第54話 パンちゃんの危険回避術
その日の夜は馬車に泊まるか、宿に泊まるか、と言う話になった。
馬車は豪華なので、実際のところ野宿でなないのだが、今日はフリルが宿で止まると決めた。
この街に、値段はちょっと高いが、風呂付の宿があると聞いたからだ。
それに反対する者は誰もいない。
レザーを除くみんなは風呂に入りたかったし、レザーは自分はどうでもいいが、みんなが風呂に入ることには賛成だからだ。
もしかするとうっかり自分と鉢合わせ、などと考えているからレザーはいつか苦しんで死ねばいいと思う。
いや、考えるだけなら自由か。
でも、絶対にそんなことが起きるよな、絶対。
「ここが駐車場らしいから停めるぜ? えーっと、何人だ?」
「7人です」
「男1人と、女6人だよ!」
「7人だな? 一部屋であるか聞いてみよう」
「…………」
レザーは、え、なんで? って顔をするけど、もちろん意見はしなかった。
「一応俺は言ったからね?」って形式を作りたかっただけだと思われる。
よくいたじゃん、誰かが悪いことをする時に、止める気もないくせに「『やめておけよ』俺は言ったからな?」とか言って、後で大人に見つかった時「俺は止めたんですけど、真木くんが聞きませんでした」とか言い出す奴、死ねよ。
「十人部屋はあるってよ。そこにしたがいいか?」
「いいにゃ~」
「いいわ」
「構いませんけど。お金は大丈夫ですか?」
「それは問題ない。お母さまから結構な大金をもらったからな」
自分の娘に公衆の面前で尻穴に指を突っ込むような王妃だが、そういうところは優しいみたい。
「……あ、そう言えば、パンに金は任せてたんだったな、悪い忘れてた。渡しておこうか」
「あ、いえ、でもそこまで大金になると、弱い私が持ってても盗られる可能性もありますから……」
「そうだな……じゃ、この街で金庫でも買ってそれを馬車に置いとくか? 」
「そうですね。でも、金庫ごと盗まれませんか?」
「それもありうるな……うーん……」
フリルは考え込む。
ちょっとした大金持ちになったので、管理も大変だ。
「じゃあ、こういうのはどうですか? 私はこれまで通り、ある程度の金額を持ち歩きます。それで、残りはフリルさんとワインさんが持ちます」
「どうして私とワインなんだ?」
「自分で身が守れて……あと、自分のためだけにお金を使わないと、私が思っているのがお二人だからです」
パンが周囲を見回し、ストライプがいないことだけを確認してから、ひそひそと言う。
「そうか……そうだな。じゃ、ワインにも言っておくから」
「はいっ! お願いします」
二人は、既に中に入って行ったみんなに続いて中に入る。
広い部屋に入り、皆がそれぞれゆったりと休憩をしていた時。
「パン!」
「え? な、なんですあーーーーーーーーーっ!」
ストライプが問答無用でパンを叫ばせた。
「お前、私が信用できないらしいにゃ? 許さないにゃ!」
「信用しています! ストライプさんは強いし、守ってくれてますし、いざという時には食料も持ってきてくれますし!」
咄嗟に頭の回るパンは、瞬時に状況を理解し、ストライプの機嫌を取る。
「そうかにゃ。お前もよくやってるにゃ~」
ストライプはぎゅっとパンを抱きしめて頭を撫でる。
その後ろで、フリルが申し訳なさそうに謝っている。
確かにフリルの油断だが、どこで誰に言っても結局はストライプに伝わるのだろうな、と言うことを学んだパンちゃん十一歳だった。




