一宿一飯の恩5
「ご無事ですか神子様ーっ」
「神子様っ」
視界を塗りつぶした光はすぐに引いた。
天幕に駆け込んできた大神官と帯剣司祭が、呆然と俺達を見つめる。
「トマトちゃん、説明任せた」
「誰がトマトちゃんですかっ! 私にも何がなんだか分かりませんよ。母様は爆笑してますし」
困り果てた口調だが、目は俺の腕に抱かれる生き物に釘付けだ。この生き物が寝ていなければ、抱き上げて頬ずり位はするに違いない。
一応、唇の前で人差し指を立てて見せる。
「なら通訳頼む。眷属召喚を試みていたところ」
「はい。眷属召喚を試みていたところ」
おっさん二人が、神の奇跡だの流石は神子様だの騒ぎ出す。「てへっ」ってな感じに舌を出した婆ちゃん大神官には薬が効かないか。
「天幕の入り口に聞き耳を立てる、我等を疑い監視する不心得者がいるのに気付き」
「えーっと、誰かが聞き耳を立ててるのに気付きまして」
柔らかく言いやがった。
それでもおっさん達は顔面蒼白。「罰はいかようにも」と覚悟を決めたらしい。言い訳しないとか偉いな。でも、こんなんで罰なんか与えんて。にしても、土下座で謝罪するとか何でこんなに日本人っぽいんだこいつら。
「話しは最後まで聞け。聞き耳立ててるお前さん達をからかって遊んでやろうとして、悪ノリでエロい感じに眷属召喚したら子供が俺の腕ん中にいた。以上」
そこまで言うと、腕の中で寝ていた子供がもぞもぞ動き出した。
桜が慌てて通訳をしているが、子供が気になりすぎて適当になっている。まあ、からかった事さえ伝わればいい。
「ぱぁぱ」
なんとびっくりパパ認定。
「ぱぁぱ?」
子供の発音を真似てみる。正しい発音は「パパ」ですよ、と教えてくれる桜の瞳はキラッキラしている。
「まぁまー」
「ええそうよ、私がママよー」
そうなりますよねー。
やはり、眷属召喚の壷に桜の髪を一本入れてから俺の血を注いだのはまずかったか。俺よりも桜の方を守って欲しかったからなのだが、逆に俺達が眷属の子供を守る事になるとは。
「柴さん。魁人さん。・・・いえ、カイト」
キリッ。デレッ。と俺を呼び、最後に呼び捨てと来た。
「認知してくれますねっ!?」