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2話・炎

すいません。改訂版です。

 日常なんて、どこにでもある物で、どこにもない物である。

 そして、その日常は意外と脆い。

 村から離れた一つの屋敷。

 雀林(じゃくりん)家の屋敷は、代々、そこにあった。

 何の変哲もない秋の日。その日も、雀林兄妹は、日常を満喫していた。

 兄の雀林 (あきら)は、冬に向けて、屋敷の裏手に生えている木を切っていた。

 手斧を使い、カツン、カツン、とそれなりに細い木を切り倒す。

 大きな斧やチェンソーを使い、大きな木を切っても、道具と切った後の木を運ぶのが面倒くさいし、使うときはどうせ細かくするからと、アキラは毎年、細めの木を手斧で切って使っていた。そして、今年も、例年と同じく、細い木を切って、細かく分け、背負っているカゴに入れて家まで運ぼうとしていた。

 いくら細い木とはとはいえ、大きなカゴ一杯に気を詰めて運ぶのだ、軽い作業ではない。でも、妹の雀林 (めい)が家でお昼を用意してくれていると思っているから、アキラは頑張れた。アキラはカゴが一杯になったので、一旦家に持っていこうと、随分と木が入って重いカゴを背負いなおした。

だが、そのカゴが家に運ばれることはなかった。

 爆音が響いたのだ。

 方角は、屋敷のある方である。

 数秒間、アキラの思考が停止する。

 しかし、立ち上る煙を見て、脳が再び動き出した。 

 アキラの視線の先……そこには、燃え盛る屋敷があった。もちろん、雀林家の屋敷である。

 アキラは迷う余地もなく、カゴを捨てて走り出した。

 遠くから見ても分かるくらいの数の人間が屋敷に入っていく。村人かとも思ったが、それが山賊の類であることにすぐに気付く。

 手斧を握りしめ、裏口に向かった。

 途中一人、向かって来たのを物陰に潜み、不意打ちで仕留めたアキラは、急いで、燃え盛る家の中に入った。

 アキラは鳴り響く金属音を頼りに、メイを探し出した。

 そこには、数人の山賊と戦っているメイがいた。

 メイは強かった。

 四対一でも、八対一でも、二振りの刀だけで敵を圧倒している。

 振り降ろされた武器を躱し、腹を切る。

 突き出された武器を躱し、首を落とす。

 掴みかかってきた敵の両腕を切り落とす。

 メイは、そんじょそこらの山賊はもちろん、兄のアキラよりも圧倒的に強い。

 雀林家は、村人から大量にものを貢がれているので、実質的に地主というようなものであるのと、屋敷には、受け継がれてきたり、貢がれたりした高価な物がたくさんあるので、山賊に狙われることが多い。だが、それに何の対策もせずに、その家が代々続く訳もない。雀林家の人物は、皆、少なからず戦闘力を持っている。戦う訓練をしているのだ。

 なので、今までも何度か、山賊に襲われたりはしたが、全て軽く撃退している。だが、今回は、そうもいかなかった。

 普段は、コソ泥のようなことをする者と、直接襲い掛かってくる者のどちらかであるのだが、今回は、家を狙われたのだ。

 家には高価な物が多くあるというのもあって、家を狙う者は今までいなかったので、対処の仕方が分からないのだ。

 それに、今回は、敵の数も非常に多く、メイは対処しきれていない。

 アキラは、駆けつけたものの、()()()()あまり強くない。なので、参戦したところで、良くて1・5人分の力しか加わらないのだ。

 それでも、加わらないよりはましだと判断したアキラは、物陰に隠れて近づいてきた敵を、手斧を使い不意打ちで倒すなど、地道に敵を減らした。だが、メイが次々に倒してもいなくならないほどの量の山賊である。アキラの行動は、まさに焼け石に水で、大した効果は無かった。

 むしろ……

「おにうえっ!」

 メイは、アキラに向かって刀を突き出したまま飛び込んだ。その刀は、アキラの後ろにいた男の頭を貫き、脳汁をぶちまけて崩れた。

 アキラは、むしろ、戦闘の邪魔にすらなっていた。

 メイの見せた大きな隙を敵が逃すはずもなく、三人ほど、メイに刃物を振るってくる。だが、メイは右手で一人殺し、左手でもう一人殺し、最後の一人も、振り降ろされたドスを躱した後、両手に持つ刀を鋏のようにして、首を切り落とした。

「おにうえ……危険です……」

「あ、ああ……すまん……」

 アキラは、後頭部から背中にかけて感じる、生暖かい液体に身を震わせた。

 メイがいなかったら、自分が脳をぶちまけていたかもしれない。そんな、恐怖がアキラを襲ったのだ。

 それに、本当は、自分が守らないといけないはずのメイに守られる自分が情けなくなったのだ。

「気にしないでください、だって……おにうえが、そうなったのは仕方ないですから……」

 アキラの心情に気付いたメイは、気づかってそう声を掛ける。

 それが、返ってアキラが自分を情けなく思わせている事には気づかず。

「今ので、粗方片付きました……というわけではないんですが、この屋敷ももう限界のようで、山賊ももう脱出していったようです。私たちも早くこの屋敷の外に出ましょう」

 そう言って、メイはアキラの手を引いて、外へ向かう。

 途中、山賊何人かとすれ違うが、メイはそれらを切り殺しつつ外へ向かった。

 出口で待ち伏せしていた山賊を焼けて脆くなっていた壁ごと切ったメイは、再びアキラの手を引き外へ出た。

 火の中から出た途端、肺が冷えるような空気が二人の口から入り込む。そこで、やっと二人は一安心……とはならず、またしても、山賊に囲まれていた。

「おにうえは隠れていてください」

「あ、ああ」

 自分がいても足手まといになることは確実なので、アキラはメイが文字通り敵を引き裂き作った道を通り、その場から離れた。

 メイは、逃げたアキラを追おうとする者から優先的に切っていった。

 最初は、顔だちの整っている、高く売れそうな女としか見ていなかった山賊も、まるで狂戦士のように、仲間が切り裂かれていくのを見てもなおそう思う者はいなかった。

 途中、逃げ出す者までいた。

 返り血を浴び、メイの朱色の着物は、赤黒くなっていた。

 メイの白く艶やかな肌に、異様に鮮血が映えて、山賊から見たら、まるで化け物であった。古い伝承に出てくるような、妖怪のようにも見えた。

 敵が見当たらなくなったところで、メイは、あらかじめアキラと緊急時の時の集合場所を決めていたので、そこで落ち合った。

「おにうえ、無事ですか?」

「いや、俺は無事だけど……おまえこそ、大丈夫か?」

「はい、私は大丈夫です。あの程度のに負けたりはしません」

 血肉の匂いをぷんぷんとさせながら、満面の笑みでメイはそう答える。

「それにしても、どうする? 家、燃えたな……」

「そう……ですね……」

 二人して、俯いてこれからを考える。

「どうしましょう……」

 しばらく考えた後で、メイがぼそりとそう呟いた。

 それに対しての返事は、アキラ以外の男が返した。

「まずは、俺に雀の涙の(かんざし)を渡してもらおう」

 二人は、突然のその声に反応して、声のする方を見た。

 そこには……黒いコートを羽織った男がいた。

「何者ですっ!」

 メイが瞬時に刀を抜き、威嚇する。

「何者でもいいだろ、それより、簪だ、かんざし。早く出せ、持っているんだろ」

 男の言う雀の涙の簪とは、雀林家の家宝である。それに、その存在は、代々隠されてきているため、村人ですら存在どころかその名前すらも知らない。それを、なぜ目の前の男が知っているのか、二人にとっては不可解で仕方がなかった。

 その簪は、今、メイが自らの髪に挿していた。もちろん、話題に出た途端にそれを目を向けたり、手で触ったりすれば、それが雀の涙の簪であることがばれてしまうので、アキラもメイもまるでその簪を気にしていないかのように振る舞ったが、メイはともかくアキラが意図的にその簪を意識しないようにしているのがばれたのか、黒いコートの男は尋ねた。

「おい、幼女。お前の髪の簪……それが雀の涙の簪……雀涙簪(じゃくるいしん)だな」

 ここで誤魔化しても、それは、本物ですと言っているような物である。なので、メイは正直に「そうですが、それが何か?」と殺気を込めて、小声でそう返した。

「そうか、なら、いただこう」

 そう言った男は、いつの間にか、メイの後ろに回っていて、背後から髪に手を伸ばしていた。

 もちろん、それに気づかないメイではない。一閃、刀を薙ぐが、それは空を切っただけであった。

「危ないな……死んでしまうだろ」

「殺す気ですから……」

「物騒だな」

「あなたの方が、物騒です……爆弾魔さん」

 メイは、その男のコートから臭う火薬の匂いで、彼が今回の火災の原因だということに気付いた。

「よく分かったな。だが、俺は別にお前らを殺す気は無かった。ただ、その雀涙簪が欲しかっただけだ」

 そう言って、男はまたしてもアキラの視界から消えた。そして……気づけば、喉元に感触を感じる。嫌な感触である。

 ナイフを突きつけられていた。

「さぁ、交換だ。こいつの命と、その簪。まぁ、本当は簪の方が価値ある物だが、お前にとってはこっちの方が大事だろう?」

「っく……卑怯です……」

 ギリリ……とメイは歯ぎしりをした

「さぁ、早くしろ、首が飛ぶぞ」

 首に少しナイフが入ってくる。下に落ちる水滴が、自分の血であることにアキラは肝を冷やした。

 でも、また同時に安心もした。

 もう、メイの足を引っ張らずに済む、と。メイを一人ぼっちにしてしまうのと、メイと一緒に暮らせなくなってしまうのは、嫌だが、それでもメイがこの先生きていけるなら、とアキラは思っていた。

「……分かりました」

 しかし、アキラの想像した未来と、メイの出した答えは違った。

 メイが……刀を下に置き、簪を抜いたのだ。

「そうだ、それでいい」

 そして、いつの間にか、アキラは解放されており、少し離れたところにいる黒いコートの男は簪を持っていた。

 そして、こちらに振り向くこともせず、その場から去ろうとした。

 メイは、その時をねらっていたと言わんばかりに、先ほど下に置いた刀を柄を蹴り、その男へ向けて飛ばした。音もなく、刀は男の頭へ向かって飛んでいく。

 そして、その刀は……男が手に持っていた謎の球体にぶつかって止まった。

 男は、飛んでくる刀に気付いていたのだ。そして、懐から、その球体を出して、刀を受け止めた。

「ああ、少し痛めつけないと駄目な奴か? お前らは……」

 そう呟いた事に二人は気づかない。

 その球体と刀が触れ合う瞬間が、無限の時のようにも感じられた。


 音は無かった。


 球体が炸裂した。

 爆炎がアキラ達を飲み込む。だが、アキラは、軽傷で済んだ。

 メイが、身体を張って、アキラを守ったのだ。

 そして、メイは、倒れた。

 傷もなく、服も爆炎に飲まれる前と何も変わっていない。だが、メイは倒れた。

 アキラも、外傷は、先ほど奴に付けられた喉の切り傷だけだったが、なぜか、身体が痛んだ。まるで、全身を火傷しているかのように感じられた。

 そして、男は、その場から消えていた。

 メイを安全と思われる林の中にある大きな木の木陰まで運んだ。そして、メイを寝かせ、水を汲んで来ようと思って、再び立ち上がったところで……アキラも、その場に倒れた。


今回あまり読みやすさを考慮していなかったりしてすいません。

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