めんどくさいことは後回しにすると決めた話
私がっ!!ヒロインだと…!!???
動揺のあまり、鏡を割りかけた自分を許してほしい。
え、ヒロイン?私が?何かの冗談ですよね?似合わないことこの上ない状況に、私は唖然とした。
妹から得た数少ない知識を必死で思い出し、乙女ゲームのヒロインという主人公像を形にしてみる。たしかあの憎たらしい妹は言っていた。
「お姉!乙女ゲームのヒロインはね、メンタルお化けで、大事なことを聞きのがす難聴スキルもち、普通の人じゃありえないほどの努力家で、若干空気読めない。この四つを抑えるのが乙女ゲームのテンプレヒロインよ!あと普通に可愛い」
そう、そうだ。
何度も彼女から聞いたこの言葉の意味は半分もわからないけれど、乙女ゲームのヒロインは少女漫画のヒロインと違ってふつメン女子が務めていいそんな楽なポジションじゃないはずだ。だってあいつが持ってるゲームに出てくる女の子みんな死ぬほどかわいかったもん。顔からして、私はヒロインから除外のはず…。
顔を上げてもう一度自分の顔を鏡で見て、私は思った。
「ああ、…今の私、可愛いわ…」
前世を思い出したことで、前世の自分の顔も思い出した。今の私、前世の平凡顔なんかと比べたら死ぬほどかわいいです。顔一回り以上小っちゃいし、肌白いし、猫目なんて前の私が整形してでも欲しかったスペックだし。そういえば、下っ腹も出てない。胸も前の同じ時期よりある。足も細い。
なにより、無表情でいても不快に思われないって得だな。うん今の私、美人だ。
もしかして、生まれ変わって大正解だったのかもしれない。これ、神様に感謝すべきなのかな?そんな思考に陥る直前で、いやいや、と首を振る。
これがあの趣味が真反対の妹のはまるゲームの世界なら、確実にメインヒーローは私の嫌いなタイプだ。これは間違いない。そんな男とそのほか数名のイケメンたちとすでにフラグがたつ未来しか私には用意されていない…。そこまで考えが至ったところで、あまりの恐ろしさに鳥肌が立つのを感じた。そんな未来は誰も望んでいないのです!いや、妹は望んでたか…。少なくとも私は一切望んでいない!バラ色どころかいばらの道の高校生活まっしぐらな状況にもう一度頭を抱えて、大きなため息をついた。
大体、私が好きなのは当て馬タイプで、脇役タイプで…。そう。ふつメンで、優しくて馬鹿じゃなくて空気が読めて、隣にいて安心できるそんな人が好きなの。『初ラブ!』ならまさに私が説明書越しに一目ぼれした宮本由貴のような…、
「宮本…由貴…」
そうだ。ここにはいるんだ…。本物の宮本由貴が…。
さっき私に話しかけてくれた彼の姿を思い出す。ちゃんと人間だった。声も画面越しなんかじゃなくって、リアルで。
これは、この世界は前世の私にとってはゲームの中だけど、私にとってはゲームなんかじゃない。そう思い知らされた。
「あ!よかった!!もうすぐよばれるから探してたところなんだ」
「いえ、その…。さっきはごめんなさい」
「いやいや、こっちこそ。もしかして具合悪い?先生に言って、順番最後にしてもらおっか?」
「だ、大丈夫です!そこまでしてもらうなんて、受験舐めてます。行きます!」
待たせてしまってごめんなさい…、宮本くん…。
待合室前の廊下。
他の生徒はもう面接会場の教室に行ってしまったらしい中、宮本くんは一人で私を探してくれていたようだ。
あまりの申し訳なさに、頭を下げると、彼は少し照れながら笑った。
「あー、いや。うん。外部性で奨学金選考に残るなんて頭のいい子なんだなーって思って。えっと、女の子少ないし、気まずそうだったし…。…可愛かったし?」
あーあー!今の忘れて!俺何ナンパみたいなことしてんだろ…。
照れ隠しのためか、手に持っていたメモ帳を口元にあてて視線をそらすその姿はまさに私が一目ぼれしたその立ち絵そのもので。
ああもういいや。
ヒロイン?攻略キャラとの恋愛フラグ?
もうそんなのどうでもいいです。
神様、私をこんな美人に生まれ変わらせてくれてありがとう。宮本くんに合わせてくれてありがとう。
「…受験番号31番。都立川越第一中学出身、町本百合子と言います。…あの、宮本くん…」
「ん?なに?」
「…好きになってもいいですか?」
私はあなたを攻略します。