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第59話 天才魔導士マリュン。誰?

 目が覚めた。


 いつも超低血圧で機嫌もいいか悪いか分からない彼女が、誰よりも早く起きることはほぼないと言っていい。

 だから、今日は本当に珍しい日だ。


 彼女の名はマリュン。

 十七歳の天才魔法使いだ。


 「誰?」と思うのは仕方がない。

 「どうしよう、あの人の名前、思い出せへん」と思ったのは、まあ、映画の見過ぎじゃないかな。


 ノーだよ、ノー。


 彼女は子供のころから魔法の天才として教育されてきて、身体が成長しきっていないため、常に魔力不足に悩まされてきた。

 そして、セックスすれば魔力が増大するという話を聞き、男と見ればセックスに誘おうとする厄介な女の子になっていた。


 まあ、魔法学校で大切に育てられてきたため、そこらのならず者とは会うことがなく、魔法学校もほぼ女子ばかりで構成されており、男子がいても、いきなり「セックスして欲しい」とか言ってくる女の子に「よし、分かった」と思うようなのはいなかった。


 まあ、つまり、美少女で十七歳という魅力的な魔法使いで十歳のころからセックスを望み続けているにも関わらず、いまだにセックスをしたことがないうちに教員、研究者になっていたという女の子だ。


 彼女は無表情でコミュニケーション能力に乏しいため、直接的にしかものを伝えられない。

 だから、初めて見る男に、いきなり無表情で「セックスして欲しい」と言うので、誰もがその裏を考えるし、あ、この子多分厄介な子だ、と思い、協力してもらえないのだ。

 そんな性格であり、また、同年代からかけ離れた知識を持っているため、親友と呼べる存在は、これまでいなかった。

 それどころか、友達、と呼べる人間も数が少なかった。


 そんな彼女にも、彼女が親友だと思っている存在がいる。

 それはただ、彼女が思っているだけで、周囲もそれを全く認識していないどころか、可哀想だとすら思っているのだが。


 そう、彼女が親友認定しているのは、ストライプだ。

 ストライプは現エルフの女王であるナルケナが王女だった頃、魔法学校に在籍していたが、その頃の護衛兼学友としてノーの同級生になった。


 クラスは違ったが、とある調査をする際、数日間寝食を共にする機会があった。

 それ以降無抵抗な彼女はストライプのおもちゃとなった。

 そして、その頃、一緒に風呂に入った際、初めて叫んだ。


 常に無表情無感動、声も小さい女の子だった彼女が絶叫したのが面白かったらしく、それ以降ストライプは何度もそのストライプフィンガーを使うようになった。


 ストライプの傍若無人なふるまいは、友達に乏しい彼女には、親友の無遠慮さだと認識しており、人格レベルで失礼な言葉もそれとして受け入れている。


 だから、常に指を入れられても、パンツをはいていたら剥ぎ取られても、それはただの友情なのだ。


「む」


 では、彼女にとってレザーはどんな存在なのだろう?


「これはセックスチャンス」


 ただのセックスできそうな男の子なのか、魅力的な男の子なのか


「何がチャンスにゃー!」

「あーーーーーーーーーっ!」


 それはいつまでも分からない。


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