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攻略の難易度がHARDどころでなくEXPERTだと気が付いた話

さて。

結局、私の告白はうまくいったのか、いかなかったのか。

結論から言うと、上手くいかなかった。というか、不発に終わった。

告白した瞬間に、面接担当の先生が廊下の後ろから大声で私たちの順番を呼ぶ声と、言葉が思い切り重なり、まるでギャグ漫画のようなお約束の展開を食らってしまった。


その場は、とりあえず先生の指示に従って、急いで他の受験生がすでに待っている面接会場まで向かうことにした。






「えー、では、31番の方から、氏名、学校名、わが学園の高等部への志望動機をお願いします」

「はい。受験番号31番、町本百合子です。都立川越第一中学校に在籍しております。この高等部への志望動機は…」


一度頭の中から吹き飛んでも案外覚えているもんなんだな。

面接が始まり、目の前に並ぶ先生方の質問に対して用意していた答えを笑顔で答えながら、私は、ひとまず安堵した。さっきの衝撃でもう面接はダメかもしれないと半分本気で思っていたけれど、星条の推薦の受験勉強を本格的に始めた当初から、ずっと頭の中で繰り返してきた応答は、どんなに脳内が混乱していても口からすらすらと反射的に対処ができるようになっていたみたいだ。

質問は中学で頑張ったことやら、高校で何をしたいか、などありきたりなものばかりで、少し構えていた割には、まっとうに対応できれば問題はないだろう。


「では、最後の質問ですが、自分の尊敬する人物について教えてください」

「はい。私の尊敬する人物は、母方の従兄にあたる人です」


私の従兄は、5歳年上の人で、頭がよく、とても落ち着いている人でした。私がこの学園を受験したいといった時も、卒業生でよく学園を知っておりましたので、常に相談に乗ってくれて、不出来なわたしが受験に受かるようにと勉強も教えてくれました。はい、この学園の卒業生です。下柳と申します。はい。下柳圭斗は私の従兄です。とても尊敬しています。私も彼のように、人に頼られる、信頼される人間になりたいと思っています。在籍中、生徒会に所属していたと聞いておりますので、私もこの高校に受かりましたら、是非生徒会に入りたいと考えています。困った生徒のいない、皆が一日の半分をここで過ごせることに誇りを持つことのできる学校を作りたいと思います。よろしくお願いいたします。




…圭斗兄さんのネームバリューも使わせてもらったし、ここまですれば完璧かな。ちょっとずるいけど…。

















「町本さんって下柳さんの従妹なんだ!!すげえ!!」



面接も終り、控室においていた荷物をとって、校舎を出ると、興奮気味に目を輝かせた宮本君がいた。


「圭斗兄さんのこと知ってるの?」

「知ってるも何も、あの人超有名人だって!中学の時も高校の時も一般で入る外部生押しのけていつも成績上位者だったから、保守派の先生には大うけだったし。かといって、内部生至上主義、セレブ~って人でもなくて生徒会じゃ率先的に外部生が過ごしやすいような学校づくり目指してたし」


下柳さんの従妹かあ。それじゃあ、美人だし頭もいいわけだあ。



圭斗兄さんの名前を出したのは、ダメ押しだったが、半分賭けみたいなもので。もし、私があの人のことを言っても、学校での評判が悪ければ、私への評価も下がってしまう。でも、さすがにあの変態加減は身内限定だろうと見切っての従兄押しだったが、どうやらそれは正解だったようだ。宮本くんの評価にほっとしたのもつかの間、急に褒められにっこりと笑顔まで見せられたことで、気が動転して、私は返事もあいまいにうつむいてしまった。


「ご、ごめん!もしかして嫌だった?てか、嫌だよね!町本さんは町本さんで、下柳さんは下柳さんだもんね!!ご、ごめん!ほんとごめん!!」

「え、あ、ちが、ちがいます、」

「いや、気、使わないで!!俺時々地雷踏んじゃうの!ホントゴメン!!」


ホントにごめんなさい!


どうやら、私の態度が、彼の言葉によって傷ついたように見えたらしい。顔を伏せてしまった私に、あわてて謝ってきた宮本くんに、私のほうがあわててしまい、「顔を上げて」と懇願する。



「怒ってない!全然地雷じゃないです!だって、尊敬できる人に挙げたぐらい、ですよ!」


だ、大丈夫だから!私が顔を伏せたのは違う理由で…


「ほんと?怒ってない?じゃあどうして下向いたの?なにか他に気に障る事した?」


不安そうな表情で首をかしげ、私の言葉を待つ表情は、さながら捨てられた子犬のようで。

…この人、めちゃくちゃあざとい上に、ど天然だな。

頭の中の冷静な部分で第三者目線から宮本くんを観察しながら、心臓は至近距離の彼に猛スピードで鼓動を鳴らす。それでも、さっきの失態から、彼の顔から視線を背ける視線を背けることもできず、なんとかして絞り出した声は、蚊の鳴くほどの小さい音だった。


「ぁ、ぁの……、ぇっと…」

「うん」

「…ひ、と、から…ほめられるの、…慣れて、なくって」

「へ、」

「宮本くんが、美人、って言ってくれたの、嬉しくて…、恥ずかしくって…」


下、向いちゃいました…。ごめんなさい…。


自分で言いながら、何もごまかすことができず、顔が赤くなっていくのがわかる。

言い切った後、やっぱり耐えきれなくて、顔を伏せてしまった。


ああ、私はなんてヘタレなんだろう。前世から合わせればもう確実に三十路はとおにすぎているはずなのに、好きになってしまっただけでこんな年下の男の子(今は同い年)相手にたじたじになってしまうなんて。

むしろ今がチャンスだったでしょうが、町本百合子!さっきの告白が失敗してしまったんだから再アタックあるのみよ!受験が終わって姿が見えなくってちょっとがっかりしたんじゃないの?控室で少し話したいなんて思ってたのにもう帰っててさびしかったんじゃないの?それを校舎出たところで待っててくれたんだから、二回目の告白のチャンスでしょ!「好きな人から褒められて顔見れないくらい照れちゃったvきゃっv今もしかして宮本くんのこと好きな人って…きゃーvv思ってること言っちゃった、てへぺろvでもホントのことだぞv」ぐらい言えよ私!無理だ!気持ち悪いわ!!



顔を伏せてしまってから、もう10秒は経っただろう。いつまでも反応がないのが気になり、ちらりと様子をうかがうように顔を上げると、そこにはおそらく私とおんなじくらい顔を赤くして、口元を抑える宮本くんがいた。

目が合った途端、「あー…」っと、考え込むようなうめき声をあげて、いったん視線をそらし、彼は口を開く。


「メアド、交換しない?」


それは、私の想像をはるかに超えた、いや、かけらも想像してなかった返答であり、ぽかーんと口を開けて、私はまた間抜けな顔をさらしてしまった。自分の目の前で起きていることが信じられず、瞬きを繰り返していると、宮本くんは「嫌だった?」と問い返してきた。まさか!と食い気味に返事をして、私はあわててカバンから携帯を取り出す。小さく震える手を抑え込んで、赤外線の受け取り口を向けて差し出した。しばらくすると、ピコン、という効果音とともに画面にポップアップされる宮本由貴の文字。それがうれしくて、画面をずっと見つめていたい思いをもあるが、これ以上不審に思われてはなるまいと、急いで自分の連絡先を返信した。


「届いた、かな?うん!届いた。町本百合子、一件入りました!」

「わ、私も、宮本由貴、くん、一件、受け取りました」

「よし!」


宮本くんは、今日一日でもう見慣れてしまった、明るくて優しい笑顔をもう一度私に向ける。


「町本さん、絶対受かるよ!さっきの面接聴いてて思ったもん。この人ホントに頭のいい人なんだなって。」


俺は内部生でさ、この面接は進学できるかどうかじゃなくて、奨学金の面接なんだ。だから、まあ受かるに越したことはないんだけど、でも受かんなくても高等部は、この星条学園高等部に進学するんだ。

だから、来年の四月には、同じ高校に通えると思うんだ!ううん!絶対通える!














「だから、町本さんの友達一号になりたいんだ!!」







町本さん、褒められること珍しいって言ってたけど、絶対嘘だもん!聞き逃してるだけだって!!

超かわいいもん!超美人だもん!頭もいいでしょ?今まで見る目無い人が多かったんだよ!

高校になったらモテるよ!もうモッテもてだよ!!いや、俺の見立てじゃ、最低5人には告られるね!


「ここであったのも何かの運命だし、親友として町本さんが困ったとき、助けてあげたいんだ!」


だから、よろしく!町本さん!






それは、この日最高の彼の笑顔だった。


そうか、あの一回目の告白が不発に終わったのは偶然じゃなかったのか。あれは、ストーリーの根幹を崩さないための抑止力ってやつだったのか…。




「じゃあ、帰ったらメールするね!また新学期!」

そういって、手を振って帰って行った彼の後姿を見つめて思う。



…宮本由貴とのフラグは、はたしてこの先、見つかるのだろうか、と。

このような大型投稿サイトで小説を書くのは初めてなのですが、このような拙い文章を多くの人が見てくださったようでとてもうれしいです。

お気に入りに入れてくださった方、感想をくれた方、本当にありがとうございます。励みになります。

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