第56話 盗賊の少女
「はあ……偉い人の従者ともなると、私の気配消去なんて通じないのねえ」
女の子はオレンジ色のショートカットで、髪と同じく、明るい感じの表情の子だ。
レザーとは一定の距離を取っており、もしレザーが近づいてきても、即座に逃げられるようにしていた。
もちろんそんなことに気づくレザーじゃない。
普通なら入り口をふさぐのがセオリーだけど、入り口をがら空きにしてしまった。
「ねえあんた、私と手を組まない?」
「何をするの……?」
「あんたがお金の場所を教えてくれれば、後であんたに分け前を上げるわ? あんたはただの被害者。ちょっと油断したら獲られてたってことにしとけばいいのよ」
女の子の提案は、もしレザーが従者であったなら魅力的だったかもしれない。
まあ、もちろん女の子は後で分け前なんてくれないだろうけど。
とりあえず従者でもないレザーには魅力的でも何でもない上に、そもそも──。
「俺、貴重品のおいてあるところ知らないんだけど……」
「はあ!? そんなわけないじゃないの! 一人だけ残されて番してるのに、守る宝物を知らないわけないわよね?」
「いや……本当に知らないからさ……」
本当に知らないからしょうがない。
レザーはお金を持たされてないからね。
「あのさあ、私だって盗賊なんだ。あんま、ふざけたこと言ってると──」
間を開けていた女の子が、目の前から消える。
「あんた自身を、盗んじゃうぞ?」
「うわっ!?」
真後ろから、肩越しに言われて、飛び上がるレザー。
瞬間に移動したのだろうか、全く気配を感じなかった、というか、感じるようなレザーなわけがないが。
「あ、あの!?」
小柄な女の子に、後ろから抱き着かれて、身動きが取れないレザー。
お前、そろそろ女の子に慣れろよ。と思うけど、これまで抱き着かれてない女の子だと緊張するらしい、人見知りか。
「さっきからあんた見てて、ずっと我慢してたけど、もう駄目! もうお金とかどうでもいいから、あんたを連れ去るわよ!」
「いや、ちょっと!?」
「大丈夫よ。こう見えて私、結構稼いでるから、絶対不自由はさせないわ! あんたは働かなくてもいいから、私のところに来て? こんな従者やってるより素敵な生活を約束するわよ?」
目の前の女の子は、二十歳過ぎのお姉さんみたいなことを言ってるけど、十四十五の女の子だ。
可愛い顔の盗賊にさらわれるかもしれないレザー。
可愛い顔の強盗には二回さらわれたけどな。
「さあ、私についてきなさい?」
「断りますっ!」
レザーは隙を突いて、外に出て、そのまま風呂に向かい、緊急事態だからと言うことでそのまま全裸のみんながいるところに乗り込んで──。
「待ちなさいって!」
とろくて力もないレザーに、そんなことが出来るわけがなかった。
「さ、さっさと来なさい? 悪いようにはしないから」
そう言ってまた、後ろから抱き着かれた。




