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一宿一飯の恩6



「認知どころか戸籍すらねえよ俺。とりあえず、通訳だサクラ」


 なぜかは分からないが、自分達を親と認識している眷属。小さな姿、たどたどしい言葉。人としてその子を放り出すなんて出来ない。借りは作りたくないだの、知らない女と子育て出来るか、なんて言ってられやしねえ。


「はっ、はい。任せて、あなた」

「あなたは勘弁してくれ、せめて呼び捨てまでだろ。まずおっさん達に、この街に飛ばされた俺をわざわざ捜して服まで与えてくれた事に感謝を。その上で厚かましいお願いだが、その子の服も用意してもらえるかどうか聞いて欲しい。誓って借りは返すからお願いできないかと」


 ちょっと不満気なサクラが、流暢な現地語で通訳を始める。

 なぜ、俺はこの言語を理解出来る。サクラに至っては、理解して使いこなしている。

 眷属。だだでさえ不思議現象なのに、出て来たのは子供。その子は俺とサクラをパパママと呼んだ。

 そしてこの痛み。召喚の壷に血を満たすため刀を抜いて切先で掌を軽く切ったが、血はすぐ止まり傷口も跡形もなく消えた。だが、痛みが引く事はなかった。その痛みは今も続いている。 

 まだある。仕方なく掌に刀を突き立て、傷が塞がる度にそれを抉って壷に血を満たしながら刀の刃を確認すると、刃は少しも鈍っていない事に気がついた。痛みを堪えて骨に刃を寝かせてこそいでみてもだ。血も脂も巻かず刃は鈍らない、俺の知識では日本刀はそんな武器ではない。

 思わず考え込んでいると、皆が俺をじっと見ていた。


「申し訳ない。つい考え込んでしまった」


 通じなくても謝罪して頭を下げる。


「頭を下げる必要などありませぬ。魔法神の神子姫より、神子様が何も知らされず御来臨なされた事と、なぜか我等の言葉を理解だけされている事はお聞きしましたので、混乱なさるお気持ちは分かります」

「ありがとうございます」

「服は今取りに行ってくれてるって。借りに関しては、武神に仕える者に武神の神子様がそんな事をおっしゃってはいけないって困ってるみたい。他に伝える事はある?」

「神子だなんだと言われても、その子を守り育てながら好きに生きると」

「誓って、誰にも神子様の邪魔はさせませぬ」


 通訳を聞いてすぐに大神官が言う。邪魔なモン排除しろ、って意味じゃねえんだけど分かってんのかな。


「続きを頼む。婆ちゃんに心からの感謝を。そして、日本人にとっての一宿一飯の恩の意味を。俺に何かあればサクラとその子をよろしくお願いしますと」

「最後のは余計な気がするけど、伝えるわ。戸籍の話も聞いてみるね」

「お互いに覚悟決めたからか、やけに気安く話してんのな、俺達。戸籍作るなら条件付けねえと。異世界とやらには、三大義務と権利なんてないだろ。納税はする。兵役は拒否する。身分制度は知らんが、理不尽な要求は飲まない。それが通るなら任せる」

「了解。たしかに覚悟決めるしかないよね、腕の中に小さな命だもの」

「そして、だっこ交代。話しながらでいいからメシ食わしてやってくれ。俺には、さっきキセルと煙草頼んでただろ。水を一杯と一緒にくれ。外で頭冷やしてくる」

「これが煙草セット。灰皿はこれ。水はこの水筒ね。火は外に篝火があるわ。悩むのもいいけど、この子の名前を早く決めてあげて」

「名前は俺だけで決めたくねえぞ?」

「後で話すけど、私が日本にいたのは五歳まで。それからも日本語に触れる機会は多かったけど、ニュアンスなんかに自信がないの。だから案だけでもお願い」


 増えた悩みに戸惑いながら外に出ようとすると、ジェイクのおっさんが椅子を持って着いて来た。なんでそんなに嬉しそうなんだお前さん。


「いやあ、うちも尻に敷かれてまして」


 マジで敷物にしたろかこの熊!



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