第1話 女神の謝罪
この物語はハイファンタジーであり、○ッセンもデート商法も存在しません。
似たような詐欺商法の話が出てきますが、それは別のものだと思われます。
「お、お兄ちゃん……」
数日前から、その異変には気づいていた。
だが、その日、もっとビッグな異変が勃発してしまった。
いつも遅いと起こしに来てくれる妹が、リークのベッドに入り、彼に覆いかぶさっていたのだ。
「ちょ……おま……なんだよ……?」
寝起きをいきなり襲われ、抵抗しようとするが、何故かできない。
あまりにも、妹の力が強かったからだ。
「お兄ちゃん……大好きだから……」
「ちょ……やめろって!」
三歳年下の妹は今年で十三歳になる。
少し前に比べたら成長はしているがまだまだ子供で、リークより力があるわけがない。
それに常識的な子だ。
性徴期が近いからと言って、別に実の兄であるリークに恋をするような子でもない。
むしろ徐々に女の子になってきて、リークとは線を引くようになってきたところだ。
「や……めろって……」
全力を出しても、十三歳の妹に全く敵わない。
抵抗できないことが分かり、徐々にリークの服を脱がしにかかる妹。
「お兄ちゃんったら、可愛い……」
「パンツを下してそんなことを言うなぁぁぁぁぁぁっ!」
お兄ちゃんのお兄ちゃんはめっちゃ可愛いのでめっちゃ傷ついた。
これを読んでいる女の子は、人のちんちんが可愛いと思っても絶対に言わないこと!
お世辞に「まあ、ご立派」って言っておけばいいの!
分かってても嬉しいの!
もう、リークはその初めてを、妹に奪われる直前だった。
「な、なんだこれ!?」
リークの部屋の隅に、強い光が発生した。
「きゃぁぁっ! た、助けてっ!」
さっきまでリークを襲っていた妹も慌てて逃げ出した。
リークは自分の部屋の異変なので、逃げずに様子を見守った。
やがて光は人の形を形成していった。
「だ、誰……?」
「私はライウェエル。光の女神です」
「女神さま!?」
リークは驚くしかなかった。
女神なんて目の前に現れるものだとは思ってもいなかったのだ。
一応リークも信仰心があり、親に連れられて教会に祈りには行くのだが、実在なんてするともしないとも考えたことがなかった。
もちろん、ライウェエルの存在も知っている。
光を司る神で、光そのものだけではなく、抗魔の神とも言われる。
この世のあらゆる魔から人を守ってくれている神、その先頭にいるのが彼女なのだ。
「実は今日、あなたに謝罪をしなければならず、ここに来ました」
「謝罪? 神様が俺に、ですか?」
神様に謝られるほど神と絡んだことなどないリークは戸惑う。
「我々は、あなたを魔王を倒す勇者にしようとして、高い能力を与えようとしていたのです」
「え? マジでですか?」
「はい、あなたは教会へのお祈りも欠かしておりませんし、この町は平和で最も魔王の居住地から遠いため、魔王もすぐには気づかないと思いまして」
「そうですか」
自分が勇者になる。
そんな夢のような展開に、リークは燃えてきた。
「ですが能力を操作する機器、通称チートツールがバグっておりまして」
「は?」
チートツールって何だろう。
バグって何だろう。
知らない言葉だらけだ。
「あなたのステータスがおかしなことになってしまいました」
「どういうことですか?」
「あなたの腕力や筋力、知能など、全ての能力が著しく低下してしまいました」
「ヤバいじゃないですか!」
どおりでここ最近、妹にまで力で負けると思っていた。
「このツールが徐々に効いていたので気づきませんでした。それで今日まで落ちたままになっていました」
「で、それは止めてくれたんですよね?」
女神がここに来たということはそれに気づいて止めたということだろう。
「はい、何とか止めましたがすぐには戻せません。機器の動作がおかしくなっているようです」
「マジですか!?」
するとしばらくは妹より力の弱いままか。
何故神が戻せないのか?
神の作った機器なら直せるあろうに。
「それと……もう一つ、なのですが……」
「まだ何かあるんですか?」
「魅力が上がっているのですが、これだけはどうしても止めることが出来ません」
「ファッ!?」
どおりで最近、女の子に声をかけられると思っていた!
童貞のリークはイルカの絵を売りつけられたり、集団で取り囲んで宝石を買わせるんだと思って逃げていたんだが、彼女たちは本気で誘っていたのか!
ついて行っときゃよかった!
「どうして止められないんですか!?」
「ステータス操作器は、もともと神々で作ったものですが、これを使うことが魔王側に漏れてしまったのか、改造されてしまっていたようです」
どうして神が保管していたツールが魔王に改造されるの?
管理はどうしていたの?
いろいろ思うリーク。
「その機器を壊すことは出来ないんですか?」
「壊すとあなたの全ステータスが0になってしまい、死んでしまいます……」
「……マジかー……」
どうしようもない現実に、それまでの平凡な生活にはもう戻れない気がする。
何しろ妹に襲われて抵抗できないなら、もうこの家も危険だ。
「ちなみにこのまま、ほっといたらどうなりますか?」
「魅力が上昇し続けて、カンストの9999999999まで上昇します。ちなみに私より遥かに高く、全知全能の最高神に匹敵するレベルです」
「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
魅力が神以上となると、それはもう神ではないだろうか?
「そうなると、もう誰もが神ではなくあなたの言うことを信じます」
「そ、それって……」
「それはもう、魔王以上の神の敵になります。そうなったら我々は……ステータス操作器を壊すしかありません……」
「そ、それって俺が死ぬってことじゃ……」
「そうなります」
「そうなりますじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
あまりの理不尽さに、相手が尊敬する女神とはいえ、切れるリーク。
「なんで俺、選ばれたはずなのに殺されなきゃならないんですか! 理不尽にもほどがあるでしょうが!」
「分かっています! ですから、そうなる前に、魔王を倒してくれませんか?」
「え? 俺がですか?」
「はい」
「女の子に腕力で負けるくらいの俺に何ができるっていうんですか!」
「何とかしてください」
「いきなり適当になったなあ! どうすんだこれ!?」
「あなたの魅力で何とか頑張ってください。では~」
女神はそう微笑むと消えてしまった。
「何じゃぁぁぁぁこりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
叫んだが応える者はもういない。
妹が襲ってくるこの家にももういられない。
リークはその日には家を出て、魔王討伐に向かうしかなかった。