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一宿一飯の恩3



 全裸からの、卒業。

 おめでとう俺。

 だがしかし、まだ夢は終わらないらしい。

 

 神子様神子様とはしゃぐおっさん達から少し距離を置いていた少女達の一人が突然、「はい。えっ。了解しました、待機します」なんてぶつぶつ言い出すと五分も経たずに、老いも若きも揃いの白い貫頭衣を着た大勢の女性達がやって来た。

 見事な立ち居振る舞いで自己紹介してくれたお婆ちゃん大神官の話を要約すると、うちの神様からも神託あって神子様来るよ、うちとそちらの神様は夫婦だから君達二人もそんな扱い、だからまだここいてね、と言う事らしい。

 はい、自己嫌悪さらに倍!

 つまり、俺が見ている夢は「たくさんの人前で全裸になり見つからないかひやひやしながら飲食や排泄を我慢して」「黒鞘の日本刀だけを手に」「自分より年上のおっさん達にミコサマと呼ばれ」「口説く手間のいらない女を嫁にする」だ。つまり、「ドMの露出狂で中二病な自己顕示欲の強い男が女を人間扱いせずに陵辱する」となる。

 起きたら出家するレベルの悪夢だなおい。

 

 俺が半日隠れていた植え込みを囲うように純白の天幕が張られ、整列した女達が左膝を地に着けて頭を垂れている。

 突然、おっさん大神官が土下座する勢いで謝罪を始めた。分かってるから大丈夫、そんな気持ちを込めて肩をポンポンと叩く。ちなみに、夕暮れ時におっさんが受けた神託は「俺が選んだ男をその街に送ったから、服とか渡して後は本人の望むように」だけらしい。


 天幕の出入り口の布が揺れる。自分でも気づいていない隠された性癖が披露されるような事にだけはなるなよ。

 ちょっと若いがかなりの美人。そしてやはり日本人か。無難だな。

 

「皆さんもお立ちになって下さい。敬うべきは神であり、私は神ではありません」


 お婆ちゃん大神官を手ずから立ち上がらせた美人ちゃんがこちらの言語で言う。日本人ちゃうんかい。

 

「それと、あの方への説明を頼まれています。かなり時間がかかると思いますので、このお金で天幕の中に飲み物と食事をお願い出来ますか?あの方はもう半日以上、飲まず食わずなのです。出来たら煙草管と葉もお願いします」


 その言葉に慌てたのはおっさん達だ。「気の利かぬ不明をお詫びいたします」だの「金はこちらが」だの言ってるうちに、美人ちゃんが目に見えて不機嫌になっている。


「悪気がないのは理解してますので、一度だけ簡潔に説明します。彼はあなた達に、水や食事を欲しがる素振りを見せなかった。差し出されても、受け取る気がないからです。今着ている服でさえ、女性がここにいなければ受け取らなかったかもしれません。それが、柴魁人という男性です」


 キリッ、と締めた美人ちゃんが真剣な顔で俺を見る。まさか俺には、年下のきつめな美人に尻に敷かれたい願望でもあるのだろうか。だとしたら、夢精で目覚めるためのプレイは・・・


「あ、あのー柴さん。信じてもらえないとは思いますが、柴さんがこの世界を夢ではなく現実だと認める助けになるからと、この世界の神が柴さんの思考を読んでそれを私に神託で伝えています。顔は見えませんが絶対ニヤニヤしてます。今晩してあげなさいとか言われてます。危険です」


 初心なのねー。顔真っ赤。命名、トマトちゃんに変更。

 それよりも、夢に夢を否定されるか。妄想の線も否定されそうだな。なんだこれ。


「夢でも妄想でもありません。柴さんの体は、病院でもマンションでも東京の片隅でもなく、ここにあります。とりあえず、トイレを済ませて来て下さい。天幕で一息入れたら、簡単に信じてもらえるかもしれない方法を試しましょう」


 仕方ない、確かに尿意も限界だ。部屋か病室か外かは分からんが、ぶち撒く覚悟で便所に行くか。まあその前に、壁なりなんなりに当たって目が覚めるだろう。瘤くらいなら笑い話、死んだら死んだで俺らしい最後だ。

 

「じゃあ、逝ってくる。それよりも、名前は?」

「死ぬ覚悟を決めてから、名前を聞きますか普通」

「理想の女の名前も知らずに死ねるかっての」


 再び真っ赤なトマトちゃん。ダメだこりゃ。



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