第13話 慣れるな危険
「よお……いい加減泣き止んだらどうだ、まあ、気持ちが分からなくもねえんだがよ……」
「うう……ぐずっ……」
ワインは、ずっと泣いていた。
談話室にあまり長くいられなかったので、マリュン師が工房に来てもいいというので場所を移動した。
移動中もずっとワインは泣いていた。
泣いている原因は一つであり複数だろう。
そもそもの原因は、ヴェナに尻穴を許したこと。
だが、そこには色々な複雑で単純な要素が絡み合っている。
彼女は戦いにも自信がある。
騎士をも倒すフリルと引き分けた程だ。
それが油断したとは言え、ヴェナに攻撃を許してしまったのだ。
しかもこのヴェナは、開放反対派の家で育ったワインにとって、「女王の奴隷」程度の存在だったのだ。
今はそうではないと頭では分かっているが、彼女に負けたのはとてつもなく悔しい。
更に、これが一番の理由だが人前、張り合いがあって仲がいいフリルや、何故か気になって仕方がない男子のレザーにも見られながらパンツを下ろされ、あられもない声で叫んでしまった。
貴族の令嬢として、これが一番恥ずかしくて死にたいとも思えてくる。
「マリュン、この菓子はもうないのかにゃ?」
しかも、その元凶は、すっかりワインの存在を視界から消していた。
「それは私がひと月かけて午後のティータイムに食べようと思っていたお菓子。許せない」
「ナルケナに請求するといいにゃ」
一ミリも悪びれた様子のないヴェナ。
「元々はナルケナから、ヴェナが迷惑をかけていると謝罪で貰ったお菓子だった」
「じゃ、元々は私のだにゃ?」
「違う」
ヴェナは自由というか無礼というか、とにかく関わりたくはない人だ。
簡単に言うと、ジャイなんとかみたいな奴だ。
「ふむ……調べましたところによると、あのヴェナさんも死霊使いを倒した一人のようです」
「え!? あの人が?」
劇場版だった。
今、お菓子がなくなって退屈なのか、マリュン師の髪をまとめていじっている、とにかく自由奔放なケットシーハーフの子が、最強の死霊使いを倒した一人らしい。
「そう言えば、あなた達は何の用だったのか。結局セックスは、駄目なのか」
「いや、そっちは駄目だが──」
「む、セックスにゃ? こづくりするにゃ?」
話にやっかいさんが入ってきた。
「しねえよ」
「こいつなら子孫を残してもいいにゃ」
「だから、しねえって!」
レザーはとしては、この人とやるのもやぶさかではないが、フリルが駄目と言うから駄目なのだろう。
その辺に何故か疑問を持たないレザー。
「私はケットシーハーフだから一回のこづくりで沢山生むからお得にゃ。私とよく似た子供が大量にゃ!」
「恐怖しか感じない」
答えたのは、髪の毛を途中で放り出されてただ滅茶苦茶になっただけのマリュン師。
「そんなことないにゃ! 全員私に似て可愛いにゃ!」
「可愛いことは認めてもいい。だけど、厄介さの方が上」
「にゃんだと~!」
「あーーーーーーーーーっ!」
ヴェナは再び、マリュン師の尻穴に指を両腕で入れた。
おそらく両親指を入れて広げているのだろう。
ちなみにマジで危険なので、真似しないでください。
マリュン師もワインも特殊な訓練を受けています。
その特殊な訓練をじっと眺めていたい。
「ひどい目にあった」
「ねえ、あなた本当にそれでいいの?」
やっと泣きやんだワインが、ほぼ平然としているマリュン師に聞く。
「親指に慣れたのはほんの最近」
「慣れている人は叫ばないでしょ?」
「それは新説」
何なのだろう、二人の間に色々な歴史と関係があることは分かったが、自分をその基準で考えないで欲しい、とワインは思った。




