第36話 プリンセス・フリル
「これはうまいにゃ!」
口に肉を頬張ったストライプが大声で言う。
「静かにしなさい? ここはそれなりに高級なレストランのはずよ?」
「ああ、構いません、先ほど貸し切りにしましたから」
そう言うのはさっきの男性。
この人は実はライゼル伯爵というそこそこ偉い人で、この国の上流貴族だ。
その貴族様が敬愛していたフリルは、つまり、この国の王女らしい。
「いっぱい食べるにゃ!」
もちろん遠慮などという言葉をどこかに置いてきたストライプは遠慮なく食べているが、あとは小食な子が多いので、あまり食べない。
そのレストランは、ブラックが言ってた場所でもないのだが、フリルの関係者とこのまま別れたくない伯爵によって連れてこられたのだ。
「そう言えば、彼女が我々はニックネームで呼び合おうと言い出したのでしたわ」
「そうなのですか。もしかすると、お名前が知られるのを恐れたのでしょうか」
「その時は『騎士殺しのエライザ』の名前が知られているからだと思っていましたわ」
「そうです……え? 『騎士殺しのエライザ』? ま、まさか、あの有名な強盗、エリーズ殿下の事なのですか?」
伯爵が驚く。
「そうですわね。出来れば私たちにも彼女のことを教えていただきたいのですが」
「それは……どうしましょうか」
「申し遅れました。私はフェケナ・『エルズィック』。エルフ族のエルズィック侯爵の娘で、彼女とは矢を交えた親友です。出来れば彼女のことをもっと知りたいのです」
ワインは自分の姓を、伯爵ではなくレザーに聞かせるように強調して言う。
「なるほど……ご親友となれば、お教えしないわけにはいきませんね。殿下は、名前をエリーズ・メラス・ケルメイスと言い、この国の第二王女です」
「第二、王女……」
この大陸の広大な部分を占める王国の、王の娘。
あの、フリルちゃんがである。
この中で一番あり得ないだろう。
いや、もちろんワイン自身やストライプは除くとしても、パンやノーが王女だったと言われても、なるほど、とか、やはり、と思うが、フリルの普段の言動を考えると……いや?
彼女は口は悪いが、物凄く面倒見はいいし、結局なんだかんだこのメンバーを仕切ってる。
本来レザーが集めたんだからレザーが仕切るのだが出来ないからフリルが仕切っている。
それに、最初に戦った時感じたのだが、彼女の剣は高貴な人の攻め方の気がしてならなかった。
昔、王国騎士剣術を嗜む人と戦ったことがあるが、それに似ていたのだ。
もちろん確たる証拠もないし人間の剣術をそこまで詳しく知っているわけではないから、おそらく「騎士殺し」の名の通り、騎士から技を奪ったものだと思っていた。
だが、その彼女が実は王女だった。
「…………」
なんとなく、悔しかった。
だけど、同時に納得もしたし、誇らしく思った。
自分が戦って仲間になった相手が、人間の王女だったということ。
自分の仲間が、人間では初めて認めた相手が、その人間を統べる王族の──。
「ワインはもう食べないにゃ? じゃ、もらうにゃ!」
「待ちなさい、私はまだ食べ……あ、べ、別にいいけれど、礼儀をわきまえなさい!」
ワインはおいしそうな物を取られてキレようとしたけど、目の前に伯爵がいてこんな状態で食べ物を横取りされてキレてたらエルフの育ちが問われるので我慢した。
「む? フリルの匂いがするにゃ!」
「え?」
そう言えばストライプはケットシーハーフで、猫は人間より遥かに嗅覚がいいから、遠くの匂いも嗅ぎ分けるのだろうか?
え? それなら昨日お風呂入ってないしどうしよう? とか、明後日の方向に戸惑い始めたワイン。
「こっちにゃっ!」
「あ、待ちなさい!」
走って出て行ったストライプを追うワイン。
守らなくては。
何しろ、フリルはまだ、特別な訓練を受けていないのだから。
※彼女たちは尻穴に特別な訓練を受けており、専門家の監視下のもと、行われております。
決して真似しないようお願いします。




