お約束すぎる展開に目眩がした話
短めです
「お前が町本百合子か」
それは、入学式が終わり、体育館から先ほど掲示板で確認したクラスへ移動する最中のことだった。
途中で友人を見つけた宮本くんと別行動になったため、ひとりで指定されたクラスである1年A組へと向かっていた私は、後ろから私の名を呼ぶ高圧的な声に振り返る。
「おい。この俺様がじきじきに話しかけているんだ。さっさと返事をしろ」
本当のところは脊髄反射の勢いで逃げ出したかったのだけれど、最後に残った良心と理性で足を踏みとどまることができた私を誰かほめてほしい。
振り返って、顔を確認し、その人がさっきの式で新入生代表のあいさつをしていた人だと気がついた。
明るい茶髪のウルフカットに、完璧に整った目鼻立ち。自意識過剰そうな態度だが、それが十分許されるような華々しい雰囲気を持っていた。そんな誰が評価してもイケメンであることは否定されないであろう男が、そこにたっていた。
…120%の確立で、メインヒーローだ。
「は、はい…。町本百合子です…、が、何か?」
周囲は既に好奇の目を私たちに向けていた。
きっと彼は、内部生なのだろう。そして、学内でも有名人であるに違いない。男女問わず、育ちのよさそうな学生たちを中心に一定の距離を開けて私たちの周りを取り囲み、こちらを、主に私のほうを品定めするかのごとく見つめている。
学内の王子様が(王様かもしれないが)一生徒の女子に声をかけたのが、珍しいのだろうか。周囲の内緒話に耳を傾けると、女子たちが繰り返し「なんで九軒様があんな…」やら「外部生の分際で透夜様にお声をかけてもらうだなんで…」と陰口があちらこちらから聞こえてくる。
すみません、こんな貧相な女で。すぐにでも代わってあげるのでここから逃げ出させてください。
脳内をめぐる自虐ネタの現実逃避をいったん横においておき、私は目の前のイケメンに向き直る。近いうちにくることはわかっていた攻略キャラとの出会いの際をシュミレートして、春休みの間、ずっと対人関係のマニュアル書を読み漁っていた、この成果を今発揮するときである。どんな俺様的罵倒でも相手を気分を逆立てることなくなるべく無難に対応して見せるぞ。いや、対応したい。対応できたらいいな。
そんな弱気な意気込みを心の中に隠しながら、表面上はあくまで下手な態度にでて、私は自分の名前を名乗り、相手の反応をうかがうことにした。
「外部生の奨学金試験で、この、俺様を、差し置いて、学科でトップ合格した町本百合子はお前なんだな?」
「…………………、はい、私です」
この、大勢の前での、私の成績カミングアウト。そして、それが気に食わないような目の前の男子。それを大げさに擁護する陰口の女子たちとその他好奇の目。
転生したことに気がついた時点でわかっていたけれど、こうまでも平凡な生活が許されない運命だとは…。
いきなりの精神的攻撃に早速心が折れそうです。
助けてくれ、愛しの宮本くん…。