プロローグ
何かが、大切な何かが……奪われた気がする。
大切な何かが俺から離れていく。
決して手放したくなかった。だから、俺は、今にも消え去りそうなその手を取った。
どんどん深みに落ちていく。どこまでも、どこまでも、深く暗いどこかへ。
俺から離れて行く何かを追いかけ、追いかけ、やっと、追いついた。
けれでも、その大切な何かは、俺の事を待って居てはくれなかった。そして、ついに、俺の目の前から……消えた。
“ごめんね、また、迷惑かけちゃった”
そんなことは、気にしなくてもいい。
だから、俺の前からいなくならないでくれ。
“私の事はもういいから……”
良くねぇよ……何が、いいんだよ……
俺達は、二人だけだっただろう。
“ねぇ、もう自由になれるんだよ、お互い……だから……”
自由なんかより、お前と一緒に居た方が俺は、幸せに決まっているじゃねぇか……それに、お前は、決して事由になんか……
“だからね……さよなら……私は、先に行ってるね……”
待て。待ってくれ……。お願いだ、待ってくれ……
“またね……お……
ブレーカーが落ちた時のモニターのように、俺の周りが一気に黒に染まった。
ここは、一体どこなのだろう。
分からない。全く、分からない。
ただ、俺は、俺の大切な物を守りたかっただけだ。一緒に居たかっただけだ。
それなのに……なんで、こうなってしまったんだろう。
こうなった理由なんて、誰にもわからない。誰を恨めばいいかもわからない。
俺の体は、紐の切れたマリオネットのように、力が全て抜け落ち、その場に崩れた。体が動かない。意識が、薄れていく。頭が動かない。もう、何も考えられない。