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私がヒロインだと気が付く話

こんなくだらない姉妹喧嘩と『初ラブ!』というゲームを思い出したのは、〈今の〉私がちょうど中学3年生の時だった。


その日は11月中ごろで、私は私立星条学園高等部に推薦入試の面接に来ていた。

この学園は、都内でも有名な幼稚舎から大学までのエスカレーター式の名門校であり、どうしてそんな学校をTHE庶民の私が受験しているのかというと、主な原因は私の従兄にある。

私の従兄の下柳圭斗しもやなぎけいと兄さんは、5つ年上で、おととしまでこの高等部に在籍していた。彼は幼稚舎から高等部までずっとこの学園にいた正真正銘のお坊ちゃんで、年に数回しか会う機会はなかったが、いつも私のことを本当の妹のようにかわいがってくれる優しいお兄さんだった。ちなみに成績優秀、立ち振る舞いも落ち着いていて、趣味の書道なんかは私がおぼえている限りでは毎年全国入賞をしていた。そんな彼の唯一と言っていい欠点は、まあ、なんというか、発言が若干変態的である、ということだ。私が小学校低学年だったころ、つまり彼が小学校高学年だったころから、「百合子は世界一可愛いなあ。どうして俺の本当の妹じゃないんだろう。あ、おば様とおじ様さえよければぜひとも養子縁組したいです」だとか「ああ、一年に2,3回しか百合子に会えないなんて神様もひどいことをする…。ところでおば様、おじ様。今日は養子縁組の書類、一式そろえてきました」だとか「ああ!!ちがいます!!入れてください!!もうおじ様から百合子を取ろうなんて考えてません!会えない方が辛いです!町本家に俺の立ち入り許可を!!!」だとか…。どこまでが冗談でどこからが本気なのかわからない圭斗兄さんの変人かつ変態ぐあいに、私の父と兄さんのご両親はいつも頭を抱えていたことを思い出す。ちなみに私の母は、あの手この手で私をそばに置きたがる兄さんの手段にいつも大爆笑だった。そんな彼も年齢を重ねるごとに破天荒な行動は落ち着き始めたが、唯一譲れないことがあったらしい。それは私の星条学園への入学である。学年が変わるたびに編入試験を受けないかだとか、中等部受験しないかなど言い寄られた。それを苦笑いと大人の対応で切り抜けるのにももう限界を感じた中学3年の春、20歳の誕生日に私の家へやってきた圭斗兄さんに、高等部の入学案内と願書を手に「俺への誕生日プレゼントだと思って出してください」と土下座されれば私には頷く以外の選択肢は残っていなかった。

幸いにも、成績は悪くなかったし、生徒会にも所属していたことから、担任に相談すると、学費が半額免除になる推薦入試を勧められた。私が星条への入学を渋っていた半分の理由が学費のこともあって、そのまま、圭斗兄さんと担任に言われるがまま推薦入試の本番を迎えているのである。



さて、ずれてしまった話を戻そう。冒頭で言った〈今の〉私とはどういうことなのか、私は、この、集団面接の控室で何を思い出したのか。

そのきっかけは、私に声をかけてきた一人の男の子であった。





「えっと…、受験番号31番の人?」


私が自己アピール文の内容を最終確認しているときだった。

目の前にふっと影が落ちて、私は顔を上げる。そこに立っていたのは、黒よりの茶髪の短髪に、星条の中等部の制服をきっちり着た男子生徒。


「俺、32番の宮本由貴みやもとよしたか。同じ面接、よろしくな!」



その瞬間、頭の中に入れていた自己アピール文も志望動機も何もかもがすべて吹き飛んだ。頭が真っ白になった、というか、脳内に今まであすれていたものが流れ込んできたような感覚に近い。その時の私は、彼の顔を見たまま目を見開いたて、数十秒固まっていたそうだ。そんな失礼かつ気持ち悪い女を放置することなく、私の意識が戻るまで声をかけてくれていた彼は、まさしくあの、宮本由貴くんで。


「ご、ごめんなさい…!ちょっと気分が…」


意識を取り戻した私は、彼に断りを入れて、あわてて女子トイレへ駆け込んだ。






そうだ。全部思い出した。

私には前世の記憶がある。

高校生だったあの時、私と〈前の〉妹は乙女ゲームの話をしていた。タイトルは確か…『初ラブ!』…いやそれは正式名称じゃなかったはず…。そう。そうだ。『初めての恋をはじめよう!』だった。

パッケージに写るメインヒーローの顔とその背景には星条のエンブレム。

そして、無理やり読まされた説明書のキャラクター説明の項目で、どの男の子よりもはじめに載っていたプレイヤーの身代わりであり、主人公であり、ヒロインの立ち絵。肩まで伸びた黒髪と、猫目の一重まぶた。デフォルトが無表情な顔。そして…、


「名前…。町本百合子まちもとゆりこ……」


鏡に映る自分の顔とヒロインの共通点の多さに視線をそらすことができず、そして決定的な名前の一致に絶望した。

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