第109話 倒したなら、結婚。
「はあ……でも良かったですわ」
ライサナの表情は晴れやかだった。
「これで、わたくしも結婚できますわ」
「え……?」
ナイフで刺されて瀕死の状態にもかかわらず。
「え? え? でも……」
「わたくしを倒した殿方、その方と結婚するのがわたくしの国の掟なのですわ」
それは知っている。
知っているけど、いや、でも……。
「ふふふ、わたくしも普通の人間と結婚できるとは思いませんでしたわ」
「…………」
ライサナ、第一王女で、見た目は美しい。
魔王すら瞬殺した化け物。
結婚相手は、王にもなるのだ。
ある意味最高の女性と言ってもいいだろう。
……嫌だ。
レザーは全力で拒絶したい。
だけど、そんな一言、この人に言うのが怖い。
レザーはネトラレ顔してるフリルに、必死に視線を送り訴える。
「お、おい、こいつは俺の男だ。他を当たってくれ……!」
「あら、あなたもこの殿方に負けたのかしら?」
「いや、負けてねえけど……」
「よかったわ、これ以上あなたと殺し合いなんてしたくないもの」
「……いや、だから……」
「あ、そう言えば、そんな事より」
「そんな事より!? てめえが助けてって表情したんじゃねえか!」
「いえ、そうじゃなくて、ステータス操作器が!」
「ステータス操作器? ああ、あれですか神々の持っていた物ですね」
「は、はい、あれが改造されて止められなくなってるんですけど、戻してくれませんか?」
「ああ、あの改造は、神が相手ですから普通の改造ではありませんわ。私の気を感じて常に現状を保ち続けるようになってますのよ。ですから、わたくしがいる限りわたくしにもどうすることも出来ませんわ」
「ど……で……!」
どうすることも出来ない。
ならどうすればいい?
いや、どうすることも出来ない。
レザーの生き延びる道は、このままライサナと結婚して、彼女に神々から守ってもらうしかない。
魔王ライサナの夫。
そんな立場になるのだ。
他に道はない。
ステータス操作器は動き続けるのだ。
彼女が生きている限り
彼女が……あれ?
「フリルさん、ライサナさんを──」
「爆裂電撃滅!」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
誰もかれも、すっかりその存在を忘れていたが、ノーはずっと呪文を唱えていたのだ。
そして、今やっとその呪文が完成し、それをもはや勝負の付いているライサナに撃ってしまった。
「レザー!」
爆流に飲まれかけるレザーを、フリルが抱きしめる。
だが、こんな場所にいるなら、結局はどちらも即死するしか──。
「……あれ?」
なんか、ほとんど熱くないし、耐えられる。
「みんなにはさっき防御魔法を最大にまでかけている」
ノーが答える。
「これで、倒した」
めっちゃ空気の読めてないノーが、無表情だけど、ドヤ顔に見える。




