第6話 フェケナ・ワインレッドの苦悩
※ワインレッドは彼女の姓ではありません
「それで、リークくんはどのくらい強いのかしら?」
「弱いっすな! 三歳年下の妹に押し倒されかけた!」
リークは堂々とそう言い返した。
「そう……」
それなのにどうして魔王を倒そうとしているの?
正直、邪魔だわ、などという言葉には出来ない。
そんなことを言ったら、一緒に旅ができなくなるからだ。
ここはエライザの家。
あれから一旦戻り、旅の準備をすると言ったのだ。
エライザは別の部屋で旅行準備中だ。
女子力高い子だから時間もかかるだろう。
「私は、集落を出て、人間の国を旅している時、ほとんど誰からも親しく話しかけられなかったわ。私を遠くから見て、私が振り返ると逃げて行ったり、嫌な目で私を見たり」
間が持たないと思ったのか、自分語りを始めたフェケナさん。
「私がエルフというだけで攻撃してきた人もいるわ。だから、私はやっぱりエルフは人の世界に入るべきではないと女王の意に反しても進言するつもりでいたわ」
「そっかー、まあそれも仕方がないなあ」
何しろ、フェケナはエルフであり、しかも可愛い。
こんな子がいきなり街に現れたら、話しかけていいものかと戸惑うだろう。
何しろエルフが高潔な種族で、人間嫌いで見下しているというのはほぼ共通認識だ。
リークだって知っている。
だから、話しかけても「人間風情が私に話しかけないで」と言われるかもしれない。
そして、そう言われることを勝手に想像して腹を立てて怒ってる奴もいるしかない。
つまりはそういう存在なんだ、エルフって。
「ただ、あなたは私を一切そういう目では見なかった」
「え? ああ、うん……」
田舎者であるリークにとって、彼女はエルフである前に女の子であり、だから、エルフとして見ていたのではなく、ただ、性的に見ていただけなのだが。
「だから、私はあなたと行動を共にしようと思ったわ。あなたとなら、ナルケナ様の気持ちも分かるかも知れない」
エルフの女王様の気持ちがどうだったのかなど、リークが知る由もないが、よく考えたら、この子が自分をこうして優しく見つめてくれるのは魅力が高くなっているせいだろう。
「そ、そんなの、本当に分かる──」
「俺らと一緒にいたら、こいつは少なくとも人間に友好的なエルフだって分かるだろうからな。それがいいぜ」
リークの言葉は、いつの間にか入ってきていたエライザが言う。
エライザは白のワンピースの上に、なんかフリル的な装飾が付いたフード付きマントを装備していた。
どこかの魔法使いのお嬢様が避暑地に旅行に行きそうな格好だ。
「そうね、あなた達がいれば、確かにそういう認識をされるわね。ナルケナ様も常にエルフ以外と行動を共にしていらしたようだし」
「ま、利用できるってんなら俺たちを利用しろよ。俺たちも何か利用できるならお前を利用するからさ」
「分かったわ、そうさせてもらうわ」
さっき、命を懸けて戦っていたとは思えない仲の良さっぷりだなあ、とリークは思っていた。
実際は、命を懸けたからこそ、仲良くなれたのだが。
「じゃ、準備は出来たし、そろそろ行くか?」
エライザがそう言った。
「ええ、そうしましょうか」
フェケナが答えた