第2話 騎士殺しのエライザ
「どっちに行けばいいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
荒野の街道で一人、リークはわが身の理不尽に吠えた。
彼がこれまで信仰してきた女神ライウェル様は、結局事実を伝えただけで逃げやがった。
だから、魔王がいるのは分かったが、どこにいるかすら分からない。
ただ、「魔王から最も離れた地域」と言っていたから、大陸の西端であるリークの生まれた村から東へ行けば何となく分かるのでは、と思い、とりあえず街道を東へと歩いている。
が、あまりにもふわっとし過ぎて、もうどうしよう、と絶望している。
そもそも、たとえ万一魔王の元にたどり着いたとしても、妹にも負けるリークが敵うわけがない。
指先一つでダウンして終わりだ、ひでぶだ。
「そもそも俺、武器の一つも持ってないんだよなあ……」
武器の一つも持っていたら敵うかと言えば、伝説級の武器を持っていても敵わないだろうが、弱いくせに何も持っていないのは逆にわざわざ相手をしてくれる魔王に失礼だろう。
どうすればいいのか、と途方に暮れるだけだ。
とぼとぼと街道を歩き続けるリーク。
そういえば食料をどこで調達しよう?
「よお、てめえ、ここを通るってことがどういうことか分かってんだろうな?」
そんなことを考えていたら、道脇から、ふらり、と女の人が出てきた。
ブラウンの髪の、細身長身の女の子で、少し吊り気味の目が魅力的な可愛い子だった。
「すみませんわかりません、教えていただければ幸いです」
「てめえ、なめてんのかぁ?」
「ひっ、なめたいです! いえ、なめてません! でも、なめたいのは事実です!」
リークは案外正直者である。
思ったことは言わずにはいられなかった。
「て、てめえっ! エライザを知らねえってのかよ、クズが!」
なんか若干赤くなったこのお嬢さんは、見た目こそどこかの令嬢と言われても信じられるほどの清楚な美少女風なのだが、その口から出てくる言葉は男にしても汚い口調だった。
「エライザ、エライザ……ああっ! 『騎士殺しのエライザ!』」
「おお、それだそれが俺だってんだよ!」
『騎士殺しのエライザ』とは、ここら辺りの街道に出る単独強盗の名前だ。
女の子の見た目だと思って油断していると、鬼のように強く、強盗の存在を聞いて捕らえに来た衛兵も、五人で来て全員が衣服を脱がされて裸で追い返された。
それどころか、王城から派遣されてきた騎士ですら敵わなかったらしい。
「別に騎士は殺してねえんだけどよ。あの騎士の鎧を剥いで追い返したら後で自殺したってだけだ」
「いえ、別に聞いてないっす」
「聞けよ!」
「ひっ! 聞きます! エライザ様は人を殺さない素敵な人です!」
「そ、そうか……」
なんだか満更でもないエライザ。
もしかすると、本当はいい子なのでは? などと思ってしまう。
「まあいい、分かったらさっさと金と服をおいてどこかへ行け」
「パンツは勘弁してください! ちんちんに自信がないので!」
「ふざけてんのかぁぁぁぁぁぁっ!」
リークは、本当にちんちんに自信がなかった。
これは生まれながらのものだからどうしようがない。
努力次第でどうにかなるものでもない。
だから、何度も何度も言うけど、女の子は相手のちんちんが小さくても指摘しちゃだめよ?
本当に駄目よ?
「さっさと脱げ! 全部脱いでここに立って頭に手を回せ!」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
リークは慌てて、服を脱ぐ。
金はほとんど持っていない上に、服もパンツまで剥がれたら、これからどうやって生きていけばいいのだろうか?
全裸になったリークは、エライザの指示通り、頭に手を回して直立する。
エライザはその様子をじっと見つめる。
えらく、優しい表情で。
「ふふふっ。てめえ、可愛いな」
「また言われたぁぁぁぁぁぁぁっ!」
リークのちんちんは、こんな野蛮な女の子が見ても、追剥ぎとして何本ものちんちんを見てきた子が見ても、可愛いのだ。
「まあいい、じゃあ服を着ろ」
「え? は、はい……?」
脱がされた服を、また着せられる。
ただちんちんを見られ可愛いと言われただけだった。
いや、でも、膨張率は凄いんだ、ということを何とか主張しようとしていたがさせてもらえそうになかった。
ちなみに膨張率は1が2になれば二倍なので、5が6になるよりあるのは当然の話だ。
「こっち来な。これからお前は俺が養ってやる」
「……へ?」
さっきまで殺されかけたり、ちんちんを可愛いと言われていたのに、いきなり養われることになっている。
よほどちんちんが可愛かったのだろうか、養いたいくらいに。
「おら、こっち来な?」
「え? うわっ!?」
腕を掴まれて、街道脇に引っ張られる。
当然、リークは抵抗も出来ないまま、エライザの家まで連れていかれた。