酔った勢いでの異世界生活①
俺は佐々木大輔30歳だ。高校時代から色々なバイトをしまくり、高校を卒業してすぐに就職をしたが、仕事内容に嫌気がさし、転職を繰り返して、現在はリフレッシュの為休職中だ。ニートでは断じてない。休職中なのだ。高卒で就職できる仕事などまともな仕事ではない。様々な理不尽に耐え兼ねて転職しまくる。家庭が貧しかった事もあり、大学は初めからあきらめていた。家族に仕送りしながらボロアパートで一人暮らしをしていたが、親に「もう仕送りはしないでいいから好きに生きなさい」と言われて、現在は何とか自由気ままに生活している。昔から先の見えない貧乏暮らしで彼女を作る気にはなれず一人で生きていくと決めていた。
そして、今日は久々に昔からの友人と4人で飲み会だ。エリート街道まっしぐらな聡志と、すれ違う男が必ず振り返る美香と、美香によく懐いていたちょっとオタク趣味の裕子だ。昔は全員でよく遊んだのだが、最近疎遠になりかけていた所に今回の飲み会だ。俺の周りの女性と言えば昔から美香と裕子だけだ。断わっておくが俺は決してモテない人種ではない。養う自信が無いし、つもりもないから一人でいるのだ。経済力の無い俺としてはそれでいいやと思っていた。まぁ、健全な男としてどうなんだ?と聞かれれば悩むところだが。早々に待ち合わせ場所の居酒屋に30分前に着いた俺は「4名で後から来ます」と店員に告げ、テーブル席に案内された。
とりあえず、一人で先に飲むのもアレだなと思い、コーラと枝豆を頼んで携帯を眺めていたら「大輔おひさ~」と明るい声で美香が声をかけてきた。相変わらず店内の男性の視線をくぎ付けにしてたりする…。「おぉ、美香、久しぶり。相変わらず元気そうだな」俺がそうやって美香を見ながら声をかけると「ん、大輔、久しぶりに会った女性に声かけるならもっと気の利いたセリフ言ってもいいんじゃないかな?」と軽く睨んできた。「でも俺が、美香は相変わらず美人だなとか言ったら、うわっ!大輔にそんなセリフ似合わないって言うか引くわ~!とか言うんだろ」と俺が言うとフフフと軽く笑って「ん、今回はそれでいいや」と言って美香も店員さんにコーラを頼んだ。
「っていうか美香一人?てっきり裕子と一緒に来るのかと思ってた」俺がそう言うと、「裕子とは最近はあんまり会えないんだよね。それに時間30分前行動する大輔の事知ってるし」と美香は答えた。なるほど、全員疎遠になりかけてたって事だろう。因みに俺も入れて4人全員独身な訳だが、聡志と美香はいつでも結婚できるだろうと思っていたので、その辺りどうなのだろうと気になったので美香に訊ねてみた「美香って結婚する気って無いの?普通に引く手あまたって感じがするんだけど?」俺が20代前半と言われても納得してしまいそうな美貌を持った美香にそう聞くと、軽い微笑みを浮かべながら「え、大輔もらってくれるの?」と怪しい目つきで見つめていた。
「いやいや、俺は一人で生きるので精いっぱいです。っていうか、そんなセリフ軽はずみに言うなっていつも言ってるだろ。変な男に付け回されるぞ」と睨み返すと「軽はずみじゃないっていつも言ってるのに信じないんだよね大輔は。私って結構稼ぎあるんだよね実は。私の眼力から見て大輔は、経済力を除いて満点なんだけど、大輔だったら養ってあげるって言ったらどうする?」美香が怪しい笑みを続けながらそんな事を言う。普通の男なら、美香の美貌でそんなセリフを言われたらドギマギしてしまう事だろう。だが俺は違う。「はいはい、美香さんや。そんなセリフは俺以外には絶対言うなよ。本気で勘違いされて後悔することになるからな」と言ってやった。
その会話が途切れたところで「2人ともお待たせ~早いねまだ10分前だよ」と裕子がやってきた。後ろには聡志も居る。「おぉ、裕子に聡志も久しぶり。2人とも元気そうで何よりだ」と俺が2人に挨拶すると「2人とも早すぎるし・・・」と美香が呟いてるのが聞こえた。まだ俺をからかうつもりだったのだろうか?そして4人で軽く挨拶を交わして席に着いた。「大輔って相変わらずお洒落だよな」ビシッとしたスーツを着こなしてる聡志が普段着の俺に向ってそう言った。俺の私服は過去に働いた事のあるショップの店員さんスタイルだ。転職を繰り返してはいるが、どんな仕事もまじめに取り組む主義の俺は当時はファッション雑誌を買いあさり流行には敏感だった。そのショップ店員を辞めた後でも無難な服装を常に心がけている。
「聡志がそれを言うのはどうなのかな~?」と美香が言った。「うんうん、聡志はそういうやつだ。私だったら大輔のカッコの方が一緒に歩くのに安心だけど、どっちがオシャレかって聞かれたら普通に聡志でしょ」と続けて裕子が言う。それを聞いた聡志はバツが悪そうに「2人とも大輔に気があるのか?なんか褒めたのに叩かれてるんだが」と言ってこちらを見た。「え?聡志も気づいてなかったの?」と美香が聡志の方を見て言うと、聡志が美香を驚いた表情で見ていた。「ハイハイ、美香さんのお得意のジョークを真に受けない。とりあえず初めはみんなビールでいいよね。店員さ~ん!生ビール4つで~」と俺が言うと店員さんは直ぐに生ビールのジョッキを持ってきてくれた。
「まじか・・・ん、、まあ言いたいことは山ほどあるが、とりあえず4人の再会を祝して乾杯~」と聡志が号令をかけ、全員でジョッキを合わせて乾杯した。「で、いつからなんだ美香?」「ずっとだよ~。中学の初めから。信じられる?」と聡志と美香が会話を始めている。そこに裕子が割り込んで「美香はモテてたから他の男に声かけまくられてたからね~。バレンタインとかでも、チョコをあげたら噂になるとか、あげた人に絶対嫌がらせする人が出てくるとか言って絶対あげなかったし。2人で遊ぶと妬まれて嫌がらせされるとか言って、いつも私も一緒だったしね。聡志も心当たりあるでしょ?」俺抜きで会話が始まった為、俺もすかさず乱入する「そういえば、俺って美香と裕子とは割と仲が良かったと自覚してたんだけど、一度もバレンタインチョコって貰った事なかったなぁ」俺がそう言うと、「おい、美香!こいつにちゃんと言っていいか?」と聡志が美香に言うと、「言ったら聡志とは絶交だから!」と美香が聡志を凄い目つきで睨んでいた。
2人の会話の雰囲気が恐ろしかったので、俺は小声で裕子に話しかけた「聡志と美香ってお似合いだと思ってたんだけど意外と仲悪かったのかなぁ?」俺がそう言うと裕子も小声で「それ絶対、美香に言ったら駄目だよ。はぁ・・・大輔って自分を下げて見過ぎなんだよね」と言った。下げるも何も、昔から極貧生活で現在無職の俺がどうやって自信を持てと?と思いながら「それが、聡志と美香がお似合いって言うのと何の関係が?」と言うと「はぁ・・・もういいです」と呆れたように裕子が言った。そして意味が解らず首をかしげていると裕子が話題を変えてきた「まぁ、そのことはいいや。大輔って昔からゲーム好きだったでしょ。EEWって知ってる?」と目を輝かせて聞いてきた。
EEW・・・エレガントエレメンタルワールド最近出たばかりのVRMMORPGだ。プレイヤーの自由度が高く。農民生活や商人生活もできたり、普通のRPGのように魔物退治もできたりする。魔王を倒す。とかの目的のあるRPGではなく、その世界でどのように生活するのもプレイヤー次第と言うゲームだ。そして実は俺はこのゲームにはまっていたりもする。「知ってるって言うかはまってるよ。普通に火の妖精連れて戦士やってるよ。ソロでキメラ程度なら倒せるようになったよ」俺がそう言うと「嘘!キメラに勝てるの?って言うかソロで!凄すぎるんだけど・・・」と裕子が思わず大きい声で話し出すと聡志と美香もこちらの話に加わってきた。
「何?EEWの話?俺もやってるよ。商人プレイだけど」と聡志が言う。続いて美香も「私もやってるよ~。裕子に誘われて始めたばかりだけど風妖精連れた魔術師だよ」と言った。「なんだ、皆やってたんだ。俺達4人で昔はよくゲームやったよね~。懐かしいなぁ」俺が昔を思い出しながらそう言うと「やったね~。大輔がリーダーで私がサポート役で、聡志が変なプレイにはまって、裕子が暴走してて」と美香が言うと「変なプレイって!」「暴走って!」と聡志と裕子が声をそろえた。そしてこの話は思いのほか盛り上がり、追加のお酒を頼みながら全員で熱く語り合っていた。そして皆酔いも回りそろそろお開きにしようとの事で居酒屋を出た。
「大輔は~もう少し女心って物を解らないと駄目だぞ~。むかしから成長しなさすぎだぞ~。いつまで待てばいいんだ。む~」と、美香が少し酔って赤くなった顔でこちらを見つめながら言ってきた。「だから美香さん。そんな事言われると勘違いしちゃうでしょ。まぁ、俺なら言われなれてるから平気だけど他の飢えてる男にそんな事言ったら襲われちゃうよ」俺がそう言うと聡志は「信じられねぇ・・・」と呟き、裕子は「中学時代からずっとこうだったんだよ」と聡志に言っていた。「いい加減・・・泣くぞ」と美香は立ち止まり、潤んだ瞳で俺の事を見ていた「美香?」俺が立ち止まってこちらを見ている美香に近づき声をかけると本当に美香は涙を流した。
「おいおい、どうしたんだよ美香。美香って泣き上戸だったのか?話なら俺がいくらでも聞いてやるから泣き止めって」俺がそうやって声をかけると「話最後まで聞いた事なんて一度もないくせに!ずっとずっとず~~と思ってるのに何で気がつかないの?なんでいつもかわすの?なんでまともに向き合ってくれないの?嫌いとか迷惑なら言ってくれれば諦められたのに・・・。彼女でも作ったら諦めたのに。もう無理だよ!ずっと優しくて、いつも必要な時に駆けつけてくれて、いつも私の傍らに居たくせに・・・。何年待ったと思ってるの?もう嫌いになんてなれないよ!私はあなたが好きです。美香は大輔が好きです。中学の頃からず~~~っとあなただけを見てました。もう30歳なのに男性を知りません。30歳で処女って魔法使いになれるのかなぁ?もし魔法が使えるなら私は16歳に戻ってEEWの世界に行きたいな。風の妖精さん。私の願いを聞き届けてよ。もう耐えられないよ。こんなに・・・好きなのに・・・」
早口に美香はそう言った。俺は美香の告白に衝撃を受けていた。中学時代から美香が好きなのは聡志だと思い込んでいたからだ「美香が俺の事を好き・・・?」俺は口に出しながら美香の事を見つめていた。聡志と裕子も美香の事を見ていた。そして突然俺たち4人の足元に魔法陣のようなものが浮かんだ。「おいおい、なんだよこれ!」「ま・・ほう・・・じん?」聡志と裕子がそう言ったのと同時に辺りの景色が消え去り俺の意識は薄れていった。