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第46話 敗戦の馬車

「……くそっ!」


 悔しさを滲ませるフリル。


「やられたわね、なすすべもなく……」


 自分が強いと思っていたワインも同様だ。


「そろそろおなかが空いた」

「ですねー、次の町までどのくらいでしょうかね?」

「あたしは昨日食べ過ぎたから控えるつもりよ」


 慣れている彼女たちは大して問題にすらしていなかった。


「フリル、あなたはどうするつもりなのかしら?」


 悔しい組のワインが聞く。


「このままレザーを捨てて行くのかしら? それなら、私たちはここで終わりだわ」

「そんなこと出来るかよ! 俺はあいつのためなら、死んでもいいんだ……だけど……」


 戦いに来い、というのなら戦いに行く。

 その結果死んでも構わない。

 その覚悟はある。


 だが、死ぬ気になって勝てる相手でもない。


 何の結果も伴わず、ただ、必死に戦って死ぬだけだ。

 そんな不幸な未来しかない。

 弱いものは蹂躙されるだけの世界だ。

 それを受け入れるのに、ただ、時間がかかっているだけだ。


「フリル、あなたは前からそうだわ。あなたは確かに強いし人を率いる力もある。だからすべてを自分だけで解決しようとし過ぎだわ。あなたは今、あなただけではないのよ」

「……ワイン」

「あなたの仲間には、あなたより賢い子もいれば、あなたと同レベルの、異なる戦い方の子もいる。それぞれが自分の持っている力を最大限に使えば、あなた一人で戦うよりも楽なのではないかしら?」


 フリルの仲間は今は多い。


 弓だけでフリルと互角の戦いをしたワイン。

 作戦の天才的立案者であるパン。

 大魔法使いであり、あの年齢で魔法学校の教師であるノー。

 変幻自在のフリーダムだが、獣のように強いストライプ。

 人の心を高揚させたり集中させることが踊りだけで出来るブラック。


 彼女たちはそれらの世界では恐れられる存在の人々なのだ。

 フリルはあまりにも近すぎて忘れていた。

 彼女たちは強い。


「そうか。お姉さまも、みんなで来てもいいと言っていたしな」


 その口調でお姉さまとか言われると違和感あるけどそれはそれでいい


「よし……! パン! ちょっと来てくれ! これから、お姉さま攻略の作戦を立ててくれ!」


「え? は、はい、分かりましたっ!」


 馬車に走って戻るパン。

 これから作戦会議が始まる。


 それはそうと。


「うにゃー……うにゃー……」


 ストライプはいまだにうずくまっていた。


「大丈夫か」


「うにゃ~」


 ストライプはこれまで見せたことのない表情。

 つまりは泣いていた。


 生まれて初めて尻穴に指を突っ込まれたのだ。

 泣かない方がおかしい。

 ここにいる全員が初めては泣いて……いや。


「泣くようなことをストライプはこれまでしていたのか」


 唯一、ノーのみが初めてから一度も泣いてはいなかった。

 ノーからすれば、自分がもはや慣れていることを、自分にそれをやっていた人間が自分でやられて泣き出す、という不思議な事態となっているのだ。


「これからは控えるといい」

「うにゃー……」


 ノーは寝転がっているストライプを起こす。


「自分がやられて嫌な事は人にしない方が──」

「うるさいにゃ! 何様だにゃ! ノーの癖に生意気だにゃ!」


 抱え上げた肩を落とされうつぶせにされる。

 そして、スカートをめくられ、


「あーーーーーーーーーっ!」


 ノーは叫ぶことになった。

 自分がされて嫌なことでも人にはしたい。

 それが自由なのだ。

 それが、ストライプという女の子なのだ。


 ノーのしたことは、ストライプにその開き直りを与えることだけだった。


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