始期06
「リミさん。あたしは、あなたに言わなければならない事があるわ。」
ロビーにいくつかある長椅子の一つに座っていた理実とリネルだったが、何をするわけでもなくただ座っていた。
しかし、その緊張した雰囲気を最初に破ったのはリネルだった。
「ん?ん?なに?リネルさん。」
正面を向いてぼーっとしていた理実は、突然の事だったので少々驚いて返事をしてしまった。
「いいえ、あなたの事が少し気になっただけよ。」
何か言いたそうだが言えない。そんな顔をしている。
理実は助け舟を出してあげる事にした。
「言いたい事って?」
「ええ。・・・その・・・あれよ・・・」
なぜか、リネルは顔を真っ赤にしながら何かを言おうとしてきた。
指の先をつんつんしながらもじもじし始めたリネルを見ているととてもかわいい。
「り、りみ!私と!・・・。友達になりゅ・・・!」
なりたいの〜〜〜。という余韻を残しながら、というか語尾は声にならなかった。
つまり、噛んだ。
そう。
”盛大に噛んだ”
「・・・。」
「・・・。」
2人の間にしばし沈黙が訪れた。
「・・・・・・・・・。」
「・・。ぷっ!ふふふ!はははは!」
最初に吹いたのは理実だった。
「な、なによ!ちょっと噛んだくらいでそんなに笑わなくても良いじゃない!」
ぷくーっと頬を膨らませたリネルはまるで、頬にドングリをつめたリスのようだ。
とてもかわいい。
「はっはっ!うううう、ごめんごめん!」
理実はツボにはまってしまったようだった。
さすがにそれを見ていられなくなったリネルが切り出した。
「リミ!」
「うんうん。友達になりたいんでしょ!いいよ。私こそ友達になってください!」
やっとのことで笑いを押さえる事に成功した理実は、話を前に戻すくらいの余力ぐらいは残っていたようだった。
右手を差し出し握手を求めた。
「ふんっ!リミの・・・バカ・・・。」
そっぽを向いてしまった。
「でも、・・・・。ありがと・・・。」
最後の方は何を言っていたかうまく聞き取れなかったが、うれしかったようだ。
こうしてリネルにとってはおそらく、この町に来て最初の友達が出来たのだった。
そのとき理実はふと、気づいた。
この施設に何か不穏な空気が漂っていることに。