後日談
篠突く雨に降り籠る。その先はーーーー
あの日を境に梅雨明けのニュースが流れた。それと同じく、古ぼけたハイツの一室で老人の孤独死がひっそりと住人たちの間で伝えられた。
山田さんは自室で本やアルバムの下敷きになり打ち所が悪く亡くなっていたそうだ。私と夫が話を聞く前に。
「え……? すみません、もう一度いいですか?」
「山田さんが自室で亡くなったのは大雨の前日らしいのよ。アルバムを引っ張り出そうとして、バランスを崩して倒れた時に打ち所が悪くて亡くなったそうよ。姿が見えないから心配で様子を見に行った時にはもう……」
何かの間違いかと思った。だって、扉も開いたし受け答えしていたし泣いているのを慰めもした。話もできたし写真だって……。
いや、本当にそうだろうか? 扉は私が開けた気もするし慰める時も触れてはいない。写真は元からテーブルの上にあった様な気もする。でも夫婦揃って同じ物を見るのだろうか?
「……さん、菊池さん大丈夫?」
「す、すみません。考え事をしてしまって」
「山田さんと仲が良かった方だものね。急で驚いたでしょう?」
「え、えぇ」
親族が居ない山田さんは友人達と大家さんが悼み、ひっそりと密葬するみたいだ。それだけを言うと、他の人にも伝えなきゃいけないからと去っていった。
「まさか、あの時には既に亡くなっていたなんて」
「白昼夢を見ていたみたいだな」
「はくちゅーむってなぁに?」
「白昼夢って言うのはな……」
夫のシャツを引っ張り、無邪気にケイが聞いてくる。それを横目に見ながら思いを馳せた。
+ + +
私達はと言うと、やはり殺人現場だった部屋で暮らすのはケイにも良くないだろうと引っ越す事にした。今日は荷物を運び出す日だ。
太陽が眩しいくらいに照らし梅雨が明けたばかりだと言うのに、さっそく猛暑日になりそうだ。
「はーっ、暑いわぁ」
少し体を動かすだけでも滝の様に汗が流れてくる。夫の方を見れば、今日もハイネックの服を着ていた。
「ねぇ、一哉さん暑くないの?」
「ん?」
「そんなにハイネックの服、好きだった?」
「あ、あぁ。好きだよ?」
何か違和感を感じる。けれど、それが何かは分からなくて首を捻った。
「そうだった?」
「うん。……あ、ちょっと待って下さい。それはボクが持ちますよ」
引っ越し業者の人を呼び止めて何かを指示している。最近は疲れが溜まっているせいか、怠そうにしていたはずだ。あんなに積極的に動けるほど回復したのだろうか?
「ケイくん、何描いてるの〜?」
「おばーちゃんとミカちゃん!」
「ミカちゃんじゃなくて、美鈴ちゃんよ」
「そうだった〜、えへへ」
邪魔にならない様にと隅で絵を描いていたケイに歩み寄る。ケイは絵を描くのが好きみたいだ。覗き込んでみると、山田さんと美鈴ちゃんが仲良く手を繋いで笑っている絵だった。その周りを囲む様に花が描かれていて暖かそうな絵に口元が緩む。
「上手に描けたね〜。……あら、もう一枚描いたの?」
「うん、ままとねぱぱとねぼく〜っ」
「っ!?」
別の紙と重なる様に置かれた絵に気づき、手に取れば全身がゾクリと粟立った。中央に居るケイを挟む様に左右に私と夫が手を繋いでいる絵が描かれていた。
夫の首は赤く黒い服を纏い、弧を描く様な笑みを貼り付けている。その後ろには……。
あぁ、どうして気づかなかったのだろう……。
怪奇現象に巻き込まれていたのは、私だけでは無かったとーーーー
了
これにて完結となります。お付き合い下さいましてありがとうございました☆
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