したんだから写真くらい撮ろうな」
な?と納得させるように言うと、真知は躊躇いながらも頷いた。
上手い具合に引っ掛かってくれた真知に安心しながら、中に入る。すぐに黒いスーツを着たプランナーのお姉さん(名字の漢字が難しすぎて読めなくて名前言われたけど読み方が難しくて忘れた俺は最低)がいた。
おはようございます、なんて挨拶を交わしながら歩いていくと、衣装部屋がある。その入口で真知の手を離すと、真知が俺を見上げた。
言おうとしている事は何となく分かったから、真知の頭に手を置いてドレスが置いてある部屋の中を指差す。
「自分で好きなの選んでいいよ?」
「え、あの、俊喜は?」
「俺は別だから、お姉さんついてるからお姉さんに聞いて」
いつもより化粧濃いめのお姉さんを見て言うと、お姉さんが真知に笑う。
「はい、何でも仰ってくださいね?」
どうぞ、と真知は別のお姉さんに手を引かれて中に通される。真知は軽く挙動不審になっていた。大丈夫か、あいつ。すると、お姉さんに肩をしつこく叩かれた。地味に痛い。
「緒方さん、お嫁さん、写真よりも実物の方が可愛いじゃない」
「あー、そうかも」
一ヶ月半前に見せた写真はプリクラの画像だけだった。お姉さんがいきなり叫びだしてギャルじゃなかったんだ!と言われたのを思い出す。相手がギャルだと思われるのはどうしてなんだ。
お人形さんみたーい、と小声で言うお姉さんは何故かタメ口で、俺もタメ口。俺より10歳も年上だし、タメ口の方が楽だから気にしない。
「可愛いー美人ー」
と眉を下げながら真知を見られてウザい。お姉さんがふと俺と真知を見比べるから、顔を背けた。絶対面倒臭い事を言われる。
「結婚一年目だっけ?雰囲気全然違うけどお似合いね?美男美女って中々いないわよ?」
「それはドーモ」
褒め言葉は受け取っておいた。緒方さんはお隣の部屋で、と言いつつ真知の後を追おうとしたお姉さんの腕を掴む。首を傾げたお姉さんに声を抑えて言った。
「あのさ、前も言ったけど、あいつ、潔癖症じゃないんだけど、自分が使った後のものとか気にするから、そういう類いの事言われたら最後は消毒するとか言っといて」
「うん、分かってる」
「あと、腕な?左腕の傷はマジでエグいし本人すげー気にしてるから、腕見ないようにしてやって。腕までの着替えは一人でやらせちゃっていいから、隠れそうなの勧めてやって?」
面倒臭い女だけど、仕方がない。お姉さんが聞き洩らさないように真剣に聞いてくれているのが分かったから、最後に口を開く。
「あいつ、笑えないけど自覚してないから、笑えとか言わないで。頼むから」
これは何よりも重要な事だった。頷いたお姉さんから手を離すと、お姉さんが俺を見上げて笑う。
「緒方さんの希望も聞いとこうか?ドレスの色とか」
「えー、…白がいいけど、あいつに好きなの選ばせてやってよ」
苦笑いで言うと、お姉さんが俺の腕を肘でつついて、お嫁さんには優しいんだ?と言われた。
「俺いつも優しいじゃん」
鼻で笑いながら冗談を溢すと、お姉さんが吹き出す。なんだよこの女、と思ったけど世話になった事は事実だから何も言えない。
「顔に似合わず優しいよねー?ガラ悪すぎて担当になるの嫌だったもん」
「俺の扱い酷くない?」
失礼なプランナーだ。こっちは年下だけど客なのに言い方が辛辣過ぎる。すいません、と平謝りされて舌打ちを打つと、まあ、とお姉さんが続ける。
「お嫁さんは私に任せて、準備してきなさい」
お姉さんの笑顔の命令口調に促されて、隣の部屋に入った。なんだあの女。最初から思ってたけど、どう考えても俺の扱いが酷すぎる。
着替えてスタイリストの兄ちゃんに髪をやってもらってから、昨日の夜に先に持ってきておいた真知の両親の遺影を持って部屋を出た。
真知には写真くらい、と言ったけど、嘘。今日は結婚式だ。一ヶ月半前から影でこそこそ準備した、披露宴も何もない結婚式。
披露宴はスライドショーを勧められたから、やらないと言った。真知の思い出は辛すぎるから今日くらい全部忘れればいいと思う。
キャンドルと間接照明の灯りのみの式場の中に入ると、呼んだ人間が勢揃いしていた。
一番前の列に座るお袋は金髪を纏めて黒留め袖。髪のセット代からレンタルと着付け代まで俺が出すという最悪の事態が発生したけど、お袋にケータイ代以外の金を払った事がなかったから別にいい。
お袋の隣には親父の遺影が置かれている。黒枠の中で呑気に笑っている親父から目を離すと、お袋が俺を上から下まで見て苦笑いした。
「あんたタキシードでもホストになるんだ」
「黙れクソババア」
「やんのかクソガキ」
軽く冷戦状態に入ったけど、遅れながらも俺の存在に気付いたド派手なミニワンピ姿のナミが叫び始めた事で終わる。
「俊喜がホスト再び!」
「うるせーよ!」
ナミにそう吐き捨てて、通路を挟んだ方の誰も座っていない一列目に真知の両親の遺影を置いた。遺影なのは悲しいけど、二人が生きていたらこんな日は来なかった。
悲しいのか嬉しいのかよく分からない感情を振り払うように遺影から目を離す。友達が大半を占める式場に、血縁者はお袋だけ。あともう一人は真知が入ってくる扉の向こうにいる。
ナミとタエと沙也加が連写並みに写真を撮ってくるのが心底ウザい。逃げるように竜さんとタマさんとポチさんに挨拶をした。やっぱりヤクザは式場でもヤクザで、浮いていた。
要や清春達後輩連中に挨拶されて適当に答えながら、その他に矢田さんと豊橋さん、職場の親方(時夫の親父さん)等の親父の周辺、中野先輩等の先輩一同に挨拶をしてから時夫達の席に行こうとすると、誰かに腕を掴まれる。
その方を見ると、目を見開いた池谷。その隣に沢田がいた。
「んだよ、」
「おま、さっき、元総理大臣、遺影、あれ、」
沢田と池谷が同時に吃りながら単語しか話さないからほとんど内容が理解できないけど、この中で唯一世間を知っていそうな二人が言いたい事は理解した。
真知の身内の事だろう。だからそれを肯定する。
「うん、そういう事」
「おま、嫁さん、あれっ、だから、」
「うん、そういう事」
池谷の手を振り払って、所定の位置らしい通路に立った。すぐ側にはスーツ姿の悟と久人と時夫。悟は俺を見上げて笑う。
「俊喜、白のタキシード着るのかと思ってたけど黒なんだ?」
「白は試着したけど胡散臭く見えたからやめた」
事実だけを言って、扉の方を見た。騒がしい式場に溜め息をつきながら、悟達が座る二列目の背凭れの端に寄り掛かる。
持たされた白い手袋には意味があるんだろうか。邪魔くさい。悟の膝にそれを落とすと、悟は俺にカメラを見せてくる。
「このカメラ、知らないじいさんに渡されたんだよ?まっちの事を撮れって言われたんだけど、どっかで見た事あるんだよね、」
「ああ、それな、真知の実の祖父。じいさんだろどうせ」
俺がそう返した時、式場に曲がかかる。クラシックとかよく分からないけど、じいさんに聞いた真知がガキの頃に好きだった曲らしい。式場に指定したのは俺だけど、名前は長すぎて忘れた。
式場にいる人間が一斉に扉の方を見る。俺は体勢を正す事なく扉を見た。あの扉の向こうにいる真知は、これを見てどんな反応をするのだろうか。
扉が開かれて、じいさんと腕を組んだ白いウェディングドレス姿の真知が弾かれたように頭を上げる。ベールに遮られて顔は見えないけど、式場の中を見渡しているのは分かった。
予想以上に真知は綺麗で、俺はガラにもなく泣きそうになる。
「ねぇ俊喜、俺やっぱりあのじいさん見た事ある気がする」
沙也加周辺の真知の女友達の派手な軍団が叫びながら写真を撮るシャッターの音の隙間で聞こえた悟の声に、俺はやっと決心がついた気がした。慌てる真知を見ながら、ぼんやりと口を開く。
「あのじいさん、元総理大臣」
「え、」
「前に警察署でシュンの所のインテリメガネが言ってたの覚えてるか?真知の実の父親は元大物政治家だ。ライバルの政治家殺して自殺しちまったから、今はもうこの世にいないけど」
悟を見て言うと、悟が目を見開いた。悟のただならぬ雰囲気に気付いた久人と時夫も俺を見る。
「真知は政治家の娘で、元総理大臣の孫。親戚に茶道の家元があるとか言ってたけど、そこら辺はよくわかんねー。両親が死んでも親戚の銀行の重役の家で育った生粋のお嬢様だよ。色々あって頭おかしくなってるから俺と結婚したようなもんで、普通に生きてたら、あいつは俺を選んでなかったと思う」
「俊喜、」
「ごめんな、今まで言えなくてごめん。でもあいつはもう俺と結婚したせいで庶民だから、今まで通りにしてやって。全部知らないふりして笑ってやって」
俺の口から全てを言ったのは、お袋だけだ。決心がついても言えるのはここまでで、洗脳の事は話せない。三人が泣きそうになりながら笑って、多分俺もそんな顔をしていた。
「じゃあこれから、ちゃんと幸せにしてやれよ」
時夫から言われたそれに、笑うしかなかった。俺はあいつと二人なら不幸でも良かったけど、幸せにしたい気持ちの方が遥かに上回っていた。
誰かが幸せなら自分も幸せ、なんて誰かが言っていた言葉は、偽善だと思っていた。でもそんな事はない。俺はあいつが楽しそうにしてると楽しくなるし、あいつが幸せだと思った時は俺も幸せなんだと思う。
「まっち!超可愛いよ!」
久人がいつものように叫んだのを聞いて、目頭が熱くなる。悟に手袋を差し出されて、受け取った。
「俊喜、ごめんね。頑張ってたね」
「は?」
「話してくれてありがとう」
笑う悟が扉の方を指差す。その方を見ると、ゆっくり真知とじいさんが俺に向かって歩いてきていた。じいさんは既に号泣していて、真知は周りを見渡している。
騒ぐ女軍団がうるさいけど、でも、ベールの向こうの真知の目と、目が合った気がした。
「真知超可愛いー」
真知を見ながら笑って言うと、久人と時夫が奇声を発する。響く式場では鼓膜が破れそうになるけど、俺の鼓膜は辛うじて無事だった。
真知が俺の声に微かに肩を揺らしたのが見えて、真知は言葉に弱い事を改めて思い知る。誰かの一言は大きい。そんな当たり前の事を俺に教えた本人だから、俺は真知に植え付けるようにどろどろにとろけた本音を口にするしかない。
真知とじいさんが俺の所に辿り着いて、じいさんが俺を見てから席に向けて歩いていく。じいさんが涙を拭くために懐から出したハンカチは、いつかの俺があげたハンカチ。素直じゃない義理の祖父だと呆れた。
ベールのせいで遠くからじゃ視線までは見えなかったけど、真知の顔を覗き込んだらベールの向こうの目と視線が絡まる。
「可愛いじゃん、俺も絶対白がいいと思ってた」
白いレースの長袖のドレスは真知の左腕をうまい具合に隠していた。広がる裾を踏まないように足を動かすと、真知の声が降ってくる。
「写真だけじゃなかったのですか?」
足元に落ちていた視線を上げると、真知が俺の顔を見ている。その顔があまりにも泣きそうだから笑った。
「うん、まあこんな感じ」
手袋を持っている方の手で式場を示すように手を振ると、真知が俯く。
「…聞いていません」
「何が?」
「結婚式だなんて、聞いていません」
小さく呟かれたそれは震えていた。ブーケが微かに揺れる事が真知の手までが震えていることを示していた。
「だって言ってねーもん」
当たり前のように言うと、真知が顔を上げる。きっと真知は俺に結婚式をやるだけの金がないと思っていたんだろう。金はなかったから事実だけど、作れたんだからこの世ってうまい具合に出来ている。
真知が一人で泣いた代償だと、気付かれなければいいと思った。気付かれたくない。俺がホストとして働いて稼いだ金で結婚式をした事を真面目な真知が気付いたら、怒るだろう。
この事だけは周りはいくら知っていようと口止めして、墓場まで持っていこうと思う。
真意を探ろうとするように俺の顔を見てくる真知の目から涙が溢れるのが見えたから、立ち上がって真知に腕を出す。腕を組むように促すと、真知は俺の腕に恐る恐る手を置いて、手まで滑らせてきた。
いつもとはお互いの位置が逆だけど、真知はいつものように指と指を絡ませてくる。腕を組むより手を取られた。
「お前超我が儘じゃん」
笑いながらそう言っても、真知は涙を溢しながら手を離さなかった。こんな我が儘ならいつでも聞いてやるのに、と思いながらどちらともなく歩き出した。
真知があまりにも泣くから、俺はずっと笑っていた。ふとお袋を見ると、お袋は号泣していた。どんな時も俺の前では絶対に泣かなかったお袋が、まっちと煩く嗚咽を溢しながら泣いていて若干引いたけど嬉しく思う。
お袋は泣かない事が強い訳じゃないと分かったのかもしれない。ただの金髪クソババアが流す涙が嬉し泣きの涙だった事は、俺の救いだった。
外国人のじいさんの前に立つと、片言の日本語で何かを長々と話されたけどほとんど聞いていなかった。
理由はじいさんの目が青いからだ。ハーフの知り合いもクォーターの先輩もいるけど、目が真っ青な人はいない。カラコンじゃない天然の青さがやけに綺麗に見えて観察するようにじっと見ていると、じいさんに顔を赤らめられた。なんかごめんなさい。
結婚指輪を事前に真知に外して貰うとなると怪しまれると思ったから、指輪の交換はない。
ただじいさんに、誓いますかと聞かれたから誓いますとだけ言っておく。神がどうのとか俺はよく分からないけど、まずいるのかいないのかも分からないような奴に誓うよりも、確かに存在している自分自身に誓わないと意味がないと思う。
俺はもうとっくに誓ってるから確認されても困った。まあ、じいさんに誓ったという事にしておく。じいさんは目が尋常じゃなく綺麗だからきっといい奴だと勝手に決め付けた。
真知が誓いますと言うと、外国人のじいさんに誓いのキスをしろ的な要求をされた。それは俺がじいさんにキスする訳でも、真知がじいさんにキスする訳でもなく、俺と真知がキスしろという要求。
「写真撮るから30秒くらいお願いします!」
沙也加の馬鹿でかい声が聞こえて、笑いながら真知と向き合った。繋いでいた手を離してベールを捲ってやると、化粧をした真知がまだ泣いている。どれだけ泣くんだ、この女、と思いながら口を開いた。
「お前まだ泣いてんの?いい加減泣き止めよ、そろそろ化粧落ちるだろ」
「だって、」
「だって?」
俺が続きを催促するように首を傾げると真知がまた涙を溢す。ここまで来ても俺に涙を拭わせる真知は本気で小悪魔だった。真知はヒールの靴を履いているのかいつもより背は高いけど、当然俺より低い。
いつものように涙を拭いてやると真知がしゃっくりをする。
「う、ひっ、う、ウェディングドレス、と結婚式、全人類の中でっいちば、好きな人と、っ…夢で、した」
もう泣きすぎて何を言っているのかも少々理解し難いけど、多分、全人類の中で一番好きな人と結婚式をやるのが夢だったと言いたいんだと思う。
普通、世界で一番とかじゃねーの?全人類なのか?確かに人間としか結婚はできないけど、真知の頭の構造は俺には分からない。疑問は浮かぶけど、真知の言い回しが面白くて笑う。
「お前さ、俺の事は全人類の中で一番好きじゃねーのかよ」
気になって聞くと、真知はしゃっくりを堪えながら言った。
「俊喜は全動物類の中で一番なんですっ」
「あっそ、じゃあ俺もそうする」
全人類から全動物類という事は幅が広くなったのかもしれない。変な言い方をする真知だけど俺の事が大好きらしいという事は伝わった。全動物類の中で一番好きという意味不明の告白に同意すると、真知が首を横に振った。
「や、やっぱり世界、あ、銀河、や、あの、宇宙で、お願いします」
「あーはいはい、じゃあ俺もそうする」
段々規模が大きくなって動物を越えていったけど悪い事じゃないから同意する。前から分かってたけど変な女。俺が知っている中で一番変な女の真知は、俺を見て言う。
「小さい頃の夢だったんですっ、結婚式」
「うん、知ってた」
そう言った瞬間に目を見開いた真知の涙は、再び制御不能なものになる。ひっきりなしに流れる涙がいつかと重なった。今思えば真知は感情がすぐに涙に変換されるから、泣いた回数なんてもう数え切れない。どこかと重なって当たり前だ。
拭っても拭っても止まらない涙を止めるのは、今までで一番至難の業だった。こんなに泣かれたのは初めてかもしれない。
「もう泣くなよ馬鹿」
「っ、俊喜の方が馬鹿ですっ」
「知ってるから、もう黙ろうな?」
真知が口を噤んだのを確認しながら真知の首に手を回す。いつもは髪が指に絡まるけど、髪をアップにしているせいかそれがなくて少し物足りなかった。
真知から視線を離して式場をみると、全員がカメラをスタンバイしていて全力で引いた。こんな大量のカメラを向けられる事は今まで無かったから正直ビビったけど、沙也加に聞く。
「沙也加、30秒だっけ?」
「イエス!」
沙也加から視線を逸らして真知を見た。涙で潤む茶色い目に笑う。
「30秒だって」
真知が視線を泳がせようとするのを視線で止めると、視線が絡まる。唇を近付けると、ほぼ同時に目を伏せた。重なった唇は化粧のせいでいつもの感触とは少し違ったけど、悪くない。
一斉にシャッター音が鳴り始めて、結婚式の恐ろしさを知った。キスの瞬間をこれだけ多くの人間に見られるのは、紳士で好青年で純情の俺には苦しすぎた。
「俊喜!角度変えて!」
タエの怒鳴り声に黙って顔の角度を変えながら真知の首を撫でる。いつまで経ってもシャッター音が止まないから笑いそうになる。
「真知!俊喜の首に手回して!」
どれだけのバリエーションを撮ろうと思っているのかは定かではないけど、ナミの怒鳴り声が半端じゃない。真知は恐る恐る俺の首に腕を回してきて、後頭部にブーケが当たる。
唇を合わせただけの長いキスを強いられる辛さを思い知った。細い腰に手を回して引き寄せたけど、この状況、なんなんだよ。
式場の人間の指図を受けようとしない人間ばかりが揃った事がこの悲劇の始まりだったのかもしれない。唇を離すと、真知の涙はすっかり引っ込んでいたけど、代わりに顔が真っ赤だった。
「こんなに長くするものなんですか、」
「いいんじゃね?」
と言うと、真知が俺から手を離した。
その後、ライスシャワーでおめでとーみたいな生ぬるい雰囲気になる筈なのに、本気の女が欲しくても出来ない時夫の歪んだ部分が覚醒して、罵声と一緒に俺に花びらを投げてきた。それが原因で、俺と時夫によるただの花びらの投げ付け合いに一瞬で変貌を遂げる。
結婚式でまで喧嘩に発展し、殴り合いにまではならなかったけど、俺と時夫は花まみれになるしかなかった。まるで俺と時夫の結婚式的な感じになってしまって最悪だったけど、プランナーのお姉さんから緒方さんらしくていいんじゃないの?なんて言われた。俺ってどんな感じ?
ブーケトスをすると、真知の友達(ナミ達繋がり)の清楚系ビッチ女が清楚とは言い難い野太い声でエリートと叫びながらブーケを恐ろしい形相でゲットした。結婚したい女の必死さを目の当たりにした。俺とタメなのになんでだ。
初めて顔を合わせたじいさんとお袋が世間話をしている後ろについていって控え室に戻ってソファーに座ると、真知が慌ててケータイを取り出して俺を見た。
「何?」
「しゃ、写真を撮らせてください」
「俺の?」
頷く真知の手からケータイを取って、ソファーの隣に座らせる。俺の写真なんて撮っても意味がないから二人で撮った方がいいと思ってケータイを開こうと手をかけた、時。
「あ、駄目!」
真知がケータイを必死に閉じようとしてくる。俺の手からケータイを奪おうとするから絶対何かがある筈だ。
「なんで駄目なんだよ」
「え、だって、あの、」
「浮気?」
「違いますっ、お願い、開かないでっ」
お願いに少しぐらついたけど、無理矢理ケータイを開いて、絶句。待受画面が俺の寝顔だった。反射的に真知を見ると、真知は顔を真っ赤にして俯く。
「だから駄目って、言ったのに、…盗撮をしてしまい申し訳ありませんでした」
たったこれだけの事で消えそうな声を出す真知に頭を下げられて、画面をもう一度見た。何度見ても俺でしかなく、画面の中の俺は熟睡していた。
いつも絶対俺の方が遅く寝て早く起きるから真知には寝顔なんてほとんど見せた事がない筈なのに、どうしてだ。最近のものだと思わせるそれに、前に休みの日に飲んで帰ってきて昼過ぎまで寝ていて真知に起こされた事をようやく思い出した。
「いや、いいけど、なんで寝顔?」
写真くらい言ってくれたら撮らせてやるのに。今思えば、俺は真知のケータイを開いた事さえなかった。束縛してるけどケータイの中を見るという行為に全く興味が無い。
真知は俺のこんな写真を待受にしていたくらいだから、真知も俺を信頼はしているんだと思う。でもなんでよりによって寝顔なんだ。
「……無防備で可愛かったから…、撮ってしまいました……気が付いたら手が…悪い事をしたことは反省しています…」
ごめんなさい、と続けた真知は重大な事件を犯してしまったとでも言うように、さっきとはうって変わって顔面蒼白だった。
でも、そしたら俺も悪い事をしたのかもしれない。ポケットに突っ込んでいたケータイを真知に渡した。真知が俺を見るから、顎で促す。
「開けてみ?」
真知は恐る恐る俺のケータイを開いた。
「俺も無防備で可愛かったから撮った、ごめんなさい」
そう言うと、真知が一気に顔を赤くする。俺の待受も真知の寝顔だった。俺の唯一の特権は寝顔が見られる事くらいだから、気が付いたら撮って待受にしていた代物だった。
なんか、お互い馬鹿で気持ち悪い。遅れた新婚が駄々もれで気持ち悪い。
気持ち悪さを払拭するように真知のケータイを開いて、カメラを起動させる。
真知の肩に腕を回して引き寄せてインカメラに笑った。高校生だった頃に同じような事をしたけど、真知と俺の距離は物凄く遠かった記憶がある。
真知の頭に横から頭をぶつけて攻撃すると真知がカメラを見る。画面の中に映る俺と真知は、あの頃よりも老けたかもしれない。決定ボタンを押すと時間が止まる。無表情の真知と笑う俺は対称的だった。
「俺のケータイに送っといて」
「はい」
真知にケータイを渡してネクタイを緩める。画面を見つめる真知の目からまた涙が溢れるのが見えたけど、その真意は分からない。でも一つだけ理解したのは、何百万も出して結婚式をしても真知は笑わないという事だけだ。
それでもいいと思う俺は馬鹿だ。いつか無表情の真知の写真を笑いながら二人で見れたらいい。お互いがじいさんばあさんになっても、笑顔でまた結婚式でもやって、二人で笑えばそれでチャラになる。
また貯金しないと、と思っていると、じいさんから妙な袋をご祝儀だと渡された。束になった福沢諭吉が三人。こんなに要らないと突っぱねたけど、じいさんが気持ちだと言うから受け取った。
これは使わないで何かの為に取っておこう。金持ちの金銭感覚は束の諭吉三人を気持ちだと言えるらしい。怖い。
記念撮影やら何やらをして着替えて式場を出た。じいさんはまたベンツの迎えが来ていて、お袋もそれに乗って帰っていく。
朝来たのに、気が付けばもう午後3時を過ぎていた。でもどこにも行かずにこのまま帰るのにはあまりにも味気がないから、真知が行きたい所に連れていく事にした。
真知は珍しく横浜に行きたいというから、横浜に行った。小さい頃に両親とよく来ていたとか。俺も横浜にはしばらく来ていなかったから久しぶりだった。
真知は買い物をする気は無いらしい。山下公園でボーッとしていると、真知が鳥の構造とか何故かクジラの構造とか難しい事を話し出した挙げ句、最終的には何故自分の足が遅いのか分析して話始めて勝手に凹んだから笑った。
真知はケータイを開く度に顔を赤くするからなんだと思ったら、さっき二人で撮った写真が待受だった。馬鹿女だったけど、俺も待受にしたから何とも言えない。
その後は、適当に飯を食って、暗くなったから観覧車に乗るという青春的な過ごし方をした。真知は人生で初観覧車だとか言ってビビっていて、観覧車の中ではずっと半泣き。
観覧車の中でキスを迫ってくるような女よりもずっと面倒臭いけど見ていて面白かった。
甘い雰囲気なんてものは一切なく、ただふざけていただけで終わった一日だったけど、いい日だった。
真知は沢山泣いて疲れていたのか、帰りの車の中ではずっと寝ていた。俺は銀行に少し寄ってじいさんから貰ったご祝儀を預け入れたり、牛乳を買ってないのを思い出してコンビニに寄ったりしていたけど、一回寝たら起きない真知はずっとぐっすりと眠っていた。
アパートに着いたのは夜の9時過ぎ。寝起きの悪い真知を無理矢理起こして車を降りる。真知の両親の遺影やご祝儀、牛乳まで持った俺が車の鍵を閉めて歩き出すと、寝ぼけた真知が背中から抱き付いてきた。
細くて白い指が黒いパーカーを背景にすると際立つ。両手が塞がっていて手を握ってやる事はできないけど、結婚指輪が光るからそれだけで十分だった。
「としき」
「んー?」
「今日はありがとうございました」
「おう、どういたしまして」
笑いながらそう返すと、真知の力が強まる。
「本当は、最初は怖かったんです。二年前、俊喜と初めて話した日、席替えがあって、俊喜の隣の席になったのが嫌だったんです」
「何それ」
「…ずっと見てたので、隣の席なら俊喜をもう見れないんだなぁって、悲しくなりました。観察なんて私のような者が気持ち悪い事をしてごめんなさい」
何言ってんの、と言うと、真知はごめんなさいと小さく呟く。
「俊喜と初めて話した日、本当は泣きたかったんです。俊喜は周りから怖い人だとか言われていたけど優しくしてくれて、申し訳なくて、本当は、もう話しかけないでって、言いたかったけど、私、我が儘だから言えなくて、…あの時言わなきゃいけませんでしたね」
「馬鹿、何言ってんだお前は、」
「私は、ただ、俊喜が笑う理由が知りたくて、気が付いたら、もう戻れませんでした。私は俊喜の笑顔を汚す全てのものが嫌いです、あの頃からずっと、俊喜の笑顔を汚す全てのものから、貴方を守りたかったから、私自身の事も嫌いでした」
笑えない女に笑顔を守られる俺は最低な男なのかもしれない。
真知の震える声に、返事は出来なかった。真知の言い方は、真知の存在が俺を汚すと言っているように聞こえて、苦しい。
「でも、俊喜が私を好きだと言ってくれるから、私も、私を少しだけ好きになれました」
「そっか、良かった」
俺の言葉で真知が真知を好きになれるのなら、口にするのが恥ずかしくても、腐るほど言葉にしようと思った。言って伝わるのなら、躊躇う必要もない。
「本当に、貴方は私でいいんですか、」
「うん、まあ、俺はお前がいいかな、」
小さい変化に、真知は気付いただろうか。真知は、だから嫌なの、と泣きそうな声で言って、力を強める。
「だから、俊喜は卑怯なんですよ、そうやって何でもないみたいに、言い換えたりしてっ、…そろそろ私、自惚れますよ」
「勝手に自惚れろよ。お前が俺で我慢するなら愛してやっから」
暗闇の中で、アパートの駐車場で、部屋まで後五歩も歩けば着くのに、こんな所で突っ立って愛の言葉を溢す俺を抱き締める張本人は、俺のパーカーを掴んだ。
「っ、俊喜がいいっ、」
「あっそ、」
「俊喜がいいですっ、好きですっ、大好きっ」
なんでよりによって俺みたいな馬鹿の庶民を選んだのか、全く分からない。でも結局理由なんて後付けに過ぎないから、要らない。真知が俺を選んでよかった。
「うん、俺も大好き」
そう言ってドアに向かって歩き出すと、真知は抱き付いたままついてくる。ドアの前に着いたけど、俺は両手が塞がっているせいで鍵が取れない。
「真知、俺のジーンズの左ポケットに鍵入ってるから取って鍵開けて」
「っはい、」
真知が俺の脇の下から顔を出して、ポケットを漁る。真知はまた泣いていたけど頑張って堪えてるようだから何も言わなかった。
鍵を開けて、真知を中に入れてから俺も中に入る。床に遺影と牛乳を置いてから、鍵を閉めた。スニーカーを脱ごうとする真知の体を自分の方に向けさせて、驚いた顔をする真知の口を封じた。
「っん、」
狭い玄関で暗闇の中で無茶苦茶にするキスをして、この先があるかと言ったらそうじゃない。自分を自分で煽って、俺は何がしたいのか自分でもよく理解はしていないけど、もうどうでもいい。キスで発散できるなら、できるだけすればいい。
細い体を引き寄せて後頭部を押さえる。真知は爪先立ちだろうけど、関係ない。真知の首に引っ掛かるネックレスのチェーンを指に絡めると、真知が俺の肩に手を置いた。
何回すれば俺は満足して、飽きるんだろう。真知の唇に飽きる気配が一切ない俺に答えてくれる真知も、恐る恐る俺の唇を啄み始めるから慣れるのはいい事だと思える。
少し前まで触れるのが精一杯だった真知の成長は、俺を幸せにするものでしかない。頭が完全に熱くなる前に唇を離すと、真知が口に溜まったどちらのものかも分からない唾液を俺から目を逸らして飲み込んだ。
俺の唾液が真知の喉を通ると思うと余計に制御が利かなくなる気がして、慌てて顔を背けた。
暗いと駄目だと思って玄関の電気を付けると、真っ赤な顔の真知と目が合って、思いきり視線を逸らされた。ああ、悲しい俺。
靴を脱ぐ真知に牛乳冷蔵庫に入れといてと言うと、真知は牛乳を持って早々と部屋の中に入っていく。さっきまであんなに俺にベタベタくっついてきた癖に。薄情者!と心の中で裏声で叫ぶと余りの気持ち悪さに吐き気がした。
吐き気を振り払うようにポストを見ると、何通か手紙が来ていた。一つ目はショップの割引のハガキ、二つ目は電気屋からの割引のハガキ、三つ目は黒い封筒に入った手紙だった。
送り主は書いていない。表をひっくり返すと、『緒方俊喜様』と何の変哲もない明朝体の文字が白いシールの上に並んでしていて、それが封筒に貼られていた。
クラブとかどこかからだろうか。少し重量と厚みのあるそれには、手紙には必ずあるはずの何かが足りない。送り主は勿論、後一つ、何かが足りない気がする。
その正体を掴めないまま、ブーツを脱ぎながら糊付けされただけの封筒を開いた。中には束になった白い、封筒とほぼ同じサイズの紙が入っている。
束ごと取り出すと、束の裏面を触った人差し指が貼り付くような感覚がする。写真やパソコンでプリントアウトしたようなハガキを触った時と同じような特有の感触。
裏返すと、コンビニの前でビールを飲む作業着姿の俺がいた。心臓が嫌な音を立て始めて、写真を一つずつ確認していく。
真知と手を繋いでいる後ろ姿、仕事中の写真、前に働いていたホストクラブから出てくる所や入っていく所の写真、警察署から出てくる所など、時系列はバラバラだけど全ての写真に俺が写っていた。
尾行が最終段階に入ったとでもいうようなそれに、じわりと背中に汗が吹き出るような感覚がした。
でも唯一、真知が一人の写真がない事が救いだった。いつも真知は俺が写っている時に写っているから、真知は狙われてはいない。ピントは気持ち悪いくらいに俺に合わせてある。
真知と手を繋いで歩く俺を撮っているのは全部同じアングルで後ろの景色から推測すると同じ場所。位置的には真知を実家まで送る道の途中にある居酒屋とラーメン屋の間にある雑居ビルから撮られたとしか考えられない。
その雑居ビルを張ってこれを撮った人間を割り出そうと一瞬頭に過ったけど、こんなものを送り付けてくるくらいだからきっともうこの雑居ビルは使わないだろう。俺が地元に詳しいという事を分かっているのなら、もう場所は移動した筈だ。
明日も、真知と俺は揃って仕事は休み。明後日からこの道を使っていいものだろうか。
「俊喜?どうされましたか?」
リビングから聞こえてきた真知の声に顔を上げると、真知が首を傾げてこっちを見ている。それに笑いながら、封筒に写真をしまった。
「っいや、なんでもない」
言えねーよ、こんなの。知らない奴に追いかけ回されて盗撮されて写真が届きましたなんて、言えない。さっきまであんなに幸せだったのに、こんな最悪な事は言えない。
幸せと不幸は紙一重だ。
真知はそうですか?と言っていつもの位置に座る。真知を視界に入れながら封筒をひっくり返して、やっとこの手紙に足りないものに気付いた。切手が貼られていない。
直接この家のポストに入れにきたという事は確実だった。俺に恨みを持っている人間は誰だ。ぐるぐると考えるけど、今思えば俺は平和主義だけど昔は喧嘩ばかりしていたから、敵なんて腐るほどいたのだ。
昔病院送りにした奴か、それとも元カノの中の誰かの元彼か。大体俺の元カノは彼氏がいたのに俺と付き合って彼氏と別れたような女ばっかりだったのだ。
ぼんやりと頭に浮かぶ顔と名前を一致させるように次々と上がるそれに終わりはない。
こんな事されたって、相手が分からないからどうしようもない。俺に何をしろと言うんだ。理由も目的もサッパリ分からない。
でも俺は、封筒をパーカーのフロントポケットに突っ込んで真知に笑うしかなかった。俺はどうなっても自業自得だから、真知だけを守れればいい。




