一宿一飯の恩4
「どうです、二百メートルは先の酒場までトイレを借りに行き、見えない何かにぶつかったりしましたか?」
「なかった。ついでに言うと、見えていない人の気配や声も。頬を抓ってみたら痛みを感じるし、便所の臭いもあった」
「なら次は、味覚や満腹感を試しましょう。まだまだ信じられないみたいですから」
「とりあえず、水を貰えたらありがたい。信じさせる手はまだあるんだろう?」
トマトちゃん改め、藤井桜が整った眉を曇らす。
渡された水が美味い。
「あまりお勧めしないんですけどね。母さま、じゃなかった。神様はこれなら信じるしかないだろうと言ってます」
「ならやろう。正直、水の美味さも喉や胃に染みて体に取り込む感じも、リアル過ぎて頭がおかしくなりそうだ」
「普通なら、怖くて暴れたり思考を放棄する状況で、更にそれが現実だと理解させられようとしてるんですもの。本当に、ごめんなさい」
「謝るのは俺だよ。悪いけどもうちょっと付き合ってくれ」
「こちらこそです。うちの神様が言うプランは二つ。一つは眷属召喚。これは自傷行為を伴うので、すごく痛いから信じるだろう、と。具体的に言うと、神様が用意した壷に血を満たすみたいです。で、神様素材を使っての召喚だから可愛い子犬が来ることはない。夢なら都合良くふわふわの子犬が来るはずなのに、だから信じると。柴さん、わんちゃん大好きですもんねー」
「・・・なんで俺が犬好きなの知ってんだとか物凄い疑問なんだが、痛みはまあ分かる。でも召喚とか夢の要素満載で逆になあ」
「その疑問はこの状況を信じて貰えたら説明するとして。だから神様はもう一つの方をお勧めするみたいです」
顔を真っ赤にしてちらちら俺を見る時点で、二つ目のプランのろくでもなさが知れる。
「わ、私達は夫婦神様の神子なので、結ばれたときの充実感が有り得ない位だそうです。で、そのー。信じられない充実感プラス五感全てがある事の確認プラス体が別の場所に寝てるなら絶対に起きるくらいに、あれをその・・・」
出来るかボケー!
冷たく滑らかな曲線を指の腹で撫で上げると、頂の突起に辿り着く。
右から撫で上げ、左へ撫で下ろす。
頂に触れながら、上下へ動かす事はしない。左右に指を動かして、頂のざらついた感触に酔う。
「はあーっ」
吐息を漏らす。
硬く目を閉じて眉根に刻んだ皺は、彼女の後悔を表しているのか。後悔は、させない。痛みを押さえるために、出来るだけゆっくり上下左右に動かす。
くちゅくちゅぐちゅり。
音を聞いた桜が目を見開いて俺を見つめる。
「もうやめてっ。血が、血がっ」
「ここでやめられる訳ねえだろっ。黙って目ぇ閉じてろ。もうすぐ終わるっ」
「そんなっ。ああっ」
限界が近い。
上下運動を早める。夜明けも近い。来る。本能で、それを感じた。
暴力的なまでの光が、瞼の裏に溢れた。