第70話 強大な敵と巨大でないなにか。
「……そう言えば、あの方、最後に『またいらっしゃい』と言ったわ。その、少し前に私達は魔王を倒す、と宣言していたのだけど……そういう意味だったのね」
ワインは、ライサナと会った時の事を思い出した。
その後、彼女に裸にされて泣きながら帰ってきたのだが。
あの事は自分が強いと自負している彼女からすると、屈辱的であり、今でも悔しいと思っている。
だが、それと同時に、絶対的に勝てない相手だと認識してしまっていた。
「あの方なら、確かに、魔王を瞬殺出来てしまうかも知れないわ……」
「…………」
「あいつの強さは並じゃないわよ! だってあの時のワインは本当に強かったのよ? ぞっとするくらい。それを圧倒するんだから、あいつ人間じゃないわよ! 化け物よ!」
同じくそばにいたブラックが言う。
「ブラック」
「え? あ……ごめんなさい」
ライサナはフリルの姉だ。
彼女が化け物というのなら、フリルもそれになってしまう。
「いや……あいつは化け物だ。それは間違いねえ。俺もそうなるはずだったし、なるべきだと思ってる……だが、俺は……」
フリルは自分の無力さを噛みしめる。
自分も彼女がやっていたという地獄のような修業を積めば、あのレベル、少なくともどちらが強いか? くらいにはなっていたことだろう。
だが、フリルは逃げ出したのだ。
日々人間らしさ、女らしさを失っていく姉を見て、そして、自分も半ばそうなりかけている事実に愕然として、城から逃げたのだ。
人であることを薪にして得られた強靭な肉体。
それは人間より強いはずの魔族すら敵にならないほどに強い、文字通りの化け物だ。
途中で逃げたフリルは、人間性と女らしさを捨てなかったフリルは、何も得られてはいない。
もちろん彼女は強いし、人間の中ではかなり高水準にいるだろうし、魔王だって倒せたかもしれない。
だが、瞬殺出来たか、と言われるとそれはありえなかっただろう。
今いる仲間全員と協力してやっと勝てるかどうか、だったと思われる。
魔王なら倒せた。
なら、ライサナは?
ここにいる全員で、ライサナを倒せるだろうか?
「…………」
無理だ、どう考えても、無理に決まっている。
彼女たちはそれぞれ、人としてはかなりの高水準のスキルを持っている集まりで、この集団であれば、中隊程度の軍隊なら、どんな不利な地形でも壊滅出来るかも知れない。
だが、敵はそんなものじゃない。
想像でしかないが、彼女は、大隊、いや、師団でも一人で壊滅させられそうだ。
彼女がそこに立てば、千人もの勇猛な兵が一瞬で戦意を喪失し、逃げ惑うだけの集団になることだろう。
もはや、人間で彼女に敵う者がいるだろうか?
最強と謳われた彼女の父も、そして母も、最早彼女には敵わない。
それを知っているからこそ、自由にさせているのだろう。
今や王国ではなく、魔族を支配しているのだ。
「……諦めましょう」
「レザー!?」
それまで大体空気だったレザーが口を開いた。
「僕が諦めればいいんです。神様に殺されればいいだけです」
「やめろ」
「神様も、僕に罪悪感があるでしょうから、次はきっといい人生にさせてくれますよだから、もういいんです」
「やめろ!」
「っ!」
フリルはレザーを抱きしめる。
「お前がそれで良くても俺はどうするんだよ! お前が死んだら、俺はどうするんだよ!」
強く抱きしめるフリル。
何も言えなくなるレザー。
「俺がお前を守るって言っただろ? 魔王を倒すって言ったじゃねえか! だから、お前は黙って守られてろ!」
「フリル、さん……」
「俺はさ、お前が好きなんだよ……お前が自分では嫌いだと思ってるところも、俺は好きなんだよ……」
涙が自然にあふれて来るフリル。
「お前が嫌だって言ってるこれも!」
「え?」
何故か、勢いでズボンとパンツを下ろされる。
「俺は可愛いと思ってんだ! この戦いが終わったら、きちんと向き合いたいと思ってんだ!」
めっちゃシリアスな場面だけど、フリル以外の女の子たちは、魔族の子も含めて、レザーのレザーに集中しています。
「だから……そんなこと言うなよ!」
ぎゅ、と抱きしめるフリル。
「ちょ……分かりました! もう言いませんから!」
レザーは必死で離れようとするが、フリルが強く抱きついているので離れられない。
すると、これまで小さいのでバレなかったが、レザーの中のものが膨らんで来ていた。
フルになってもレザーコーティングされたままの高級なそれが、やっぱりみんなに見られていた。
恥ずかしさで消えたくなるレザー。
それでも消えないので、みんな、最後までじっと見ていた。
シリアスさんはどこかに行ってしまいました。




