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始期04

 

「ところで、リネル。お前、地上から来たのはいつなんだ?」


 校門を出て始めに口を開いたのは意外なことに一夜だった。


「そうね、こっちに来たのは小さいころだったから覚えてないわ。でも、聞いた話だと12年くらい前だそうよ」


 一夜たちは隣町である佐々木野原の『工房』と言われるところへ向かっている途中だ。


「クリューネルさんは、あの、もしかして。あの家の人だったりしませんか?」


 理実は少し高い丘の上にある”もと”豪邸を指差して言った。


「ええ、そうよ。今はもう誰も住んでいないけれど。もともと、この街のほとんどはクリューネル家の土地だったのよ」


 そう、リネルは言っているがこの街が出来たのはつい最近で、人々が住み始めたのも10年前の事だ。

 だが、本当に12年前にこの土地に来ていたのだとしたら。

 少々厄介なやつが来てしまった。と一夜は思った。


「まさかとは思うが。いや、リネル。本当なのか?」


「・・・。ええ、本当よ。母と父が地底に越してきてすぐにこの辺りの土地を買っておいたそうよ」


 一夜の嫌な予感は見事的中した。

 12年前。そう。ユートピアが出来るほんの少し前にここにいた。

 つまり、リネルの母親か父親は『ユートピアの支配人』の一人だったという事になる。


『ユートピアの支配人』


 ユートピアにはじめに住む事を許された政治家や科学者につけられた名だ。

 呼称は様々で、”支配人”や”ドクター”などがある。

 支配人たちは全員で18人だったと言われている。

 その支配人たちに与えられた特権は3つ。


 ・18人分の均等な土地

 ・支配地域の人民の生殺与奪権

 ・無限の資金(金の生産)


 これらの事を許す事で、移民してきた人々を圧迫し。支配する。

 そうしてユートピアの歴史は始まった。


 たった12年ではあるが、

 ユートピア暦の中で彼らの行ってきたことが多くもみ消され、

 その事実を知っている人ほとんどが他界している。



「ねえ、イチくん。クリューネルさん。行ってみない?あそこ」


 丘の上の廃墟を指差しておもむろに言った。

 理実がそんな提案をするとは思わなかったが、時間がないわけではない。


「いって、みるか?」


 一夜はリネルに聞いた。


「わたしは行ってもいいわよ」


「それじゃ、決まりだね!うん!」


 理実は嬉しそうに、スキップして先を行った。

 丘の上にある廃墟まで歩いて行った一夜とリネルは

 固く閉ざされた門の前で立ち止まった。

 そこに先についていた理実も立ち止まっていた。


「リミ。どうした?」


 何かあったのかとリミに話しかけてみると、手になにか握っていた。


「イチくん、見て。門についてたの」


 理実が一夜に手渡したのは白い封筒。

 中を開けると。


 ”かざせ。さもなくばこの廃墟に入る資格なし。

 山に咲く花に迷いのない白と、暗い影に包まれた目。

 赤く光るのは己が身を理解せず、傲慢になっている時”


 と、暗号のようなものが書いてあった。


「リネル。これがなんだかわかるか?」


 もともとこの家に住んでいたのだからわかるだろう。


「何かしらね。でも、これは父の字だわ」


 リネルの父親の字。

 そう聞いただけで、一夜はゾッとした。

 あの18人の支配人の1人が書いたものなのだから。


「どういう意味かは?」


「そこまではわからないわ」


 残念だけど。


 そういった瞬間。

 リネルは(きびす)を返して丘を(くだ)って行ってしまった。


 その時一夜には視えた。


「リミ。ここはなにかおかしい」


「え?・・・」


 理実の手をとり


「行くよ・・・」


 リネルに続いて丘を降った。

 その時一夜の目にははっきりと、亡霊のようなものが写っていた。


 変なものもいるようだったので、廃墟探索はお預けになってしまったが。

 そんなことで、気を落とすような理実ではない。

 坂道の入り口でリネルと合流し、工房へ向かって歩き出す。


「リネル。この土地の歴史には詳しいか?」


「まあ、一通りは調べたわ。何が知りたいの?」


 リネルは支配人のことを知らずに生きているのかもしれない。

 自分の父親が何をしていたかを知ったらどう思うのだろうか。


「はあ。その顔、もしかして支配人のこと?」


 ため息をつかれた。

 顔でばれたようだ。

 なかなか、彼女は鋭い。


「何だ。知っているのか。」


 これはちょっと評価点が低かったか。

 と一夜はリネルの脳内情報メモを更新しておいた。


「何だとはなによ。まあ、心配は無用よ。父で”あった”支配人の一人はもう死んだから。」


 父で”あった”。そう言った。


「ちなみに、私は母の連れ子なのよ。」


 それで、納得がいった。

 クリューネル家の人々は必ずスズランの家紋の入った装飾具をしているはずだからだ。

 リネルはしていない。

 それ以外にもまだ疑問があった。

 確かにこのユートピアには赤い双眸を持つ人は今のところ見たことがない。

 ではどこから来たのだろうか。それともGOである事が何か関係しているのだろうか。

 今はまだそこまで彼女の内情に踏み込んで良いとは思えなかった。

 彼女についてはもっとたくさんのことを調べなければならないかもしれない。

 ポケットの中で握っていた携帯端末を握りしめ、そう思った。


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