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第5話 仲間が増えた

「それで、ワインレッドの方はどなた?」

「パンツの色で呼ばないで頂戴。私はフェケナ。森のエルフの貴族の娘よ」


 本来ならあなた達など話もできない身分なのよ、とでも言いたげな態度だった、色気意識したワインレッドのくせに。


「知らねえよ、そんなもんはエルフのちっちぇえ村んなかで威張っとけ」

「……何ですって?」


 二人がまた武器を構え始めた。


「落ち着いてって! 喧嘩はやめよう? ね?」


 リークが二人の間に入って笑うと、二人はじっと彼を見て、喧嘩をやめる。


「……もともと、エルフは森の高貴な妖精。人間ごときの文化に関わるまでもなく孤高に森の中で生きてきた種族よ」

「んだと──」

「けれども、最近女王になったナルケナ様は、人間に混じって我々の常識からは想像出来ないほどの魔法を習得したわ。だから、今はもっと融和しようってことになっているわ」


「……そうかよ」


 そう言われると、エライザも中々責められない。


「正直私もずっと、人間を下に見ていたのだけれど、先ほどのあなたの攻撃は鋭かったわ。もう一度やって勝てるかどうかわからないもの」

「お、おう……まあ、あんたもだけどな」


「ところでさー」


 何だか雪解けムードを一変させたのは空気読み能力も少し奪われているリーク。


「俺、魔王を倒さなきゃならないけど、仲間になってくれないかな?」

「は? お前、俺と住むって話は──」

「分かったわ」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!? てめえ、何も聞かずに受けんのかよ?」


 フェケナは何も詳しい事を聞く前に承諾した。


「私は女王から魔王に関する情報を集め場合によっては倒せと命じられているのよ。目的が一致していて、人と行動をとれるなら、私も女王様のように強くなれるかもしれないわ。あと──」


 ここでフェケナは言葉を止める。


「あなたと、一緒に旅がしてみたいの。これは本心だわ。理由は分からないのだけれど、さっきからどうしてもあなたのことが気になって」


 フェケナがぴたり、とリークに腕を回す。

 もちろん童貞(リーク)は反応する。


「お、おい、そいつは俺と一緒にここに住むってことに……」

「それは確かに彼が言ったのかしら?」


「え……?」

「あなたの、思い込みではないのかしら?」

「どういう、ことだよ?」


「さっき彼は魔王を倒したいと言っていたわ。そんな人があなたと住むっていうと思うかしら?」

「…………」


 エライザはじっとリークを見る。

 確かに、エライザはリークに何の意見も聞いていない。

 これはこれまでずっと一人でいたせいなのか、誰もが自分の言うことを聞いて当然だと思ったのか。


 要するにエライザって、実はコミュ障なところがあって、リークと全くコミュニケーションを取っていなかったのだ。


「なあ、リークだっけ?」

「ああ、はい」


 よく考えたら、名前を呼ぶのも初めてかもしれない。


「てめえは、俺と住むのが嫌なのか……?」

「嫌じゃないです。正直何もなかったらずっと住んでいたいです。」

「お、おう……」


「それで、時々パンツを盗んで、でも一緒に住んでるからすぐにばれて」

「……そんなに欲しけりゃ、くれてやるけどなあ……」


 どちらかというと、もっと本体に興味を持ってほしいエライザ。

 いや、リークは本体にも興味を持ってるのよ? 持ってるんだけど、童貞だから。

 分かるでしょ? 一種の照れ隠し的な?

 本当は裸が見たいのに、「パンツ見せて」って言っちゃう的な?


「それで、許してもらうって生活をするのは、多分幸せだと思う」


 エライザと過ごす日々は想像するまでもなく最高の生活だろう。

 何もしなくてもエライザが稼いできてくれるし、リークが働かなくても何も言わない。

 ただ、そこにいて、エライザと過ごせばいいのだ。


「だけど、俺は魔王を倒さなきゃならない。それはどうしようもないんだ……」

「そうか……」


 それはまた、エライザにとっても素晴らしい生活だったのだろう。

 だが、リークが出ていくというのなら、それは出来ない。

 唯一出来ることと言えば──。


「だったら、俺もついていく」


 エライザは、もうリークと離れることは出来ない。

 口調が粗野で人の身包み剥いで生活しているという以外は、ただの女子力の高い女の子なのだ。

 いや、その「以外」めっちゃでかいけど。


「本当ですか?」

「おう、だからこれからも一緒だ」


 エライザがフェケナを真似て、リークの反対の腕を抱きしめる。

 美少女二人に腕を抱かれ、いい匂いもするし、二人とも自分のことを悪く思ってないし、これから寝食を共にすると考えると、リークの可愛い息子さんは、可愛いなりに存在を主張した。


 とにかく、こうして二人が仲間になった。

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