新しい友人とキャラ崩壊の話
お泊り会編後編。
投稿直後微修正。
「えっと…ごめんなさい。すみません軽率でした」
「…わかればいいのよわかれば」
「次ふざけたことやったら追い出すからな」
「…わかっ…、いやいや!私の家!」
冷たいフローリングの上で正座をする京香を私と小梅が見下ろした。
内部生、外部生の確執等の問題を匂わせておいて実際は私一人のためにクラスの女子会を開いたという横暴ぶりから始まり、邪魔されたくないからの一点の理由で使用人を一人も呼ばず、張り切った意気込みの割には料理ではあまり役に立たなくて、そして本人が女子会の意味を理解していなかった。
最初に気さくに話しかけてくれて、すぐに友達になれてしまったから今までほとんど感じなかったが、こいつは間違いなく生粋のお嬢様だ。他人を振り回すのが得意で、そしてそれに全く罪悪感を感じない、世間知らずのお嬢様だ。
はあ、と思わず漏れた大きなため息に、京香は上目遣いで、「どうしたの、百合?疲れたの?」
と問う。
…お前のせいだ。
「あ、あの…?」
なんだかおかしくなってしまった空気を断ち切ったのは、ソファの一番遠い端に座っていた、気弱で幸薄そうな外見だがよく見ると可愛らしい顔立ちをしてる、薄ピンク色のベアワンピースにカーディガンを羽織った一人の少女だった。
「えっと確か…、花園さん?」
「は、はい!は、花園桜、です。」
彼女は14人の集まった視線に少しだけ萎縮しながら、彼女が座るソファの後ろに立てかけてある大きな紙袋を前に出した。
「あ、あの。私、皆さんが何をするか、わからなかった、から…。その、もし、何も予定が無ければ…、じ『人生ゲーム』、し、しませんか!?」
◇ ◇ ◇
花園桜は後悔していた。
身の丈知らずに一般家庭の自分が星条学園に入学したことも、引っ込み思案で人との会話が得意で無い自分があつかましくクラス親睦会に参加したことも。
少しだけ昔の話をしよう。
住んでいたマンションの最上階に一人の美人なお姉さんが引っ越してきたのは、自分が小学校低学年のころだった。彼女はエレベーターで会うと小さい私にいつも笑顔で挨拶をしてくれて、凛とした佇まいと華やかな容姿が幼い自分にとってどの絵本で見たお姫様よりも輝いて見えた。
彼女は、星条の高等部の制服を着ていた。デザインのいいブレザーを彼女らしく着こなし、前を向いて颯爽と歩くその姿に、自分も大きくなったらあの制服が着たいと思ってしまったのだ。
勉強はあまり得意ではなかった。それでも初めての憧れを夢にしたくなくて、中学三年の間は一度も友達と外出することなく、すべての遊びを我慢して受験勉強に取り組んだ。結果は、本当にぎりぎりの補欠合格だったけど、自分は夢をつかんだのだった。これからは楽しい憧れの学園生活が始まる、そう思っていた。
それは、間違いだった。
誰も知り合いのいない中、校則どおりに着たあまり似合っていない制服は、一人でぽつんと立っていたこともあって、周りの内部生のお金持ちの生徒たちから影でくすくすと笑われた。すぐに友人が出来るだろうと思っていたクラスでは、道に迷い遅れて自分の教室に到着すれば、ほとんどの女の子グループを作り終わっていた。お嬢様そうな子にはとてもじゃないけど声をかけられないし、一般生徒らしき子達はみんな自分と違って垢抜けていた。
入学式があって、一日が過ぎ、一週間が過ぎ、一ヶ月が過ぎた。一日中顔を下げて過ごすことに慣れた自分は、きっとこのままさびしい三年間を送るのだろうと思った。無視されているわけじゃない、嫌われているわけじゃない、重要な連絡は他の外部生の子がちゃんと私にまで伝えてくれる。なら困っていることはないし、別にいいじゃないか。
…嘘。すごく寂しい。辛い。全然楽しくない。
なんでもないような顔をして心の中でずっと泣き続ける私は、斜め後ろの席を振り返る。自分と同じ外部生でありながら、このクラスの一番のお嬢様の西園寺さんととても仲がよく、特待生で頭もいい、華やかな容姿の町本さんを見た。彼女を見ると、昔憧れていたあのお姉さんを思い出し、懐かしい気分と同時に、絶対に自分は彼女になることはできないんだという現実を思い知って辛い気持ちになる。
そんな毎日を繰り返していたときに、この突拍子の無い企画が我がクラスで持ち上がったのだ。
(…し、失敗したああああ!!!)
紙袋を取り払って、一般家庭の子なら子供のときに誰でも見たことのあるはずの遊具を取り出したあと、桜は周りの無反応な様子に、下を向いて顔を真っ赤にし、あふれ出そうになる涙を必死にこらえた。
自分はなんて馬鹿なことをしたんだろう。女子高生の女子会って言ったら、パジャマの見せ合いっこだったり、メイク道具を持ち合わせて化粧をしあったり、何より恋バナ。恋の話だ。いまどき小学生だって恋バナぐらいするよ。なのになんで。
何で自分は人生ゲームなんて物を持参してしまったんだろうか…!!
ああ、自分のお子様加減にいい加減に腹が立つ。こんなのだから自分は友達が出来ないし、周りの大人っぽい子から笑われるんだ。
唇をかみ締めて、自分から言い出した提案を引っ込めることも、押し通す勇気も無いまま、体感時間にして数時間が過ぎた。
「…じ、」
沈黙を破る、誰かの小さな声が聞こえた。
恐ろしくて、でも自分で言い出した責任だからと、そっと顔を上げて、周りを見わたすと、自分の真正面の一番遠くに座っていた町本さんが目を輝かせて立っていた。
「人生ゲームだああああああああ!!!!!!懐つい!!懐かしすぎるううううう!!!!」
普段のクールで、無表情なとっつきにくさを一切感じさせない、町本さんのその喜びの雄たけびは、外部生の子を中心にすぐに転移した。
そこから、そのゲームを知らないお金持ちの方々が、興味心身にパッケージを眺める。
「花園さん!やろう!今すぐやろう!」
「百合?これ何のゲーム?」
「やればわかる!皆さんティーカップ片付けて!広げますよ!!」
私はこの学園に入って初めて心の底から笑った。
そして、この女子会に参加して、本当によかったと思った。
◇ ◇ ◇
花園さんの提案は、最高のタイミングでのアシストだった。
てっきり京香がなにか用意してくれているものだと思っていたから、全く予定を組んでいなかった私は、女子会、という言葉を頭の中で展開しながら、何をすればよいものかと困っていたのだ。
京香が女子会、と言うものを理解していないことがわかった今ならちゃんと指摘できる。そもそも女子会は、『女子が集まる会』ではなく『仲のいい女子が集まる会』なのだ。知り合ったばかりのあまり話したことのない女子が集まったところで、話はそれほど上手く進まない。はじめから親睦会と銘打ち、カラオケやボーリングを予約しておけばそうでもなかったかもしれないが、今は夜、外に出して誘拐でもされたら全国ニュースになる大騒ぎだ。
だから全員で出来るボードゲームは本当にありがたかった。
それに何より、自分が前の世界で子供のときにやったなつかしのゲームが、まさかこっちにもあるということを初めて知り、私の喜び具合は他の人の懐かしい思い出より、一線を画して気持ち悪さが有り余っていただろう。
完全にキャラを見失った気がする。反省。
ルールはやりながら教えていくことにした。
「銀行役は任せろ!バリバリ」と真っ先に手を上げて、おそらく私にしか通じないネタをかましてくれた土方佳子さんは、嬉々として偽の通貨をものすごいスピードで数える。お金好きなのかな…。
そんな土方さんの隣で、ビニールの袋に入ってある人間のピンを落とさないように、車に刺していく三浦雪子さんはそんな彼女の様子を見て、ずっと笑いっぱなしだった。この人、私の人生ゲームへの喜びようのときにも爆笑してたから、確実に笑い上戸。決定。
プレーヤー15人でやるのは初回にしては1ターンが長すぎるということで、ルールを知らないお嬢様方に自分たちが一人ずつついて、銀行役をはずし7人で始めようかと眼鏡の似合う才女こと後藤鞠さんが、みんなに提案した。
そして、病院幼馴染コンビ南&マリアのところにお父さまが勤務医として働いていらっしゃるらしく、この二人と仲のいい小牧扶美さんが、「南とマリアはルールを知ってるから曽根崎さんをフォーローよろしく」とペアを割り振ってくれた。
そんなわけで、私は京香と小梅と一緒に一つのコマを扱うことになり、他の三人ペアは瑠璃子嬢のところ、あとは、二人ペアで6つの車の模型がスタートに並べられた。
そのような感じではじめられた懐かしのボードゲームは、初プレイ者が多数いることもあって存外に盛り上がった。
「ちょっと京香。もうルーレット回さないで!いくら株で負ければいいの!?」
「これゴールまで手持ち残るか?」
「ギャ、ギャンブルルート行くわよ。巻き返しは出来る」
「「却下!」」
「あの、花園さん?このマスは何かしら?」
「えっと、あ、転職マスですよ。宮前さんはサラリーマンからアイドルに転進です!お給料が上がりますよ!」
「でも堅実な職業のほうがよかったわ…」
「…なんて、リアルな」
「行くわよ雪子!」
「へい、菖蒲嬢!」
「ルーレット?」
「回転!」
「………1」
「しょぼいっす!しょぼい上に一回休みですよお嬢!?」
「ねえ、なにかもっと効率的に稼げる方法は無いのかしら?」
「そうですね。でも梨里香さんは今も政治家ですし、普通にしていてもたぶん一位ですよ?」
「そうは言ってもよ?鞠。政治家に汚職は付き物だわ。一瞬で全財産と信頼を失うの。隠し口座用にあと倍のお金が必要だわ」
「…それは実体験ですか?何ですか?貴女、家がそうなだけに怖いですよ」
「まあ、ばれずにやるのも才能のうちよね」
「とにかく堅実に行きましょう」
「そうしましょう」
「はずれコマを引かずに」
「なるべく大きな目で」
「「我々、城ヶ崎&小牧ペアは一位のボーナスを狙う」」
「やったあ!瑠璃子ってば、また子供生まれちゃった!宗様との子供!幸せな家庭!いやーん!」
「瑠璃子ちゃんがのろけ始めましたー。みなさん制裁とご祝儀くださーい」
「というか瑠璃ちゃん。そのコマ私たちも使ってるんだからね?旦那の名前勝手に自分の婚約者にしないでよ」
「ふふ。宗様との間に女の子が一人と男の子が二人!春ちゃんと夏樹くんと秋人!」
「勝手に名前付けだしたよ。しかももう一人産む気のネーミングセンスだ」
「離婚に追い込んでやる」
「皆さんそろそろ家買って!銀行でローン組んで!あ、西園寺さんのところの貧乏チーム、そろそろ借金をどうにかしてくださーい」
一戦目が終わっても、みんなが眠くなるまで、ペアを変えて何度も盛り上がった。
戦法に各々の人生観の差異がゲームで、わいわいと話しながら、いつもは理性で制している個人の内面まで知ることができて、本当に皆の仲が深まったような気がした。
必然的に、全員が万遍なく話すことができ、半日でここまで仲良く慣れるとは思っていなかったこともあってか、私も京香も納得のお泊り会となった。
◇ ◇ ◇
「何よりみんなが優しい!話しかけてくれる!すごく嬉しい!」
「町本さん、ちょっと、怖い雰囲気あったから」
「京香が馬鹿だって知ってる私ならまだしも、他の外部生の子から見たらクラスの裏ボスを鼻であしらう勇者だもんな。九軒の件もあったし」
日付は変わり、五月四日の朝6時のキッチンである。
結局盛り上がりに盛り上がったゲームのそのままの流れで、話は普通の一般的な女子会へとシフトしていった。そのほとんどが瑠璃子嬢の婚約者さんとの惚気話だったが、くだらない会話は途切れることはなく、二階のベットルームは結局使わないまま、皆、リビングのソファや、板間続きの小さな和室で雑魚寝となった。
そんなほぼ全員夜更かしの中、何で私は、小梅と花園さんと一緒にキッチンにいるのかと言うと、まあ、有体に言えば、起こされた、いや、たたき起こされたのだ。おばあちゃんのような規則正しい生活が抜けない、藤村小梅に。
「誰が老人だ」
「…だってそうじゃない?」
「朝食作るの手伝えって言ってるの」
「じゃあ、京香も起こしてよ!」
「二回殴ったけど起きなかった」
「普段は香月さんから5、6回殴られてるんだって」
「…結構、スパルタだな、あの執事。只者じゃないとは思ってたが」
「ま、まあ、いいじゃないですか?私、お手伝い、しますよ?」
顔を洗って、歯を磨いて、お風呂に入っていないから昨日の鍋のにおいがちょっと服に残っているけど、それは気にしない方向で、私たちは髪を縛った。
眠たいながらも、この半数以上がぼけぼけなこのクラスは、自分と小梅にかかっていることを昨日ようやく理解することができた私は、相方に今朝の献立を聞く。
「昨日から仕込んでおいたフレンチトースト。ベーコンエッグ。サラダ。後は牛乳。」
なんだそれは。ものすごくおいしそう。
花園さんも私と同様の意見なのは、確認の必要も無く、二人は同時につばを飲み込んだ。
「ちなみに野菜と牛乳はさっき店から取ってきた」
「え」
「父さんには許可済み。いやあ、ここが南青山でよかったわ。電車乗らなくていいし、近いし」
「ふ、藤村さんは、料理に妥協しませんね…」
「あなたはいったいこの女子会に何を求めてるの…」
「しいていうなら新しい顧客」
結構、ちゃっかりしてた。
今度家族で行くよ。予約はそっちで工面してよね。
新しい友人の本気度に若干引きながらも、おいしい朝食が食べれるのなら私たちは全力でお手伝いをさせていただこう。このキッチンでは小梅の指示どおりにすれば、すべて上手くいくことが証明されているので、私は昨日以上に、きびきびと動いた。花園さんも手際がよく、京香なんかよりも何倍も役に立った。
…一応言っておくけれど、私、京香のこと好きだからね。愛ゆえの暴言だから。そろそろ言い訳しとかないと、この半日であの子のこと、何回けなしたか数えられない量になってきたから、ここでリセットしておこう。私と西園寺京香は親友ですよ。
役には立たないが。トラブルメーカーだが。
「…ところで、私ってそんなに怖かったかな?」
話は、冒頭に戻る。
自分がクラスの中で避けられ気味だということには気がついていたが、ほとんどが、九軒関係だと思っていた。事実、移動教室のときや、合同体育では、他のクラスの女子たちがひそひそどころか思いっきり聞こえるように、あの男の話をしていたこともあって、私はてっきり全員そうだと思っていた。
「こ、怖いといいますか…。何を考えているかわからない?みたいな。」
「あんた無表情なの、基本。一人でいるときなんか、眉一つ動かないし」
「嘘!?」
不覚だ。まさか、私の顔見知りは表情筋までもを支配していたとは。
「いつも怒った風に見える梨里香だって、あんたよりは人間味あってとっつきやすいわ」
「ああ。梨里香さんも近寄りがたい美人ですもんね?」
私の顔をじっくり覗き込んだ後、ふと思いついたように、うちのクラス、と言うより、おそらくうちの学年一の美しさを誇る、今頃和室で寝息を立てているであろうクラスメイトを引き合いに出して、小梅はそう言った。
その反応に、花園さんも合点が言ったように、頷いて賛同する。
「…あんな生粋の美人と私並べて話しちゃいかんですよ?偉い人に怒られちゃいますよ?」
いくら私がゲームヒロインとして生まれ変わったとはいえ、自分の今の顔は、ちゃんと毎朝鏡で見ているのだ。そこそこ可愛い自信はあるが、さすがにあの和風美人には歯が立たないことぐらい自覚済みである。
あまりにいろんな人に失礼なその反応に反論すべく、私がそう言い返すと、小梅は「誰だよ、その偉い人は。」と笑った。
しかし、私はそんなに無表情か…。
京香や、宮本くんと話しているときはそうでもないとは思うんだが。あと、千種さんと久永くん。
感情の起伏は激しいほうだと思うし、負けん気も強く直情型だということは自覚はあるが、どうやら自分はその内心が、表情に表れにくいらしい。新しい顔の出来にかまけて、笑顔でいることの練習をやめていたからか?前の世界では、ほんとに就職活動大変だったもの。化粧で作って、愛され笑顔の練習して。結局世の中顔だものね。いくら履歴書でいいこと書いたって結局一番の判断ポイントは顔よ。しっとるわ。
「どうすればいいんだろうか…」
「ずっと宮本としゃべってたら?」
第三者の大きな声に、私は、ばっ、と後ろを振り向く。
ドアのほうから、ここ半日放置していた親友の、えらく怒り気味かつ不機嫌、そしてとんでもない発言が聞こえ、そこには、京香が、扉に寄りかかって立っていた。
「きょ、京香!?な、え、はあ?!!!」
「ふーんだ!昨日から私ばっかり仲間はずれ!」
「お、起きなかったのはお前だ!」
「百合なんか、勝手に宮本といちゃついてなさいよ!べーっ!!」
「うぎゃあああああ」
何ばらしとんのじゃ、この馬鹿!
私は、急いで彼女の口を押さえたが、すべて言い終わった後だった。
後ろの二人の目線が辛い。小梅も「へーそうだったんだ」みたいな顔してニヤニヤするな!花園さんは目を輝かせないでくれ!頼む!
なんだこれ!?一瞬で四面楚歌!?意味わかんない!!
「べ、別に!」
「「「べつにー?」」」
「みや、もとくんの、ことなんてて…」
「「「ことなんてー?」」
「す、す…っ!」
「好きで悪いかばかああああ!!!!」
私はつんでれじゃない!!断じてつんでれ属性ではないのに!!
皆、ひどい!!
自分がとても他人に見せられない顔をしている自覚はあったので、私は熱くなった顔面を両手で覆う。まさか最後の最後に自分の恋バナをさせられるとは。油断した。
これもそれもすべての元凶である、京香を指の隙間から睨むと、彼女はさっきの不機嫌そうで、してやったりな表情を一変させて、こちらを上気した頬を染めて緩んだ口元を必死で押さえながらこちらを見ていた。え、なんだそれ。他の二人も、何その表情。
「「「か、かわいいいいいいいいいいいい」」」
「か、可愛くないしっ!!意味わかんない?!意味わかんないっ!!!」
怖い印象は払拭されたが、何かを一気に失った気がする朝食前であった。




