第111話 そして、誰も……
「まあ、あれね……」
最初の口を開いたのは、ワインだった。
「女の子の数が多すぎるわね」
「そ、そうですね……」
「他の子たちが可哀相なので私は遠慮しておくわ」
物凄く体のいい拒絶だった。
「あ、じゃあ私も……」
「私も行くわ」
「私も」
「私はこづくりが出来れば顔はこだわらないにゃ!」
「いいから空気読みなさい?」
「あ、あの、私も行きます……今までありがとうございましたっ!」
パンも去っていく。
「私はセックスが出来ればそれで」
「空気読むにゃ!」
「あーーーーーーーーーっ!」
ノーまでもが、去って行った。
元ライサナの住処には、動くものはいない。
ただ、ノーの魔法で半壊した元居住地と、それでも燃やし切れなかったライサナの遺体、そして、向こうに転がって行ったのはケットシーのだろうか。
せめて埋葬だけでもしてあげようか。
レザーは半壊した家に入ろうとする。
「何するつもりだ?」
「…………!」
誰もいないと思っていたので、レザーはびくん、と身を震わせる。
振り返ると、そこにはフリルがいた。
「フリル、さん……?」
なぜ彼女はここにいるのだろう?
いや、別にここを去る必要なんて全くないのだが。
でも、ここにいるという事は基本、これからもレザーと行動を共にするという事であって。
「何をするのかって聞いてんだよ」
「あ、あ……ライサナさんと、ケットシーを埋葬しようかと思いまして」
「はっ、相変わらず優しい奴だな」
そう言って、フリルは、先に家へ入って行った。
スコップを探し、穴を掘り、遺体を埋めて土をかける。
それら全て、レザーは見ているだけだった。
なんかやれよ。
そして、まだ、フリルがここに残っている理由を聞けないままだった。
彼女は口は悪いが、最高の美少女で、面倒見も良く優しい。
こんな女の子が魅力の戻った自分なんかのために残るわけがない。
「……あれだ」
「はい」
ライサナを埋葬した墓をじっと見つめながら、不意に口を開く。
「魔王を倒したてめえなら、あの二人も認めてくれると思うけどよ、それでもまだ特訓だ。しばらくてめえを鍛えるぜ? 覚悟しとけよ?」
「あ、はい……え? あの……」
「何しろ、お姉さまが死んだ以上、俺の夫がこの国の王になるんだからな。生半可な奴では駄目だってことだ」
「はい……」
という事は、つまり……。
頭脳が戻ったレザーには分かる。
これはこれまで同様、自分に付き合ってくれるという事だ。
「帰るぜ? あの家によ」
「はい、フリルさん!」
「あー、もうそれはいいだろ」
「えっと?」
「俺は、エライザだ。これからはそう呼べ、えっーっと……リーク!」
名前を忘れたので、過去を読み直したのは言うまでもない。
じゃあ言うなよ。
「はいっ、エライザさん!」
こうしてリックとエライザは、エライザの住んでいた場所に戻り、そこでしばらく暮らすことになった。
今後彼らがどうなるかは、またの機会に。




