第69話 新・魔王
「どういうことだ……?」
「……見たままです。魔王様は半年ほど前に殺されました」
魔王は、半年前に死んでいた。
それは、その朽ちた具合からも分かる。
だが、それではどうしても矛盾が生じてしまう。
「じゃ、じゃあ、一月前に魔王から受けた呪いってのは何なんだ?」
レザーの魅力が上がり始めたのは一月前。
それは魔王の仕業だったはずだ。
女神が間違えるとも思えない。
「それは分かりません……ですが、一月前はこの状態でしたし、動くこともありませんでした」
「そうか……」
相手は魔族だ、人間の敵だし、彼女たちはめっちゃ敵対行動をしてしまった。
いや、愛情表現も敵対表現も同じ子なんだけど。
だから、百パーセント信用できるわけでもないが、彼女が魔王が死んでいないと隠す理由もない。
そもそも、今まで死んだことを隠していたのだ。
だとすると──。
「なあ、魔王って、何人もいるのか?」
「え? いませんよ、魔族で一番強い人が魔王様になるんですから」
「そうか……世襲制じゃないのか」
「それはつまり、魔族で一番強い者が、何者かに殺されたという事かしら?」
「そう……ですね。我々魔族は人間より強いという自負はあります。私も黒魔術とそれを応用した剣術を駆使すれば、あなた方を圧倒することくらい出来るでしょう」
魔族である彼女は、さっき負けたのに、自分の方が強いと言いたいらしい。
「だったら勝負にゃ!」
「ひっ!」
「やめとけ、俺らはどっちが強いかなんてどうでもいいんだよ。で、強いっていうお前よりも相当強いだろう魔王が、誰かに倒されたのか?」
フリルが聞くと、魔族の子はうつむいた。
「瞬殺でした。圧倒的な力でもって、魔王様はなす術もなく……」
女の子は悔しそうにぎゅっと自分の手を強く握る。
「それで、そいつが『魔王は倒しましたわ。今日からわたくしが魔王ですわ。いいですわね?』と言って……誰も逆らえず」
「!?」
聞いたことがある話し方。
いや、でも、その程度どこにでもいる。
ワインだってそれに近い。
だが、魔王を瞬殺するほどの強さとなると……。
フリルは汗が止まらなくなった。
暑いわけではない。
その証拠に鳥肌が立っている。
「なあ、そいつは、どんな奴だった……?」
「えっと、見た目はまるで人間のお姫様のようでした」
可能性は高い。
だが、確定的ではない。
世界は広いのだ。
人間以外の可能性も考えると、いるかも知れないし、決定的ではない。
「あ、そう言えば──」
魔族の少女の、その言葉を聞くまでは。
「魔王様を倒したのは、あなたによく似ている感じの人間でした」




