始期08
けたたましいサイレンを聞いて理実とリネルは顔を見合わせていた。
「リミさん。逃げた方がいいわ」
「でも、イチ君が」
リネルにはこの施設が何かは大体の検討がつく。
ここまでの警報を鳴らすとなると、実験動物の類か、霊体を暴走させたか、GOを”意図的に”暴走させたか。
大体ここらだろう。
今までいた佐々木ノ原基地でも何回か霊体の実験で暴走体を見たことがある。
あれは危険だ。
どこにいるかが普通の人間には視認できない。
霊体の実験をするときには必ずGOが一人現場で見ている必要がある。
それはこのユートピアでの法律だ。
「彼はそこまで弱い人ではないでしょう?あなたもわかっていることだと思うけれど」
「う、うん・・・」
「彼に心配をかけないためにもここは避難しておきましょう。」
少し慌てた様子を見せていた理実だったが、リネルの言葉を聞いて大人しく避難する気になったようだ。
(ここはひとまず借りよ。イチヤ。)
リネルはそんなことを思っていた。
2人は工房の職員の誘導に従い、地下にあるシェルターへと向かっていた。
「慌てずにお願いしまーす!」
避難している人々の多くはこの工房の職員だが、
中にはテレビに出ていたような大企業の社長や教授がちらほらいる。
この工房で取引されている品物の中には、裏の世界で取引されているようなものもある。
「リネルさん。イチ君大丈夫かな・・・」
「もう。リミ、彼は大丈夫よ」
いつまでも心配の消えない理実にさすがにかける言葉のなくなってきたリネルだった。
このシェルターの設備はほぼ完全防備と言っても過言でもないほどだった。
耐火設備はもちろん、核やそれ以上の兵器に耐えうる素材のドーム型の部屋。
しかし、この設備で一つだけ耐えられないようなものがある。
10年前に起きた
「The twin pillar of light (光の双柱)」
の影響により生まれたGOの能力だ。
もうすでにGOの数は少ないが、中には悪意を持ったGOも存在している。
その中にはあのときのような爆発を起こすことができるようなGOもいるのだという。
真相は確かではないが、ドイターの調べではそういう風に言われている。
どのくらいシェルターの中にいるだろうか。
一時間ほどだろうか、二時間たっただろうか。
そんなことを考えていると理実が話しかけてきた。
「リネルさんはなんでこっちの地区に来たの?」
「そうね。気分かしら」
あまり口外できるような理由ではなかったので、はぐらかそうとしたが理実は食い下がってきた。
「ドイターの構成員の基地移動には膨大な量の手続きが必要なのはリネルさんも知ってるんでしょう?」
彼女がここまでドイターのことを知っているとは思わなかった。
「それに、リネルさんが佐々木ノ原基地を離れたらあそこの基地にはドイターが一人だけになってしまう。それなのになんでこっちに来る必要があったのかなぁ。なんて」
そこでリネルは思い出した。彼女はあの司令の娘だということを。
「そうね。確かに不自然よね。この時期にこっちに来るなんて」
この時期。秋分の日がある週。
来週に始まるこの地区特有の祭り事。
この地区の裏手にある山。
”選山”
光の柱はその山で一つが起こった。
それにより出た死者を弔うための祭り。
「彼岸祭」
毎年沢山の人がこの祭りを訪れる。
その中にはこの18の地区を支えている政界人が沢山いる。
そんな彼らを狙うものが多く現れる。
これまでの祭りでは毎回騒ぎが起きている。
今回もその例にそぐわず、必ず邪魔をしてくるものがいるだろう。
「でも、逆にこの時期だからこの地区の人出が不足しているとして、特例措置を取ったとも考えられないかしら?」
「まあ、確かに最近父さんも忙しそうにしてて、帰ってこれない日があるの」
「彼岸祭も近いんだし、それの警備も含めてじゃないかしら。実は私もはっきりとは理由を聞いていないのよ」
「そうなんだ」
「うん」
とりあえず上手く誤魔化すことには成功した。
リネルは安堵と共に罪悪感を覚えてしまった。
まさか、自分が彼岸祭で
”司令本人を殺す刺客”
だなんて言えなかった。