第3話 エライザと生活……するの?
「おら、ここだ、入んな」
「はい……」
街道から山道を結構上って、疲れたので途中からはエライザに背負ってもらってここまで来た。
エライザの背中は、髪からいい匂いが漂ってくるし、身体も柔らかいしで、最高の気分だった。
女の子に背負われているという情けなさもなくはなかったが、それでもこの子の背中にしがみついているという天国には逆らえなかった。
でもさ、童貞ってそんなもんでしょ
女の子の匂いとか身体の柔らかさに何も感じなくなったらそれはもう、童貞じゃない、ただの魔法使いだ。
「結構広くて綺麗ですね」
「なんだよ、どんな部屋を想像してたんだよ?」
「なんかこう、人の生首がたくさん飾ってある感じの」
「生首飾ってたら腐るわっ! くっせえわ!」
「リアルなこと言わないでくださいよ!」
「てめえが言わせたんだろうが!」
怒鳴られたが、もうそこまで怖くない。
どちらかというと優しさを感じている。
口調こそ荒いが、行動は優しい女の子のそれだ。
本当は怖い女の子ではないのだろうか?
「おら、座ってろ」
「はい」
広い家の中の大きなソファに座らされた。
室内には花のような香りがする。
もう、完全に女の子部屋のそれだ。
もちろん、童貞のリークは女の子の部屋は妹くらいしか知らないし、妹はまだガキなので、こんな洗練された部屋じゃない。
つまり、初めて入った女の子の部屋が、騎士殺しの部屋だったということだ。
女の子の部屋、ということは、この空間で女の子が生活をしているということだ。
つまりはあの可愛いエライザが、ここで生活をしており、あのベッドで寝たり、このソファでぼーっとしたり、あのあたりで着替えたり──。
「待たせたな……何やってんんだ?」
「え? ええ? な、何にもしてないですよ?」
「だったらなんでそんなところで引き出し開けてんだよ?」
リークはエライザが別の部屋に行ってしまったのをいいことに家探しをしていたわけだが。
「その……パンツとか、どこにあるのかなって思って……」
「…………!」
さすがにこれは殴られるかなと覚悟した。
「……パンツは二番目の引き出しだ」
エライザはあっさり教えた。
「え? い、いいんですか?」
「これから一緒に住むんだったら場所も覚える必要もあるだろ?」
「五枚もらってもいいですか?」
「五枚は多いだろ! 七枚しか持ってねえんだぞ?」
その言い方だと、なんか、交渉次第では三枚くらいならくれそうだ。
「おら、飲め」
エライザが酒でも出すような口調で出してきたのは、紅茶だった。
もう、完全に女子だ。
石鹸の種類と、甘いおやつが話題の中心になりそうな女子だ。
「ありがとうございます」
リークが口にすると、それはハーブティーだった。
女子力高い。
あの細身で騎士を殺して戦ってたと思うとどう戦ったんだろうな、などと考えてしまう。
「ちょっと家ん中回ってみるか。これからここに住むんだから知っといた方がいいだろ」
「あ、俺は別にここに住むわけでは……うわぁっ!」
当然リークは有無を言わさず連れて行かれるだけだ。
「いい景色だろ? ここから街道を見渡せて、街道に人が通るのが分かるんだ」
家の上の階に上って、そこから窓の外を見ると、この家が丘の上にあって、全方向見渡せるのが分かる。
特に長い街道は、かなり遠くまで見える。
あの端から人が歩いてきたり、馬で走ってきても、丘を走り下りれば間に合うだろう。
「いい眺めですねえ……」
「ああ、俺の自慢だからな」
街道があり、森が続いている、遠くにまた高い山がある。
村で平凡な生活をしていたリークが見るはずのなかった景色だ。
「ここを見られるのは、俺とお前だけだ」
「エライザさん、俺、実は──」
「ちょっと待て……あれは、エルフか?」
リークの言葉を遮り、エライザが街道を見る。
「エルフは戦士として鍛えればかなり強えらしい。あいつはどうかな?」
「えーっと……どうでしょうね?」
「ちっと行って戦ってくらあ。あいつらいい工芸品持ってるらしいからな!」
「あ、ちょっと!」
エライザは走って出て行ってしまった。
どうしよう、と悩むリーク。
リークはここで住むつもりはない。
だからこの隙に逃げるのもいいかもしれない。
パンツ三枚くらいなら盗んでも追いかけて来ないだろうか?
「……ああもうっ!」
だが、多分逃げてもどこまでも追いかけてきそうなので、ついていくことにした。