第31話 踊る子がぷんぷん。
「成功したみたいですね」
え? あれが成功なの?
「そうだな。あー、恥ずかしかった」
てめえ、揺れてただけじゃん。
「私は平気」
お前こそ恥ずかしがれよ。
「ストライプをもっとどうにか出来ないのかしら?」
そうだね? でも多分それだと、客集まるかな?
「楽しかったにゃー!」
だろうね?
「疲れた……」
てめえ、何なんだよ?
「これでどれくらいお金がたまりましたか?」
「これだけにゃ!」
ストライプが持っていた袋をパンに手渡す。
「えーっと……結構な金額ですね! ただ、このペースですと、馬車は結構先になっちゃいますね……」
馬車ってのは高い。
くっそ高い。
そこらに家を建てるよりも高い。
こういう時「じゃあ、貴族の屋敷より高いんですかー?」って言う奴は友達がいない。
何が高いかって動力源になる「馬」が高い。
百年くらい前に開発された魔法で動き、魔力さえ定期的に与えれば死ぬこともけがをすることもない人形馬が結構高いのだ。
馬とは違い一日中高速で走り続けても疲れないし過労死もしないから、長距離旅行用馬車には必須だ。
逆にそれなしに旅をしてたこいつら何なの? って感じはある。
「もっと大規模に稼げばいいにゃ!」
やっかいさんにしてはまともな提案をする。
だとしてもやっかいさんだから。
「大規模って例えば何をするんです?」
「それは賢いのが考えるにゃ~」
賢いの、と言われて、パンがプレッシャーを感じる。
ノーも天才なんだけど他人事だ。
「えーっと、えーっと……」
パンが必死に考えるとき、隙だらけなので、それを狙っていたストライプをフリルが警戒する。
その瞬間だった。
「あ、あれ?」
一瞬前までパンが持っていた金袋がなくなっていた。
玉袋でも金玉でもないよ? それはなくなる前に持ってないから。
持ってたらそれはそれでって性癖の人もいるよね。
まあ、とにかく、金が消えた。
「誰だてめえ?」
彼らが集まっていた広場の片隅から少しだけ離れた場所に、一人の女の子が立っていた。
「あたし? あたしはアヴェシーナ。この広場で一番の人気踊り子だよ?」
完全に挑発的な態度のその女の子は、褐色の綺麗な顔のスタイルが奇跡的な女の子だった。
長い銀髪がその子の踊るような動きに合わせて揺れる。
少ない布地に覆われた褐色の肌は、この辺りの地域では珍しい人種だろうか。
「で、何で俺らの金を掠め取ろうとしてんだよ?」
ていうか、こいつらにちょっかいかけるとか普通にヤバいレベルだろう。
全員の正体知ったらちびるかも知れない。
レザーは全員の正体を知っているけどちびらない。
そういうのは13歳で卒業した、遅いな。
「あそこにいたお客はみんなあたし待ちだったんだよ。それをあんたらがごっそり持ってったから、あたしが稼げなかったんだ。だからこの金はあたしのもんだ。違うか?」
「違うな」
「違うわね」
「違うです」
「違うにゃ」
「違う」
「違わない!」
一斉に否定され涙目のアヴェシーナ、まさか納得されると思ってたのか?
「とにかく! あたしも生活ってもんがあるから! これはもらっていくよ!」
「駄目だ」
「駄目ね」
「もうそれはいいっ!」
今度は自分から止めた。
傷つきたくない子なのね。
「じゃ、用はそれだけ? だったらもう行くわよ?」
「行かせるかよ!」
フリルが動く。
忘れてたけど彼女は騎士殺しの……えーっとなんだっけ?
そう、騎士殺しのフリルだったのだ。
こんな可愛い異名だったっけ?
「あたしに喧嘩を売ろうっていうの? 何も分かってないね。こんなならず者が多い場所で女一人で生計を立ててるってのがどういう意味なのか!」
凄んでるけど、結局どういう意味なの?




