第三章 過去の記憶
その日は早朝から人が集まっていた。工藤から情報が集まったという連絡があったからだ。
「報告始めるぞ。裃高次、年齢29歳、両親はともになし。三歳下の妹がいたが交通事故死してる。
その事故だが、朝来と、後藤覚えてるだろ?」
その問いかけに二人はうーんとうなったが鹿川がハッとした。
「一年前の銀行強盗犯の追跡中に起こったあれか・・・」
その発言に後藤も思い出したようで顔をゆがませた。
*
[富士銀行北城山支店より非常回線が作動、付近の各移動は至急急行してください。]
[こちら富士185、富士銀行城山支店より逃走する車を発見停止命令を聞かず現在も逃走中。
ナンバーは多摩57は86-16、シルバーのスカイラインジャパン4ドアセダン応援頼みます。]
無線を聞いた鹿川と後藤は向き合ってうなずく。
後藤はギアを入れてリアを沈めながら急発進した。
警ら課の犬神と小野は430グロリアパトカーで銀行強盗犯を追跡していた。
すると違うサイレンの音が近づいてきて、鹿川と後藤のスカイラインジャパンパトカーが現れた。
二台で犯人を追う。
犯人の車はロータリーに突入しぐるぐる回る。入ってきた車がよけようとして材木に突っ込む。
それをかわしながらなおも逃走を続ける。
二台は必死に追跡を続けた。すると道の真ん中に木材がばらまかれていた。だが、犯人は華麗にスピンターンすると前方から来た二台のパトカーをかわし、なおも逃走を続ける。
[止まれー!あぶないぞ!]
犬神がマイクで呼びかけるも一向に止まろうとしない。
そして交差点に突入したとき、キキッキーブレーキ音が響きドンッという鈍い音が響いた。
「キャーッ。」
女性の悲鳴が聞こえる。
再び犯人の車はスピードを上げる。すると車の影から血だらけで倒れた女性が現れた。
430が停車し、スカイラインジャパンパトカーもブレーキをかける。
[鹿川、お前らは奴を追え。]
犬神からの指示に窓越しに了解と敬礼をすると、後藤がアクセルを踏み込み奴らを追った。
「こうなったら無理矢理にでも停めてやる。」
後藤はギアを上げてさらに加速する。
そして車を台にして片輪走行を始める。じわじわと近づき、浮いた二輪を犯人の車に押しつけた。
じわじわと道の端に寄せられていき、工事現場に突っ込む。そして犯人車が横転した。
それにつられてパトカーも横転する。
やっとの事で車内から脱出した2人はついに、銀行強盗犯を逮捕した。
*
「そうだ。あのときはねられた女性が裃の妹だったのか。そういえばそんな名字だったな。」
なるほど、と言うように小野が言う。
「そういうことだ。そして奴自身も一ヶ月前の亜細亜銀行の銀行強盗のカーチェイスの時、自身の車で巻込まれている。」
工藤が話を進める。
「と言うことは自身の事故と、妹の死の逆恨みか。」
鹿川がため息をつきながら言う。
「我々にも止められなかった責任はあるけど、毎回そういうことで恨まれたらたまったもんじゃ無いですよ。」
後藤が髪を力強く撫でる。
すると、ピロピロリ、ピロピロリと電話が鳴る。
ガチャ「はい、捜査課!」
「何、はい、村山の外れの空き地でトラクターヘッドを見た?」
「はい、はい、了解しました。情報ありがとうございます。」
ガチャ、中山が電話を切り早口で話す。
「村山の外れの空き地でトラクターヘッドの目撃情報です。」
「よし、出動だ。」
鹿川が言い、みんなは刑事部屋を飛び出した。