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04 ダンジョンハンター


ハンター制度についても話しておこう。


ハンターとは、ダンジョンで調査、狩猟、採取などに活動する者をいう。

正確な名称は「ダンジョンハンター」だが、世間では「ハンター」で通じている。

オブラの山野で猟をする本来の意味のハンターは、ダンジョンハンターと区別するため、「狩猟師」と呼ばれるようになってしまった。


ハンターはその実力により等級分けされている。

ハンターの等級はハンターの戦闘力、支援能力、経験など合わせた総合力と思えばよい。

ただし、支援能力などは数字になりにくいので、どうしても魔物を何匹たおせたかの戦闘力評価に傾きやすい。

ハンターの等級はダンジョンレベルEからSに対応するように作られており、E等級からS等級までの6段階だ。

ダンジョンレベルには最下級レベルXもあるが、これは安全保証されたダンジョンで入場制限はなく一般人でも入れるので別扱いだ。



レベルEダンジョンならE等級のハンターで対応できるが、レベルSダンジョンにはS等級のハンターでない難しい。

低等級のハンターが高レベルダンジョンに潜っても無駄に死ぬだけなので、ダンジョンの内容で入場できるハンター等級を制限している。



ハンター制度は600年の古い歴史を持っている。

600年ぐらい前は、ちょうどダンジョンの数が増え始めた時期で、多くの人間がダンジョンに潜るようになった。

ダンジョンへの警戒心が薄れて、誰でも気軽に中に入って、金になりそうなら何でも持って帰ってきた時代だった。


それにつれ、ダンジョン内に生息する「魔物」が問題となった。

魔物とは魔力を持つダンジョン内の生物をいうが、様々な特殊能力を持っている。

多くの魔物は人間を簡単に殺せる強さを持ち、人間を食料とみなす。



ある年、後に「愚者」と名付けられるダンジョンから大量の魔物が溢れ出て、カルダ国の3分の1近くの町や村が壊滅する事件があった。

周辺国の軍までも総動員され、魔物を駆除するのに4年かかった。


このダンジョンはもともと、採取できる資源がなく、内部は危険な魔物が多く、ゲート通過呪文の設定がなく、魔物も自由に通過できた。

ゲート消去もできないという極めて厄介もののダンジョンだった。

ダンジョンマスターが夜逃げをしたので、困った当時の行政はゲートを石材で覆ってその周りを土砂で小山にして埋めてしまった。

ダンジョンの存在を目につく所から隠して、なかったことにしたのだ。

ダンジョンは管理されず、国の監督指導からも抜け落ち放置された。


このダンジョンでは数十年周期の乾期で魔物が激減する時期がある。

食物連鎖上位の知能が高い竜系統の魔物が、通過自由のゲートのまわりの土砂を吹き飛ばし、こちらの世界に食料を探しにやってきたらしい。

その後、魔物はゲートの先に食料 (人間)が豊富にあると覚えてしまい、ゲートの内外に築かれた堅固な防壁も難なく突破して、周期的に大量流出してくるようになった。



ある別のダンジョンでも事件が起こった。

こちらは子供達が集団で魔物の犠牲になるというショッキングな事件だった。


そのダンジョンでは50㎝程の白蟻に似た昆虫型魔物が地下に深い巣穴を作り薬用茸を栽培していた。

人間は年一回、体格の小さな子供をこの狭い巣穴に潜りこませ、茸を横取り採取していた。

この魔物は大した攻撃力は持たず、虫よけの薬品を塗っておけば逃げていくので子供たちでも問題はなかった。

ダンジョン周辺の貧しい農村の小さな子供達が農閑期もあり数多く集まって、巣穴の奥に潜って働いた。


ある年に子供たちが100名近く集団行方不明になり、捜索隊が狭い巣穴を崩し拡げながら奥まで苦労して捜索した。

子供達は、それまで無害と考えられていた昆虫型魔物にフェロモンで誘引拉致され、巣穴の奥で産卵の苗床にされていた。

ダンジョンに誰でも入れるというのは、とても危険だと広く認識された。



これらの事件をきっかけに、各国が協力して、ダンジョンオーナーの責任の明確化、国の積極的関与、ダンジョンに入る人間を資格管理して、ダンジョンからの物品、生物の持ち出し制限を厳格にすることが合意された。

そのために、ダンジョンに関係する2つの制度が作られた。


一つはオブラの世界の全てのダンジョンを、統一した尺度で危険度評価するダンジョン評価会議の制度。

もう一つは、ダンジョン内で働く人間の資格審査を行い、等級分けするハンター資格審査機構の制度だ。

ハンター資格審査機構の方は、その後、資格審査管理、採取請負斡旋業などを統合して最終的に「ハンターギルド」となった。


ハンターギルドではハンター希望者に対して研修を行い、試験に合格した者にハンター資格を与える。

そして、技能と実績に応じてハンター等級を、定期的に再評価する。

ハンターギルドは国単位で置かれるのが基本だが、国を越えたオブラ全域の連合組織もあり、ハンター制度を共通基準で運営している。

どこかの国でハンター等級が決まれば、他の国でもそのまま通用する。



・・・・・



ダンジョンが増えると、魔物と接触する機会も増える。

魔物の中には物理攻撃が通らず魔術攻撃しか効かないものもいたので、どうしても魔術師が必要となった。


当時は、味方を誤射することなく攻撃魔術を自在にコントロールできるのは軍の魔術師ぐらいだった。

民間の魔術師は攻撃魔法など使ったこともなく、ダンジョン魔物退治には対応できなかった。

また、その頃の魔術師は、師が弟子を育てる徒弟制度での育成だったので、魔術師の数が現在よりずっと少なかった。


ダンジョンで魔術師が必要となったが、数が足りず、攻撃魔術も不慣れで混乱した時期があった。

ダンジョンでの魔術師の量と質の需要を満たすため、国の指導とハンターギルドからの出資で魔術師教育が学校制度に変わった。

学生数を増やし、各種攻撃魔法を必修とし、魔術の即応性を高める魔術理論も盛んに研究された。


魔術師学校の卒業生が増えると、ダンジョンに潜る魔術師は多少増えた。

しかし、危険できつく汚いダンジョン仕事から逃げる魔術師も多かった。


国やハンターギルドはなかなか改善しない魔術師不足に困り、とうとう魔術師ギルド制度を作った。

魔術師は国家資格とされ、全員魔術師ギルドに登録とし、ダンジョンの仕事を一定量しないと魔術師資格が停止される。


魔術師は魔術師ギルドを通して国に管理されるが、魔術師業務の独占、最低報酬保障などの権利が得る。

その代わりに魔術師は国のダンジョン仕事の召集にいつでも応える義務を負う。


この召集は国の仕事だが、実際はハンターギルドの要請で魔術師ギルドが魔術師を手配してダンジョンに派遣する形で運営される。

ここ百年はダンジョン仕事を専業にするハンター魔術師が増えているので、よほど僻地のダンジョンでなければ、だいたい魔術師を確保できるようになっている。

魔術師ギルドが「召集」を行うのは、資源ダンジョン内で魔物が大量発生したなどの非常事態の時ぐらいになっている。



魔術師は魔術師ギルドに入ると、自動的にハンターギルドにも登録され、ハンター等級も評価される。

ハンター等級はハンター報酬に影響するので、皆、機会があれば積極的に上の等級を目指す。

魔術師ならダンジョンの経験を少し積めば、すぐにC級ぐらいになる。

攻撃魔術に威力があればA級までけっこう登れ、戦闘好きでサバイバルに耐えられればS級にもなれる。




私、ジェームス メリザウェイはハンターギルドでの等級は最低のE級で終わった。

私は魔術師だが、実は攻撃系の魔術は全然ダメで使い物にならない。


私は、長年の間にダンジョンに関わり、潜ったダンジョンの数ではベテランハンターに負けないが、ハンターとしての評価はE級だ。

私はE級ハンターだが、ダンジョン調査では必要に応じ上級ハンターが護衛で同行するので安全に仕事ができる。

だから、レベルSのダンジョンの調査も問題なくできる。


そうは言っても、さすがにE級では恥ずかしいので、私はハンター等級を上げたかった。

調査員の立場でダンジョンに入っても、等級考査の対象にはならない。

調査の仕事を等級評価の対象にすると、現場で魔物と戦っているハンターから不満がでるらしい。

私が等級を上げるには一般ハンターの立場でダンジョンに潜らなければならない。


私が一般ハンターとして仕事をする場合、前衛で剣や盾を持ってもあっという間に魔物に押し倒され喰われてしまうのがおちだろう。

斥候、遊撃をやる素早さなども持っていない。

私は後衛で得意な空間認識魔術を使い魔物の情報をパーティーに教える役割ぐらいしかない。

攻撃に参加しなければ、評価は低くハンター等級は上がりにくい。

それ以前に、攻撃に参加しない魔術師はズルい奴と見られパーティーに入れてもらえない。


後衛で魔術師ながら弓を使う道があったので一時期弓を鍛錬した。

あるハンターが動く前衛の隙間から動き回る魔物に矢を必中させていく技を見てからは、自分の才能の無さを思い知り弓は止めた。


世の中には魔力を注ぐと属性攻撃魔術を撃てる魔道具がある。

それを使えば私でも攻撃魔術が撃てるが、とても高価で単発使い捨てなので、E級をD級に上げるだけでも破産してしまう。

「賢者の石」を用いた連発式攻撃魔道具もあるが、大国や神殿が秘宝扱いにするような稀少品で、私の手の届くものではない。


今の時代なら銃を使えるダンジョンがすこし出てきたので、私でもパーティーに参加できたかもしれない。

私がハンターギルドに登録した40数年前は、銃の音が不必要に魔物を呼び寄せるとして、ダンジョン内での銃の使用は全面禁止されていた。


20年前に早合に代わってカートリッジを使う銃が初めて市販され、銃の火力と信頼度が飛躍的に上がった。

銃でも物理耐性の魔物には効かないことが多く、銃が魔術攻撃にとって代わることはない。

しかし、ここ数年、通常火力を期待して、発射音の低い銃から試しに解禁されはじめている。



20代の頃は、等級上げになにかいい方法がないか、いろいろと試してみた。

30代の私は万年E級のダメ魔術師と煙たがられ、悔しかった。

40代からは、しだいに数多くのダンジョンに潜った伝説の調査員として知られるようになり、自分の子供のような年齢のハンターに、よく難関ダンジョンの体験談をせがまれた。

ハンター等級など別にどうでもいいやと達観できた。


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