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第一話―異動ですか!?―

 某艦隊ゲームの小説版の影響を受けて女の子たちがスポ根的に頑張るお話が書きたくなって始めました。遅筆ですが、ゆっくりお付き合いお願いします。


「Gyaaaaa―――――――!」


 悲鳴のような咆哮が都会の空に劈く。発声したものは空を埋め尽くさんばかりに巨大な怪物だ。黒い外殻に包まれた節足動物、広げた翅からは不快な羽ばたき音が鳴り響いている。その外見は巨大な甲虫そのものだ。子どもが憧れる夏の風物詩とも言える存在、カブトムシにどこか似ていた。

 しかしその大きさは、まるでカブトムシなんてものではない。ジャンボジェット機すらも小さく見えるような大きさだ。子どもが憧れるどころか大人でも軽く踏み潰されてしまう。まさしく怪物であった。

 この怪物は[Raider]と呼ばれており、地球外からやってきた侵略型生命体だ。百年前に現れて以来、人類はこの怪物たちと長く争いを続けてきていた。

 そう、戦っていたのだ。まるで人間では敵いそうにもない、兵器を持ってしても打倒することが叶いそうにもない怪物と、現代まで戦えてきたのだ。

 屈強な男なのか。いや、違う。異世界の勇者だとでも言うのか。もちろん違う。異能を持つ少年でも、機動兵器を操る天才パイロットでも、はたまたギャグ漫画の恩恵を受けている主人公でもなかった。

 あの怪物と戦える存在、それは。


「甲虫型Raiderの大型種、か。危険度は低いけれど厄介な敵なんだよね。耐久高いうえに硬いから」


 赤いバックパックのようなものを背負った、少女だ。

 バックパックから推進剤のようなものが吹き出ておりその力でだろうか、少女はこの大空を飛んでいた。空中を自由に移動できるようで、推進剤のようなものを噴かせながら、怪物のまわりを遊泳している。

 外見は、小学生ほどだろうか。まだ幼いながらも子供すぎず、さりとて大人では絶対にはない、まだ子供であることを証左するような未発達な体格に不似合いなゴテゴテとした装飾のついた大きな剣と、腰にはこれまた身体つきに似合わない、いかつい銃を差していた。

 世が世であればまさか、と言いたくなる。

 小学生の女子が戦おうとしているだなんて。

 しかし、これが現実である。現代の、怪物たちに立ち向かうために人類が手に入れた武器であり手段。


 少女は剣を軽々と肩より上に持ち上げ、にんまりと笑う。余裕のある表情だった。怪物が身体を回して、少女の姿をその目で確認した。カブトムシに似ているというだけありつぶさな瞳のようでもあり、しかしその奥底にはぐるぐると渦巻いた闇しか見えないようで、普通の人ならば目を合わせるだけでも発狂するであろう。

 しかし少女は動じない。揺るがない。まっすぐに怪物を見据えて、笑顔を崩さない。にっこりとした笑顔ではなく、キリッとしていながらも穏やかな笑顔だ。


「GyaaaaaAAAAAーーーーーー!!」


 少女を確認した怪物が再び吼える。硝子を引っ掻いたような不協和音にも顔を歪ませることなく、少女は変わらない。怪物がその巨体からするすると触手を伸ばしてくる。どうやら触手は腹部から生えているようで、一見すると腸をそのまま伸ばしているようだった。

 ひょいと躱して、触手を剣で断ち切る。しかし触手は一本だけではない。何本も生えてきており、そのどれもが少女を狙っていた。そう、どれもが、すべてが。


「こちらがお留守ですよ」


 っと。次の少女がくる。剣の少女と同じタイプのバックパックを背負っている。しかし彼女が所有する武器は違う。それは杖だった。武器、と言えるのか怪しいそれはしかし、どうしようもなく武器であった。杖の周囲に推進剤のようなものと同じ光が纏っている。

 杖の先端に光が集中したと思えば、一瞬のうちに光線となって飛んでいく。

 グチャグチャと生々しい生命器官が潰れる音があたりに不快に鳴る。怪物の目を狙って撃った光の光線が寸分狂いもなく命中したのだ。


「ナイスショット、片目潰れたよ!」


「油断したらアカンよ、もう再生始まってるし。再生が終わる前にもう片方も潰して、一気に畳み掛けるよ」


「んー、じゃあわたし今の間にチャージしとくねー? 動き止めるのよろしくー」


 さらに三人やってくる。やはり、剣の少女と同じようなバックパックを背負った少女たちだった。そのうち一人はその場で待機して、背後に浮く大きな三つのリングに光を集めだした。先ほどの杖とは比べ物にならない量の光が集中してきているのが一目でわかる。

 他の二人はそれぞれの武器を持って怪物の注意を引いていた。一人は槍で、もう一人は二振りの刀の二刀流。

 二人が接近し、剣の少女は銃に持ち替えて援護射撃をし、杖の少女もそれに追随する。


「よっし、触手掃討完了!」


「両目とも完全に潰しましたよ」


「脚全部斬り落としといたよ」


 セリフだけ聞くとかなり物騒である。やっていることも物騒であるのだが。少女たちが言うように怪物の身体は触手、節足、目。どれもすべて、見るも無惨な状態になっており、胴体と目のない頭だけが残ったその姿はまるでだるまのようだった。


「じゃあ、わたしたちは巻き込まれないように離れようか。あとはお願いするねー!」


「んー、りょーかいー」


 だらしなく敬礼をしながら、少女はリングを自分の前に移動させる。リングにチャージされた神々しいほどの光の塊は、見ているだけでも暴力的なエネルギーの塊であることがわかる。

 グルングルンとリングが空中回転を始める。三つのリングが円を描くように回転すると、三つのリングの中心に光の塊が集まっていく。

 ただでさえ大きく暴力的であった光の塊は、最早太陽と誤認してしまいそうなほどに膨れ上がっている。直視すれば目が焼けてしまいそうだが、少女は気にした様子もない。この光そのものであるエネルギーを扱える少女にとっては、大したことのないものなのかもしれない。

 慣れ親しんでいるから、というよりも、そういうものなのだろう。普通なら扱えない、若い少女たちしか扱えないエネルギー。


「じゃあね。さようなら。……アースエナジー・フォトンキャノン、発射ー」


 指を鳴らしたと同時に、光の塊が放出される。巨大な太い光線となって、怪物を粒子へと昇華させていく。

 はっきり言って、トドメと言うにもあまりにもオーバーキル過ぎる。しかし少女たちはそんなことは気にしない。やり過ぎに損はないのだ。確かに複数の敵がいるのならばもう少し考えて温存しながら戦うという手法を取るのだろうが、今回は大型一体のみであり、だからこそ確実に仕留められる方法を選んだに過ぎない。

 冷静に、ただ慣れたままに。


「おつかれさまでしたー」


 部活を終えた後のように、爽やかに少女たちは言う。

 ……このようにして、人類、そして地球は、まだうら若き少女たちの手に託されているのである。



 ☆



「え、わたしが異動ですか!?」


 今日の出撃も無事に、無難にこなして帰ってきたわたしを待っていたのは、無慈悲なる宣告だった。わたしが現在所属している組織、GIRLS・UNION。その中でもユニオン創始者の出身国である日本の東京支部は優れた者が集められると評判である。かくいうわたしもまた、その東京支部に所属している……していたのだけれど。

 甲虫型大型亜種をみんなで倒して帰ってきたわたしにあろうことか直属の上司であり、ガールズを統率、管理する存在である司令官は、異動を命じてきたのだ。


 ……え、何かわたししたっけ?


 心当たりがまったくなかった。自分で言うのも何だけれどわたしは優等生だ。問題を起こしたことなんて数えるほどしかない。さすがにゼロであるとは言えないけれど、それはまあ、どんな人間にだってひとつやふたつ多かれ少なかれ大きかれ小さかれ何かしらをやってしまうことがあるのだから、それこそ大した問題ではない。

 まあ、うん。正直に言うと、優等生と言うのは無理があると自覚しているし、わたしは優等生だ、なんて言った直後に翻すようだけれど、優秀ではあっても組織にとって優等生ではない。それに心当たりがないというのも実のところまったくの嘘であるのだけれど。心当たりがたくさんあるとしか言いようがない。

 しかしである。

 第114小隊、通称プロミネンス小隊を指揮してきて戦果はどの小隊にだって負けていない。

 致命的な問題をわたしや、或いは隊の誰かがしたなんてこともないし、だからそういう意味で言えば、左遷されるほどのとんでもないことをした覚えは本当にないし、だから驚くばかりであった。


「あ、あの、司令官……わたし、何かしちゃいました?」


 おずおずとわたしは司令官に尋ねる。黒い詰め襟の制服は今日もボタンがまったくしめられておらず、二十代半ばと落ち着きをそろそろ覚えないといけないであろう年齢であるというのに明るく洗髪された髪はボサボサで整えられておらず、だらしない印象しかない。

 わたしが何かするよりもむしろこの人がなにかやらかした尻拭いをさせられているんじゃないだろうかとすら思えるが、こう見えても存外に真面目だ。いや、確かに口遣いはよくも悪くもラフではあるけれど。

 さっきにしても「お前、明日から異動だから」とざっくりとした一言であったし。デリカシーという言葉や気を遣うといった言葉をぜひ辞書で調べてもらいたい。


「ん? ああ、なんだ。心配するな。別に御園が何かやらかして左遷されるってわけじゃねえ」


 え、そうなの? 司令官の言葉にほっと一息をつく。


「異動と言ってもあれだ、決められた期間の一時的なものだ。向こうさんはどうにも、うちの優秀な小隊長殿を貸してほしいそうでな」


「優秀だなんてそんな……えへへ、照れちゃいますね。確かにわたしは優等生ですけれどねー!」


「ちょっとは謙遜しろよ」


 ガキらしいと言えばガキらしいけどよぉ、と司令官が呆れたように言う。誰かガキンチョだ。失礼な。優秀だと言った矢先にガキンチョ扱いとは、とんだ二枚舌である。……いえ、まあ、若干十二歳のわたしは世間一般から見ればやはり子供でしかないし、司令官との年齢差を考えればわたしはただの子供みたいなものだ。

 もちろん、だからと言ってRaiderと戦えるわたしはただの子供ではないと自負しているし、だからわたしには普通の子供には無い責任があり、そのためには優等生であるべきだと、優秀であるべきだとも思っているけれど。

 まあ、とは言えわたしは優秀ではあったとしても、少なくとも組織から見て優等生ではないというのは先ほども言ったが。


「だいたい、命令違反ダントツトップのお前が優等生なんてよく言うぜ」


「うっ、そ、それは、そうかもしれないですけれど」


 痛いところを突かれた。小隊規模どころか支部全体でのことであり、その数は他の追随を許していない。もちろん大変よろしくないことである。それは自覚はしているし、組織のルールを守らないことの多いわたしは先ほども言ったように優等生ではないし、それどころかとんでもない不良である。不良と書いてわるである。

 ただ――自分の中で決めた、信念や想い、大切なことを曲げてまでルールを守らないといけないなんて思ってはいないし、だから反省はしていない。後悔していない。

 少し融通が効かない、とよく言われる。それでも遠慮してくれているのだろうけれど。わたしだって自覚はしているのだ。少しどころじゃなく頑固だということは。


「ったく、始末書を書かされるのは上司の俺なんだからな。もっと上手くやれ。バカ正直過ぎずに上手く口を使え。何のためにそれなりの頭があるんだよ」


「止めないでズルをうまくなれというところが司令官らしいですよね。わたし、司令官のそういうところは嫌いじゃないですよ」


「止めて聞くようなやつじゃねえだろ」


「おっしゃるとおりです」


 そういうところがあることは自覚しているし、ありがたくも支部内外問わず優秀であると評価されている我が小隊において一番の問題児は小隊長であるわたしだということは間違いない。

 だから異動と言われて左遷を疑ったのは、そんな自分のことをよく理解しているからだということでもある。

 さて、話を戻そう。異動である。期間限定だという話もよくわからないものだが、どうも司令官の言葉をそのまま受け取れば、わたしは指名されたらしい。まあわたしは優秀だから頼られるのもおかしくないかな、というのは、半分冗談。わたしが優秀だというよりは小隊が優秀なだけで、たまたまそれを統率力だけは他のメンバーよりはマシなわたしが纏めているだけの話だ。

 我が強く個性の濃いわたしたちの小隊を纏めているというのはそれなりに自慢できることかもしれないし、優秀な小隊長ということは、つまりそこを評価されているのかもしれない。


 優秀な小隊長であるわたしを貸してほしい。


 なるほど。わたしに与えられる役割はわかった。まあ誰にでもわかるようなことだろうし、察しが良い子でなくても少し考えれば思いつくことだろう。

 ある程度自分のことを理解している上で自分の評価を客観的にも主観的にも把握し、自画自賛すればという前提条件はつくけれど。控えめだったり、自己卑下の激しい子であれば、思いつきもしないだろう。

 そこまでひどく自分を過小評価している子もまた、そんなにはいないだろうけれど。


「司令官、わたしが異動先に求められていることは小隊をまとめる、リーダー役ですね?」


「みたいだな。向こうに元からいる小隊じゃなくて、各地から集められた精鋭を束ねる、新しい小隊のだが」


「各地から精鋭を……ですか」


 ここ、東京支部もまた精鋭揃いではあるけれど、各地からとなるとより高い次元での精鋭ということになるのだろうか。もしそうだとするならば、うん。

 すっごくやりがいのあることじゃないか。

 わたしにはもったいないほどのことだ。寄せ集めの精鋭を取り纏めるなんて、凄く主人公みたい。だからこそ頑張ろうって思える。こんな世界で、こんな状況で、誰もが憧れる、主人公みたいな存在になれるのなら。


「凄く燃えますね!」


「……やっぱりガキンチョだな」


 羨ましいねぇ、と司令官がぼやいていた。果たしてそれはわたしの頭のおめでたさに言ったのか、或いは主人公みたいになれることに対して言ったのか。

 司令官のことだから、きっと後者だ。


 キャッチーさに欠けるかなー、とか思わなくもない。

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