第9話 見られララルク
「まずは愛称を決めねえとな」
「愛称ですかです?」
ララルクが首をこてん、と折って聞き返す。
あの後、ララルクを連れ出し、彼女が寮にいたことから荷物を取りに行って、その後取った宿にいる。
「おうよ、とある事情でいま、俺たちは愛称で呼び合ってんだ。こいつはレザー、こっちはワインってな」
「彼女はフリルよ」
フリルが自分だけ言わなかったのでずるいと思ったワインが付け足した。
「ほえ~、なんだか格好いいです~」
「そうか、だったらてめえにも付けてやるよ。」
「わー、ありがとうございますです~」
「では、レザー、ちょっと出て行ってくれないかしら?」
「……え?」
「そうだな、さすがに可哀想だからな」
言われるがままに出ていくレザー。
中では何が行われているのだろう?
「何ですか? どうしてレザーさんを追い出したので……わっ! やめてくださいです!」
「ちょっとおとなしくしてな? 何もしねえから、見るだけだから」
「やーめーてーくーだーさーいーでーすー」
室内からはドタンバタンと暴れる音だけが響く。
「白、ホワイト……単純すぎるわね」
「なんですか? なんですかぁぁぁぁっ!?」
「ちょっとこれも脱がそうか」
「いやぁぁぁぁぁっ!」
何だかよく分からないが、とりあえず彼女のパンツは白だったのだろう。
その後、抵抗に疲れたのか、しくしく泣く声しか聞こえなくなった。
「パイパンね。でもさすがにパイパンは可哀想だわ」
「んー、じゃあ、パンはどうだ? てめえのワインだって元は分かんねえだろ?」
「……私は別にワインレッド以外のパンツも持っているわよ?」
ワインは反論の意味があるのか。
それに反論しないって事はフリルはフリル付きしか持ってないらしい、可愛い。
「ま、パンで異論はないだろ?」
「そうね、これからよろしくね、パン」
「ふえぇぇぇぇ……」
なんか、決まったらしい。
促されてレザーが入ると、ララルク、いや、パンが暴れたからか、服と髪を乱しつつ涙目で座っていた。
まるで、信じてついて行った男に陵辱されたようにも見えた。
もしくは、年上の同性に性器を見られ批評されたような、まんまじゃん。
「今日からこいつの愛称はパンだ。よろしくしてやってくれ」
「ぐずっ……よろしくお願いします……」
涙目のパンは同情的になるが仕方がないのだ。
これが、ルールなのだから。
一体どこで誰が決めたルールだっけ?
「このままエラジクに向かうですか?」
翌日、一晩泣き明かしたパンが、出発の支度をしているレザーに聞いた。
ちなみに、パンはフリルとワインレッドの二人に不信感を抱いてしまったため、レザーと一緒に寝ると駄々を捏ねたため、ダブルベッド二つのうち一つで寝た。
子供だから何もなかったよ?
朝起きたら、レザーのレザーの中の子がおっきしていたけど多分朝立ちだよ?
なお、反対のベッドにはワインとフリルが一緒に寝たが、特に百合はなかった模様。
「そうしたいけど、まだまだ戦力は不足してると思うんだ。だから、もう少し人を増やしてから行きたいかなって思ってる」
「ですね~。小さい女の子襲うくらいしか出来ない人たちばかりですからね。魔王に襲われて妊娠させられればいいのに」
子供とは思えない悪態に、よく考えたらこの子がとんでもなく頭がいいことに今更気づいた。
「んだと、こらぁ!」
「きゃぁぁぁっ! レザーとおにいちゃん助けて!」
「まあまあ、フリルさん、子供が言ったことですし」
「子供がそんなこと言うかぁぁぁっ!」
もっともである。
「そこを何とか! ね?」
「……まあいい、昨日はやり過ぎたからな」
フリルはおとなしく引く。
このパンの恐ろしいところは、昨日泣いていただけに見えて、このパーティーの内情をだいたい把握したところだ。
主導権は一見ワインやフリルが持っているように思えるが、それはレザーが何も言わないからで、一言言えば、それに文句は付けるものの、結局はそれに従う。
つまりレザーさえ押さえておけば、このパーティーを好き動かすことが出来る事を理解したのだ。
「それはそうと、東の途中に、若くして強力な魔法使いがいるそうです。会ってみませんか?」
「若い……女か?」
「そうですね、魔法使いは女性が多いですし~」
「女か……」
フリルが思案げな表情になる。
「いいのではないかしら。私はレザーくん以外の殿方と寝食を共にすることに抵抗が少しありますし」
「そう言えばそうだな……よし、じゃあ行こう!」
こうして、魔法使いに会いに行くことになった。