第49話 全力の戦い
レザーがベッドで何も出来ず震えている頃、表では戦いが始まった。
「矢の大波!」
ワインが、入り口一面を埋め尽くすような矢を放つ。
もちろん一人で弓を一斉に射てもこうはならない。
魔法も使っているのだろう。
「ふにゃっ! 逃げるにゃ!」
「んぎゃぁぁぁぁっ!」
その矢をケットシー達は避け切れず、家に逃げ込むが、一頭仕留められた。
「私たちエルフからすれば、ケットシーなんて配下の一族に過ぎないわ! あなたたちも私に従いなさい!」
「嫌だにゃ! 一族がエルフについたからうちの親は抜け出したにゃ!」
「私らは自由にゃ!」
家の中からの反論。
「私は結構自由だがにゃ?」
「ストライプはややこしいから黙ってなさい」
ケットシー達の言葉は、彼女に簡単に付け入る隙を与えた。
「それで、あなた達は別の強い人の下についたってわけ? それが自由? あなた達は私を笑わせる芸人なのかしら?」
高笑いを響かせるワイン。
うん、この子本来はめちゃくちゃ強いし、他種族は見下す子なのよ、本来は。
フリルとの友情があるからこそ、人間には気を使ってるけど。
「うるさいにゃ! お前らエルフの下は嫌だにゃ!」
「そうだにゃ! エルフはすぐ怒るにゃ! 私らを見下すにゃ!」
「そうね、今の女王様は違うけれど、確かにあなた達の親の代そうだったわね。だけど、どちらにしても──」
ワインは矢を三本同時につがえる。
「森でエルフに従わない獣は、狩られなさい?」
「ふにゃっ! 逃げるにゃ!」
「矢の大波!」
三本の矢はただのカモフラージュ。
ワインの背後から、大量の矢が、再び入り口めがけて──。
「突風壁!」
「きゃっ!」
突如放たれたそれは、魔法ではなかった。
言ってみれば、ただの強力な蹴り。
真空の中に放たれたようなそれが、突風を生み、全ての矢、そして、そこにいたワイン、ストライプ、ブラックを弾き飛ばした。
「うちの子に怪我をさせるなんて、中々出来る子もいるじゃないの」
現れたのは、ライサナ。
たった今、彼女たちを吹き飛ばした張本人とは思えないほどの優雅さで、その場に佇む。。
「と、当然よ……! 私はフリル……エリーズと引き分けたのよ……!」
吹き飛ばされたワインが、よろめきながらも立ち上がる。
「彼女も私と同じくらい強いと考えなさい!」
「あら、それは残念ね。あの子はもう少し、強いと思っていたのに」
「……っ!」
「我々王族は弱いことが恥。だから、庶民とは強さの考えが違うのよ。と言っても、弱いことが恥なんて思ってもいないあなたたちには分からないでしょうね」
「私たち──少なくとも私は恥だと思っているわ!」
「ならどうして、そんなに弱くても生きていられるの? あなたは恥に対する耐久性に優れているのかしら?」
「違うわっ! 私は……私やフリルは、魔王を倒すのよ! あなたとは目的が違うのよ!」
「魔王……ね。ふふふ」
ライサナはおかしそうに笑う。
「あなた達は魔王の居場所を知っているのかしら?」
「知らないわ……東の方にいると確信して向かっているわ……!」
「そう。でも、あなた達には無理でしょうね」
「そんなこと、分からないわ……撤収っ!」
ライサナには絶対勝てないと悟ったワインは、二人に逃げろと言い、自らも全力で──。
「お土産をあげるわ──乱れ真空波!」
「え……っ!?」
「にゃっ!」
「やっ、なんで!?」
全力で走りながら、彼女たちは、自分の衣服が塵に消えていくのを、ただ不思議に思うしかなかった。
ライサナは、魔法を使ったわけじゃない。
ただ、彼女の腕一本から出た鎌鼬が、彼女たちの衣服のみを傷つけ、形すら残さないまでに切り刻んだのだ。
肉体には一切傷をつけずに。
「またいらっしゃい? 今度はあの子も連れてきなさい?」
後ろからそんな声が聞こえる。
追ってくる様子もない、だからといって歩くことも出来ない。
ただ、裸で、揺れる胸だけを抑えて、悔しそうに走るしかなかった。




