第8話 天才少女ララルク
「この街はさっさと通り過ぎようぜ?」
「うん、だけどやっぱり一泊はしないと。次の街まで一日はかかるから野宿になりますし」
「そうね。ま、一日くらい何とかなるわよ」
さっさとこの街を去りたいエライザ、いや、フリルと、とりあえず旅行で疲れているから一泊はしたいワインとレザー。
「それよりもさ、せっかく学園都市に来たんだから学校に行きたいんだよ」
「行ってどうすんだよ? 勉強でもするのか?」
「そうじゃなくってさ、魔王を倒すって途方もなさ過ぎて曖昧過ぎるからちゃんと考えられる人がいればいいかなと思ってさ」
リークは基本的に無知な田舎者で、しかも若干ステータスが下がっているから、言ってみれば馬鹿だ。
学校に行けば頭のいい人がいると思い込んでいる。
それはある意味間違ってはいない。
彼は学校に行っていないし、学校に行っている者は賢い。
だが、本当に賢いのは、その学校を卒業し、社会で活躍したり独自で研究をする者たちだろう。
だが、リークはそんなことまで考えが及ばない、馬鹿だから。
「とりあえず学校に行こう!」
「あ、おいっ!」
後先も考えずにレザーが学校へ向かったので、しょうがなくフリルやワインも後に続く。
「この学校で最も頭のいい数人を連れてきてくれませんか?」
レザーは、学校に乗り込んで、先生が沢山いると思われる場所に行ってそう言った。
まあ、常識では考えられないことだが、何しろレザーはちんちんだけでなく能力も可愛いから。
「失礼、校長を呼んできます」
職員の中で、初老の一人が立ち上がって一礼して出て行く。
レザーからすれば、八百屋に行って今日一番の野菜を聞くくらいの気持ちで訊ねたのだ。
が、教師陣からすれば、いきなり職員室に来て「頭のいい生徒を呼んでこい」と言うのは、かなり常識はずれな行動だ。
それを平然と堂々と出来る、と言うことは、それが許される身分の方に違いない。
確かに若い割に何ともいえないオーラのあるお方だ(魅力が高いせい)。
連れている女性も高貴な方に思える(フリルは地が可愛い)。
しかも剣を携えているから、私服で付き従っている女騎士かも知れない(女強盗です)。
更に、あの人間を見下していると言われているエルフまで従わせている(パンツはワインレッドです)。
結論、王族クラスの非常に身分の高い方が、お忍びで我が校に人材を探しに来たに違いない。
だから、学校側もあわてて最も偉い人を呼んで挨拶させなければならないだろう。
と言うことで、レザーは歓迎された。
「彼らが現在最も知識のある生徒です」
紹介されたのは、超ガリ勉っぽい男子生徒だった。
レザーは心情的に早々にお引き取り願いたいが、せっかく連れてきてもらったので話をすることにした。
「えと……魔王が復活したと聞いていますが、どこに復活したと思いますか?」
「ふむ……おそらく、ジオウザンの中心にある山脈でしょう」
「……え?」
ジオウザンは北にある地方で、独立国家ジオウ王国の領土だ。
高い山が多く、その中心に大陸で最も高い山を含む山脈がある。
レザーの住む地域から、近くはないが、大陸で最も遠いわけでもない。
「ほう……そうですか……ふむ」
だが、聞いてる方も馬鹿だった。
もはやジオウザンの位置なども忘れているレザーは、堂々と言い切る彼になるほどと根拠なく感心していた。
「根拠を聞いてもいいかしら?」
ワインが代わりに訊ねる。
ちなみにフリルは口調で出がばれるから黙っていた方がいいとワインに言われ、ふてくされつつ黙っている。
「根拠は文献の多くに、『高き山を破壊し』とある事から、この大陸で高い山と言えばジオウザンの山脈ですから」
「なるほど、確かに」
レザーは納得しているが、全然分かってない。
「私はエラジクの東側だと思うです」
「……え?」
彼の隣にいた女の子が答える。
いや、さっきからいたが、何か助手みたいなものと思っていた。
何しろその子は、隣のガリ勉と比べるとかなり若い。
十歳か十一歳だろうか、そんな子供みたいな女の子にまともな答えなど求めることは出来ないだろう。
「その根拠は?」
「最近魔族が発見された地域とその格を考慮すると、その最もメジアンポイントとして、エラジクの近隣が上げられるです。更にエラジクは海に面しており、根城とするには最適かと思われますです」
「……なるほど」
今度のなるほどはワインのものだ。
だから、説得力がある。
「彼女はどなた?」
ワインは本人ではなく、校長に聞いた。
「彼女はララルクという、庶民出身の子です。この歳でほぼ全ての政治学を学び、将来は庶民出身で初の大臣になる可能性を秘めています!」
ララルク、と呼ばれた彼女を、校長は絶賛する。
「なるほど。リー……レザーくん、彼女は統計から場所を推測していて、とても理にかなっているわ」
「そうっすか。じゃあ、彼女にしましょう」
元々、ガリ勉とくんはNGだったレザーは、あっさりと決める。
「ねえ、ララルク、俺たちと一緒に、魔王退治しないか?」
「はいです! 喜んで!」
まるで、デートの誘いを受けるようにあっさりと、ララルクは承諾した。
これも、徐々に上がってる魅力のせいなのだろう。